勝又秀一(産業技術総合研究所/PQシールド(PQShield))

Shuichi Katsumata 勝又秀一(産業技術総合研究所/PQシールド(PQShield))

来たるべき量子コンピューター時代を見据え、「耐量子暗号」の開発で世界をリードする暗号研究者。 by MIT Technology Review Japan2022.11.21

大規模量子コンピューターの実用化へ向けた研究開発が国際的に加速している。期待の一方で危惧されているのが、量子コンピューターの実用化によって、従来のコンピューター(古典コンピューター)では解読に膨大な時間がかかるため安全だとみなされている現在の暗号が、破られてしまうのではないか、ということである。

そこで、喫緊の課題として持ち上がっているのが、量子コンピューターに対しても安全性が保証される「耐量子計算機暗号」の開発である。勝又秀一(Shuichi Katsumata)は、「シグナル(Signal)プロトコル」と呼ばれる、世界で2億人の利用者がいる最も代表的なセキュア・メッセージング・プロトコル(SMP)の耐量子計算機安全化の完成に初めて成功した研究者である。さらに、インターネット・エンジニアリング・タスクフォース(Internet Engineering Task Force:IETF)で標準化が進む次世代SMPの安全性とスケーラビリティを大幅に高める手法を確立するなど、SMPが抱える課題を先進的なアイデアで解決してきた。

スラック(Slack)やライン(LINE)に代表されるメッセージング・ツールは、人々の私生活からビジネスにまで浸透しており、今や、利用者の最も多い情報通信形態の一つとなっている。その一方で、個人情報の漏洩や悪用などの深刻なプライバシー・リスクの存在も指摘されている。SMPは、この解決策として近年注目されている次世代プライバシー保護技術だが、量子耐性を備えた設計手法は知られておらず、スケーラビリティの課題も抱えていた。勝又のイノベーションは、多くの人々の通信のプライバシーを守るだけでなく、情報社会で利用される多種多様な全ての通信を、量子計算機の脅威から完全に守るための足掛かりとなるだろう。

(中條将典)