KADOKAWA Technology Review
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カメラは何を見ていたのか?
世界有数のAI監視地帯で
移民が亡くなっている
Annie Barker/Times of San Diego/CatchLight Local/Report for America
人工知能(AI) Insider Online限定
She died at the San Diego border. A surveillance camera was in plain sight

カメラは何を見ていたのか?
世界有数のAI監視地帯で
移民が亡くなっている

2025年9月、米国境を越えた30歳のメキシコ人女性が、連邦政府の監視塔から1.6キロの丘の中腹で亡くなった。国境付近には120基以上の監視塔が並び、2022年から2025年に少なくとも138人が監視範囲内で死亡している。MITテクノロジーレビューの地形分析では、その半数以上は視界を遮られることなく見えていたはずの位置だった。 by Lillian Perlmutter2026.09.29

この記事の3つのポイント
  1. サンディエゴ国境地帯で監視カメラの範囲内にもかかわらず多数の移民が死亡している実態が判明
  2. AI監視塔に10億ドル超を投資するも故障や地形の死角、単独移民への対応軽視が背景にある
  3. 監視強化がより危険な迂回ルートを誘発し、今後さらなる死者増加が懸念される
summarized by Claude 3

彼女はほんの数時間歩いただけなのに、もう道に迷っていた。

2025年9月14日の昼過ぎ、30歳のグラシエラ・ゴメス・エルナンデスは、メキシコの都市・ティフアナの東端から米国との国境を越えて南カリフォルニアへ入った。歩きながら母親と姉に音声メッセージを送っていた。

この記事は、MITテクノロジーレビューと『タイムズ・オブ・サンディエゴ(Times of San Diego)』の共同企画記事『カメラの前で死ぬ(Dying on Camera)』の一部である。両報道メディアのジャーナリストたちはおよそ1年間かけて国境監視技術の欠陥を検証し、国境地帯で命を落とした人々の物語を明らかにした。

ゴメス・エルナンデスは、前日まで自分の計画を家族に話していなかった。カリフォルニア州に着いたらそこで働き、メキシコ南部で暮らす3人の子どもたちと両親に仕送りしたいと考えたのだ。11歳になる長男は自転車を欲しがっていた。

ゴメス・エルナンデスは国境壁をはしごでよじ登ったか、あるいはまだフェンスが建てられていない急斜面の区間をすり抜けて米国に入った。ヤマヨモギやマンザニータが生える丘の中腹には、何十本もの獣道がほこりっぽい地面の上を通っている。そこは、原生自然保護地域であるオタイ・マウンテン・ウィルダネスを通る徒歩ルートの最初の区間だった。

サンディエゴの東端までは1.6キロほどしか離れていない。だが、数え切れないほど多くの移民たちが国境警備隊の目を逃れるため、北へ16キロあるいは32キロも歩いて山を越え、検問所の数が比較的少ない小さな町や遠く離れた幹線道路にたどり着く。

ゴメス・エルナンデスは午後2時から3時の間に最後のメッセージを母親に送ったと、彼女の姉は話した。「もう無理」と、ゴメス・エルナンデスは小さな声で携帯電話に向かって言った。2週間後に法科学チームが遺体の回収に来た頃には、彼女の体のほとんどが土の中に消えていた。

ゴメス・エルナンデスは1人で亡くなったが、厳密に言えば1人きりではなかった。彼女がいた場所は、世界で最も厳重に監視されている地帯の1つだった。

ゴメス・エルナンデスは亡くなる前、家族にWhatsApp(ワッツアップ)のメッセージで、頭上にヘリコプターが見え、下の道路を国境警備隊の白いトラックが定期的に行き来していると伝えていた。たとえそれらの隊員の誰も彼女に気づいていなかったとしても、あるいは彼女が危機的状況にあるとは分からなかったとしても、別の何かがはっきりと彼女を見ていた。細長い灰色の監視塔が、近くの丘の頂上からその地帯全体を監視していたのだ。

