スマートグラスが普及するインドで広がる「同意なき撮影」被害
スマートグラスはインドのウェアラブル市場で最も急成長しているデバイスの1つだが、カメラに見えないため、撮影される側は録画に気づけない。トランスジェンダーの権利を訴える抗議活動に参加していたトランスフェミニンの当事者が無断で撮影され、その動画は嘲笑的に編集されて数百万回再生された。警察も抗議者の撮影にメタのグラスを使っており、被害は個人間の「いたずら」にとどまらない。 by Anuj Behal2026.09.24
- この記事の3つのポイント
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- スマートグラスによる無断撮影がインドで深刻化し、マイノリティが標的となる被害事例が急増している
- 警告LEDの無効化改造や法整備の遅れにより、プラットフォームや法律による保護は実効性を欠く
- メタの次世代AIグラスはLEDを作動させずに周囲を記録する機能を持ち、監視の常態化が進む恐れがある
シュブナムが新居への引っ越しのために荷物を箱に詰めていたとき、友人からInstagram(インスタグラム)の動画が送られてきた。その映像は数時間前に投稿されたばかりだったが、撮影されたのは数日前のことで、インドのトランスジェンダーの人々に対する法的認定を狭める法案に反対する、今春のデリーでの抗議活動を記録したものだった。
そこで、炎上系動画で知られるコンテンツ・クリエイターが、38歳のトランスフェミニンのグラフィックデザイナー兼教育者であるシュブナムに近づいてきた。シュブナムは自ら選んだ1つの名前のみを使用しており、頭を剃り、緑のサリーをまとっていた。そのクリエイターは、なぜ「女性の服」を着ているのかと尋ねた。シュブナムは、やめるよう告げた。動画が届いて初めて、彼が普通のWayfarer(ウェイファーラー、レイバンの定番サングラス)に見えるようデザインされたメタ(Meta)のスマートグラスで、そのやり取りを録画していたことに気づいた。
嘲笑するように編集されたそのリール動画は数百万回再生され、トランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)的な誹謗中傷やリアクション動画、AIが生成したミームも拡散した。InstagramからX、YouTube(ユーチューブ)へと広まり、コピーは現在もネット上に残っている。
シュブナムにとって、この動画は甚大な被害をもたらした。「同意なしに撮られた1本の動画だけで、自力で積み上げてきた20年分の前進が巻き戻されてしまいました」と、シュブナムはMITテクノロジーレビューに語った。「一瞬、これまで生きてきた大人としての人生全体が長い明晰夢に過ぎず、目を覚ましたら、また何も分からなかったあのクィアの子どもに戻ってしまうような気がしました」。シュブナムはそれ以来、自分の住む地域の外ではサリーを着ていない。
専門家たちは、スマートグラスが普及するにつれて、同様の被害に遭う人が増えると警告している。また、インドでは隠し撮りや同意なしでの画像拡散がすでに蔓延しており、プライバシーの問題がとりわけ深刻になっていると指摘する。
サイバーストーキング、セクストーション(性的脅迫)、ディープフェイク、その他のネット上の嫌がらせの件数は同国で増加している。しかもインドの法執行機関自身が、顔認識システムや独自のAI搭載スマートグラスを含むAI監視ツールを積極的に導入しつつあることから、スマートグラスのような技術が規制される可能性は低い。
不平等な負担
調査会社のIDC(International Data Corporation)によると、スマートグラスはインドのウェアラブル市場で最も急成長しているデバイスの1つだ。また、同国最大手の通信会社の1つであるリライアンス・ジオ(Reliance Jio)は、今年後半にメタのグラスに対抗する105ドル未満の製品を発売する予定だとしている。一方、メタの最新モデルはインドで420ドルする。
プライバシーをめぐる核心的な問題は、これらのカメラがカメラのように見えないため、撮影されている人が録画に気づかない可能性があることだ。しかし、プライバシーと新興技術を研究するオックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールの博士研究員、ヤヌシュ・シフィエルチンスキは、メタはプライバシー侵害から人々を守る責任が自社にあるという考えを退けていると指摘する。
「ますます、周囲にいる人の側に自分の身は自分で守ることが求められるようになっています」。つまり、録画中に作動するグラスのフレーム上の小さなLEDを自分で見つけなければならないということだ。シフィエルチンスキによれば、メタは着用者が責任ある行動を取ることにも依存している。リライアンス・ジオは、発売予定のグラスに関するプライバシー上の問題についてのコメント依頼に回答しなかった。
クリエイターたちはすでに、メタのグラスの録画ランプを回避する方法を実演している。チュートリアルでは、録画を続けたままLEDを覆うなどして見えなくする方法が紹介されている。今年3月には、ワイアード(Wired)が、ランプを物理的に無効化したり完全に取り外したりする「ステルスモード」改造の市場が存在すると報じた。
こうしたことすべてが隠し撮りを容易にしており、そのリスクは誰もが平等に負っているわけではない。シフィエルチンスキは、目立たないデバイスによって同意なしに映像を撮影・拡散される場合、シュブナムの事例のように、女性やその他の社会的に疎外された人々がより大きな被害を受けると指摘する。
しかし、より大きな問題は、インドではスマートグラスが単に一般の人々をバイラルな「いたずら」の標的にするためだけに使われているわけではないことだ。警察による監視のツールとしても導入されつつある。
