ジンクシン・チェン(中国科学院プラズマ物理学研究所)

Jinxing Zheng ジンクシン・チェン(中国科学院プラズマ物理学研究所)

核融合反応の最中に超高温のプラズマを定点に留めるための理論モデルを確立。同モデルに基づいて中国は、核融合炉「実験的高度超伝導トカマク」で、史上最高温度となる5000万℃で102秒間にわたりプラズマを制御するのに成功した。 by MIT Technology Review Editors2022.01.14

ジンクシン・チェン教授は、強力磁石を使用して極端な高温下でのプラズマの挙動を制御する手法を改良し、核融合エネルギーの利用に向けた大きな進歩をもたらした。チェン教授の研究を受けて、中国は他国に先駆けて、現時点で世界最大の核融合反応炉である「中国核融合工学試験炉(CFETR:China Fusion Engineering Test Reactor)」の建設に乗り出した。CFETRは2035年までに完成し、運転が開始される予定だが、最大出力に達するのは5〜10年後になるとみられている。

原子が融合する際に放出されるエネルギーを利用する核融合反応炉は、核分裂反応を利用する既存の原子力発電に比べて原理的に安全であり、クリーンエネルギー源として大いなる可能性を秘めている。だが、いまだに実用化されていない。理由のひとつは、核融合反応に必要なプラズマを閉じ込めるのが非常に難しいことだ。高温プラズマの温度は数億℃に達する。

チェン教授の研究の画期的な点は、複数の大型超伝導磁石の磁場を目まぐるしく転換させることで、核融合反応の最中にプラズマを定点にとどめることができるという、新たな理論モデルを確立したことにある。2018年、チェン教授のモデルに基づき、中国・合肥市にある核融合炉「実験的高度超伝導トカマク(EAST:Experimental Advanced Superconducting Tokamak)」、通称「人工太陽」は、史上最高温度となる5000万℃で、102秒間にわたりプラズマを制御することに成功した。

中国は、2030年代のうちに出力1ギガワットでのCFETRの運転を予定している。これは世界各国の協力のもと、フランス南部で現在建設が進められている核融合炉「イーター(ITER)」で予定されている出力の2倍にあたる。

(Russ Juskalian)