マックス・シュレイカー(MIT)

Max Shulaker マックス・シュレイカー(MIT)

カーボンナノチューブをコンピューティング用途で実用化するためのブレイクスルーを次々と成し遂げ、エネルギー効率に優れた次世代コンピューター誕生への道を切り拓いた。 by MIT Technology Review Editors2022.01.14

マサチューセッツ工科大学(MIT)のマックス・シュレイカー教授は、カーボンナノチューブを使用して有効に機能するコンピューターを世界で初めて構築し、さらに、ひとつのチップ上に演算装置、メモリ、センサーを直接組み合わせたシステムも設計した。これらの新たなテクノロジーを統合すれば、コンピューターのエネルギー効率を最大で1000倍にまで高め、低価格医療センサーなどのまったく新しいデバイスがあふれる世界を実現できる可能性がある。

カーボンナノチューブは、「要するに炭素原子ひとつ分の厚みしかないストローです」と、シュレイカー教授は言う。カーボンナノチューブが従来のシリコンチップを駆逐する可能性を研究者が語り始めて早20年になるが、カーボンナノチューブでできたトランジスタやワイヤーを実際のデバイスへと加工するのは困難であることが示されてきた。

しかし、シュレイカー教授は実用化に立ちはだかる壁のいくつかを取り去った。生産過程で異形成されたカーボンナノチューブを除去する方法を生み出し、通常の半導体製造工場でナノチューブベースのトランジスタを搭載したウェハーを製造するプロセスを開発し、一定数の不良品ナノチューブを含むチップでも正常な動作が保証されるような新たな設計を考案した。

数々のブレイクスルーはいずれも、これまで製造されたどんなコンピューターよりもはるかにエネルギー効率に優れた、次世代コンピューターシステムの誕生に向けた重要なステップだ。

シュレイカー教授の旺盛な研究意欲は、モノリシック3次元ナノシステムという、もうひとつの発明として結実した。このシステムは、マイクロプロセッサ、メモリー、その他の機能的レイヤーを、直接カーボンナノチューブの上に重ねて接合させた構造を持つ。従来の設計では、マイクロチップとメモリーが別々のチップ上にあり、ワイヤーで接続されている。しかし、大量のデータをチップ間でやり取りすることは、スピードの低下やエネルギーの浪費につながる。業界で「メモリー・ウォール」として知られる問題だ。シュレイカー教授の3Dナノシステムは、この問題を解決する。

(Russ Juskalian)