6月、数千人の若いデモ参加者が同国の教育制度の問題に抗議するために集まった際、デリー警察は彼らを撮影するためにメタのスマートグラスを使用した。実際、ジャワハルラール・ネルー大学学生連合の元会長アイシェ・ゴーシュがデリー高等裁判所に提出した申立書では、警察が食事中や休憩中も含め、数週間にわたって抗議者を継続的に撮影したと主張している。また、警察が学生デモ参加者の映像をその親や大学に送ると脅したとも主張している。
7月、インドのソリシター・ジェネラル(政府の法務官)は法廷でこの訴訟を「ぜいたくな訴訟」として退けた。学生の訴えを調査する代わりに、警察は逆に学生たち自身に矛先を向け、暴動、公務員への暴行、公共財産の損壊などの容疑で10件の刑事捜査を開始した。匿名を条件にMITテクノロジーレビューの取材に応じた抗議者の一部は、デモ中に警察が着用していたメタのAIグラスのLEDが点灯しているのを一度も見なかったと述べている。
同意なき撮影
メタは自社の安全対策は機能していると主張している。同社はMITテクノロジーレビューに対し、「すべてのグラスには、保存または共有できる写真や動画を撮影するときに点滅するキャプチャLEDが搭載されています。このLEDをオフにすることはできず、誰かが覆ったり損傷させたりすると、カメラが無効になります」と述べた。また、法律を守り、人々のプライバシーを尊重する責任はユーザーにあるとも述べている。
しかし、特にインドでは、撮影と同意をめぐる社会規範がいまだ大きく揺れており、デジタルリテラシーにもばらつきがあるため、このアプローチにはリスクがあると、オンライン・コンテンツによる被害を受けた人々を支援するためにメタやYouTubeと連携するセーフティパートナー「メリー・トラストライン(Meri Trustline)」のカウンセラー、サミール・パルマルは指摘する。
「ハードウェアは進化していますが、この国では同意についての理解が乏しいため、目立たないカメラが害を及ぼす余地がはるかに大きくなっています」と彼は言う。単に公共の場にいるだけで、写真や動画を撮られることに暗黙のうちに同意したとみなされることが多い。彼によると、ヘルプラインでは隠し撮りや同意なしに撮影された映像に関する相談が増えているという。
「こうした無断での撮影・共有はインドで著しく増えており、今後さらに増えると予想されます」。医療現場やプライベートな場面、公共空間で人々が撮影されている。異議を唱える力が弱い人々ほど、特に被害を受けやすいと彼は付け加える。
「荒らし目的か、いたずらを仕掛けて、それを録画するかのどちらかです」とパルマルは言う。加害者は「テクノロジーを介したこうした被害がどのように起きるのかについて、十分な認識がなかったり、被害を受けやすかったりする人を狙います」。
弁護士でインターネット・フリーダム財団(Internet Freedom Foundation)の創設理事であるアパル・グプタは、インドの法律はこの新たな種類の被害に追いついていないと指摘する。「インドの盗撮や性的な画像の拡散を禁じる法律は、主にもっと典型的な形態の虐待を念頭に置いて作られています」と彼は述べ、着替え中やトイレ使用中、性行為中の人物を隠し撮りするといった犯罪を例に挙げる。「(これらの法律は)通常の公共の場で隠し撮りされ、その映像が屈辱を与えるために使われるような場合には、限られた保護しか提供しません」。
ソーシャルメディア・プラットフォームの規則も、スマートグラスで撮影された有害なコンテンツを削除するための別の手段にはなるが、即効性のある救済策ではない。「インドの現行規則では、一部の苦情について、プラットフォームには対応まで最大36時間が認められています。その間に動画がダウンロードされ、コピーされ、ほかの場所に拡散されるには十分な時間です」。
同意なしに撮影される問題は、今後さらに拡大するとみられる。フィナンシャル・タイムズによると、メタが開発中の新型グラスの一部の社内試作機には、着用者の周囲を継続的に撮影し、音声を聞き取るAI機能が搭載されている。これによってグラスは後から、自らが見聞きした内容を呼び出せるという。こうした機能では外部の録画インジケーターが作動しないため、周囲の人は自分に関する情報がいつ収集されているのか知ることができない。
メタは、写真や動画の撮影といった明示的な撮影機能についてはLEDを維持する方針だが、着用者の周囲の状況を解釈するAI機能には適用しないと説明した。同社の主張は、ランプが常時点滅するようになれば、やがてそれがあまりに日常的になり、人々が気に留めなくなってしまう可能性があるというものだ。
しかし、ボストン大学ロースクールの法学教授ウッドロー・ハーツォグは、その論理では社会が永遠に後追いを続ける状態に陥りかねないと指摘する。「テクノロジー企業には、社会がその脅威に十分に適応できる速度をはるかに上回る速さで、こうしたツールを普及させる驚異的な力があります」とハーツォグ教授は言う。「社会が追いつくころには、すでにある程度、当たり前のものとして受け入れられてしまっています」。
シュブナムにとって、危険なのは、人々が撮影されることに慣れてしまうことだけではない。自分では世の中に見せることを選んでいない自分自身の姿を目にすることに、慣れてしまうことでもある。
「自分が作ったわけでも、同意したわけでもない物語に沿って理解されること——そのように押しつけられた見方によって、人々が自分をどう知るかについて、自分には何の力もないように感じてしまいます」とシュブナムは言う。
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- anuj.behal [Anuj Behal]米国版
- Anuj Behal is an independent journalist reporting on human rights, technology, and culture in India. His work has appeared in publications including The Guardian, Al Jazeera, Thomson Reuters, Nikkei Asia, and the BBC.
