KADOKAWA Technology Review
×
【4/24開催】生成AIで自動運転はどう変わるか?イベント参加受付中
「保護」から「共有」へ大転換、EUの新データ戦略は何を意味するか
Photo by David Werbrouck on Unsplash
倫理/政策 Insider Online限定
The EU is launching a market for personal data. Here’s what that means for privacy.

「保護」から「共有」へ大転換、EUの新データ戦略は何を意味するか

欧州連合(EU)は2月、個人データの保護を重視する従来のデータガバナンス戦略を転換し、市民の個人データの共有と収益化を促進するトラスト・プロジェクトを2022年までに立ち上げることを発表した。 by Anna Artyushina2020.08.18

欧州連合(EU)は、長い間、プライバシー規制での先駆者であった。EUの一般データ保護規則(GDPR)と厳格な独占禁止法は、世界中で新たな法制が生まれる原動力となった。何十年もの間、EUは個人データの保護を制定法化し、個人の秘密の商業利用とみなされる行為と戦い、米国の緩やかなプライバシー政策とは堂々たる対照をなしてきた。

しかし、新たな欧州データガバナンス戦略は、これまでとは根本的に異なる態勢をとる。EUは同戦略で、市民の個人データの使用と収益化を促進する積極的な立役者となるつもりだ。2020年2月に欧州委員会が発表した欧州データガバナンス戦略は、今後5年間に展開される政策と投資の概要を示すものだ。

この新戦略は、欧州連合の重点が、個人のプライバシーを保護することから、データ共有を市民の義務として促進することに一大転換したことを示している。具体的には、データトラスト(データ信託)と呼ばれる仕組みにより、個人データの汎欧州市場を創設する。データトラストは、市民のデータを市民に代わって管理し、顧客であるそれらの市民に対して信認義務を負う管理者である。

欧州データガバナンス戦略では、個人データを欧州の重要な資産とみなす。しかし、このアプローチはいくつかの問題も引き起こす。第1に、EUが自ら収集した個人データから利益を得ようという意図は、産業を規制する欧州の政府の立場を弱める。第2に、データトラストの不適切な使用は、市民自身のデータに対する権利を事実上、はく奪することになり得る。

この新たなEUの政策で提示された最初の取り組みである「トラスト・プロジェクト(Trusts Project)」は、2022年までに実行されることになっている。700万ユーロの予算を投じる同プロジェクトでは、個人および非個人の情報の汎欧州共同体を設立する。それは、市民の情報にアクセスしようとする企業や政府のためのワンストップ・ショップとなるはずだ。

世界中のテック企業は、欧州在住者のデータを保存したり移動したりすることを許されず、トラストを通じてアクセスしなければならない。市民は「データ配当」を受け取ることになる。「データ配当」は、明確に定義されていないが、自分の個人データを使用する企業からの金銭もしくは金銭以外の支払いなどかもしれない。欧州の約5億人の市民がデータソースとなるこのトラストは、世界最大の …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【春割】実施中! ひと月あたり1,000円で読み放題
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る