エタノール航空燃料、
気候問題への不完全な答え
持続可能な方法で生産されたトウモロコシを使用するエタノールは、米国政府から多額の税控除を受けられるようになった。しかし、航空燃料として使うことによる二酸化炭素排出抑制の効果には懐疑的な声もある。 by James Temple2024.05.06
航空機からの炭素汚染を廃絶することは、気候問題を解決するパズルの中でも最も困難なピースの1つだ。大型の民間航空機を電池(バッテリー)の力で離陸させるには、重量があまりに重く、必要なパワーも大きすぎるからだ。
しかし、企業や政府がある程度進展させようと懸命に取り組んでいる1つの方法がある。さまざまな種類の持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuels)の使用である。SAFは石油以外の原料に由来し、標準的なジェット燃料よりも低汚染であることが約束されている。
米国政府は先週、SAFの主要原料として、国内最大の商業作物であるトウモロコシを使用することへの支援推進を発表した。
4月30日に発表された連邦政府の一連のガイドラインは、バイデン大統領の代表的な気候対策法であるインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)の枠組みの中で定められた。エタノール生産者は持続可能な農法を採用している農場のトウモロコシや大豆から燃料を生産した場合に、税額控除を受けられるというものだ。
これは限定的なパイロットプログラムである。補助金自体が今年末で期限切れとなるためだ。しかし、米国は2030年までに年間数十億ガロン(数百万キロリットル)のSAF燃料の生産を目指しているため、これが将来のプログラムの雛形となり、エタノール生産者によるより多くのSAF生産を後押しする可能性がある。
そのような可能性を考える一部の監視者たちの間では、このいわゆる「気候スマート農業(Climate Smart Agricultural)」パイロットプログラムへの警戒が広がっている。連邦政府がエタノールの二酸化炭素排出削減効果と、想定されている農法の両方を過大評価しているのではないかと懸念しているのだ。政府は排出量削減効果のある農法として、土壌攪乱を最小化する無耕作農法、被覆作物の植え付け、および植物の肥料吸収促進と水路汚染の可能性がある環境流出削減を目的に作られた「高効率肥料」の使用を想定している。
インフレ抑制法は、標準的なジェット燃料よりも二酸化炭素排出量が50%少ないSAFに対し、1ガロン(約3.8リットル)あたり1.25ドルの税額控除を提供する。さらに、その基準値を超える持続可能な燃料に対しては、控除を1ガロンあたり50セント上乗せする。この新しいプログラムによって、トウモロコシや大豆を原料とするエタノールを税額控除の対象とするために、前述の農法の一部または全部を使用した原料作物の生産が促進される可能性がある(米国のエタノールの大半はトウモロコシから生産されているため、この記事ではトウモロコシに関する問題に焦点を当てる)。
専門的な話になるが、このプログラムによってエタノール生産者は、それら3つの農法をすべて実践して生産されたトウモロコシから燃料を製造する場合、その燃料のライフサイクル二酸化炭素排出量から、エネルギー1メガジュールあたり10グラム(炭素強度の尺度)の二酸化炭素を削減できる。この数字は、ガソリンの炭素強度の約8分の1から10分の1にあたる。
エタノールの疑わしい気候フットプリント
現在、米国で生成された …
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