2019年から設置されているジェネラル・ダイナミクス(General Dynamics)製のその塔は、電気光学式カメラと赤外線カメラを2組備えており、約8〜11キロ離れた場所にいる目標物を追跡することができる。ゴメス・エルナンデスは、そこから1.6キロほどしか離れていなかった。

近年、監視塔の数が急増している。請負業者が、より最新のカメラシステムを新たに設置しているためだ。それらのシステムは、人工知能(AI)を使って越境者を他の人々や動物と区別し、動きを追跡することができる。その導入費用は全体で10億ドル以上にものぼる。

しかし、カメラがその一帯を見渡すように監視する中で、移民たちは人目につく場所で亡くなり続けている。

過去20年間に何千人もの移民たちが、国境を越えようとしている間に命を落としてきた。その多くは、国境警備隊の監視施設の近くで亡くなっている。しかし、この現象は、サンディエゴ近郊のオタイ・マウンテン・ウィルダネスで特に目立つ。

タイムズ・オブ・サンディエゴの分析によると、カリフォルニア州の国境沿いで発生した死亡事例は数百件にのぼる。そのうち少なくとも138件が、過去4年の間に起きている。現地では、まさに移民の追跡と阻止に役立てることを目的に設置されたカメラの監視範囲内で、移民たちの遺体が発見されている。

MITテクノロジーレビューによる調査の一環として実施された地形(トポグラフィ)分析によると、それらの遺体の半数以上は、カメラからの見通し線が地形によって遮られることなく、その人物がはっきりと見えるであろう位置で発見されたと推定された。

そうした移民の中には、国境壁から転落したり、運河や川で溺れたりしてすぐに死亡した者もいる。しかし数十人は、荒野で厳しい環境にさらされ、ゆっくりと死んでいった。緊急援助があれば防げたかもしれない死である。

南カリフォルニアで亡くなった人々は、国境のすぐ向こうからやって来た者もいれば、アフリカのような遠い場所から来た者もいた。70歳の高齢者もいれば、5歳の幼い子どももいた。彼らは暑さや寒さの中で亡くなった。しかし、その全員が、監視カメラのカバーする範囲内で亡くなったのだ。

2023年7月に発見された36歳の女性、マルシア・ドゥトラは、ブラジルからやって来て、国境フェンスのそばで暑さにさらされて死亡した可能性が高い。検視報告書によると、移民の一団が、逮捕された際に国境警備隊に彼女の遺体のことを伝えたという。AIを搭載した監視塔は、台地の端から北東へ約610メートル離れた場所にあり、彼女が発見された斜面はその視界の範囲外だった。

2024年2月に発見された28歳のメキシコ人男性、エルヴィ・バスケス・ボルトロンは、国境壁近くの尾根でおそらく低体温症により亡くなった。ヘリコプターに乗った国境警備隊員が上空から彼の遺体を発見したとき、すでに死後5日以上経っていた。そこから約430メートル離れた場所に遠隔映像監視塔が立っているが、峡谷の上の尾根によって視界が遮られている。

2024年8月に発見されたメキシコ出身の51歳の男性、ラモン・モンテネグロは、ダルズーラ近郊の山中で熱中症と考えられる症状により死亡した。丘の向こう側に隠れて立っているAI監視塔は、約400メートル離れている。その距離は、サンディエゴ動物園の駐車場の長さとほぼ同じだ。

電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)が収集した文書や実地観察記録によると、カリフォルニア州の国境沿いには120基以上の監視塔が建っている。

監視塔だけが、この地域における監視形態ではない。国境一帯が、トレイルカメラ、地中の動体検知装置、レーダー、赤外線センサー、ドローン、さらには飛行船で構成される相互接続ネットワークで覆われている。2025年3月にトランプ政権は、国防総省に対し、人工衛星も利用して国境を監視するように指示した。

山や植物によって監視塔の視界が遮られる場合でも、他の装置で痕跡を検知することができる。地元の移民擁護者たちは、オタイ・マウンテン・ウィルダネスの監視技術を避けることはほぼ不可能と話す。

当局によると、監視塔は通過する移民の追跡に特に優れているという。

米国・メキシコ国境に現在設置されている監視塔の約半分を製造している企業アンドゥリル(Anduril)は、2024年のニュースリリースで、同社の監視塔が「人命の救助や米国への違法薬物の流入阻止に直接貢献した」と述べた。2026年6月には、同社の装置が「数十万件の越境行為を自律的に検知した」と述べている。

アリゾナ州の国境警備隊で管轄区責任者を務めるジョン・モリスは、2026年5月に開催された総会でメディアに対し、「あともう少しで、国境を越えてやって来るほぼすべてのものを把握できるようになります」と話した。

これほど多くの死亡事例が高解像度カメラのすぐ近くで発生していることで、2つの明確な可能性が浮かび上がる。危険な状態にある人々をシステムが検知しなかったか、あるいは検知したにもかかわらず当局が何の対応もしなかったかのどちらかだ。

AI搭載監視塔を製造する防衛請負業者のアンドゥリルは、山岳地帯における監視塔の性能について問い合わせたタイムズ・オブ・サンディエゴの質問に回答しなかった。

ゴメス・エルナンデスの遺体に最も近い監視塔の製造企業ジェネラル・ダイナミクスの担当者は、すべての質問の回答を国境警備隊に委ねた。

タイムズ・オブ・サンディエゴは国境警備隊に対し、監視塔がゴメス・エルナンデスを死亡前に検知していたかどうか、あるいは緊急事態にある人々を検知するために監視カメラがどのように使われているかということについて質問を送ったが、回答は得られなかった。

捜索救助団体であるデザート・エンジェルズ(Desert Angels)のリーダー、ラファエル・エルナンデス・ラレンサによれば、監視塔の一部は「単なる飾り」に過ぎず、実際には移民の追跡に効果的ではないという。またエルナンデス・ラレンサは、時折実施される国境警備隊と同団体との会合で、隊員たちが「十分な時間がなくて捜索する機会がないと言っています」とも話す。

救助を必要としている人々は国境警備隊にとって「優先事案ではありません」と、移民支援団体であるノー・モア・デス(No More Deaths)で移民の遺体に関する調査結果をまとめているブライス・ピーターソンは述べた。

厳重に監視された荒野

グラシエラ・ゴメス・エルナンデスの遺体が発見された場所からはっきりと見える位置に、監視塔が立っている。

その塔は約1.6キロ離れている。丘の向こう側にあるもう1つのより新しい塔までは、約2.2キロある。どちらの塔も、ゆっくりと回転する望遠カメラを備えている。

この2つのうちより近い方の塔は、2層になった国境フェンスの間に位置しており、高さ30メートルを超える長いポールが空に向かってそびえ立っている。そこから、移民たちが歩く丘の中腹だけでなく、ティフアナの住宅街にある色鮮やかなコンクリートブロック造りの家々も見つめている。

2つ目の塔ははるかに低くて約10メートルの高さしかなく、ゴメス・エルナンデスが歩き続けていたらたどり着いていたに違いない峡谷を見渡している。

アンドゥリルが建設したこの新しい塔は、監視範囲内を移動する物体が監視対象とすべきものなのかどうか、自ら判断する。ポールに取り付けられた暗い色の2つの円形のカメラは、まるで目のような印象を与える。それらがゆっくりと回転し、ターゲットを捉えていったん動きを止めた後、また回り出して別の方向へと向きを変える。

移民が通るサンディエゴ近郊の道沿いに水や物資を残している団体であるボーダー・エンジェルス(Border Angels)でボランティア・コーディネーターを務めるオスバルド・ルイスによれば、オタイ・マウンテンの荒野には「山の至るところに監視装置」があり、「国境に面した多くの山々を広く監視することができます」という。

「移民や旅行者が通る可能性のある侵入エリアには、見つからないようにカモフラージュされたカメラも、岩や茂みの中に隠されています。また、道路上の見えるところにもカメラがあります。それらのカメラは安全コーンの後ろに固定されたナンバープレート読取装置を備えており、その場から離れていく車のナンバーを読み取ります」。

監視塔はこの地域に2011年から存在し、2018年にはAI制御の監視塔が導入されるなど、新たな設備が頻繁に設置されてきた。現 …

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