タイラー・アレン(デューク大学がん研究所)

Tyler Allen タイラー・アレン(デューク大学がん研究所)

腫瘍細胞が血液中を移動する様子をリアルタイムで捉えるライブ・イメージング・システムを開発。がんの転移を可視化し、治療に役立つ知見を提供する。 by MIT Technology Review Editors2023.12.17

タイラー・アレン(31)は、腫瘍細胞がどのように体内を移動するかを観察できる、ライブ・イメージング・システムを開発した。このシステムによって、より効果的ながん治療への道が拓かれるかもしれない。

アレンの研究は、重篤度が極めて高いがんは腫瘍が転移、つまり広がってから発生するという、腫瘍学における主要な課題の1つに挑むものだ。しかし、個別の細胞が高速道路を走る車のように血液中を移動する仕組みはよく理解されておらず、発見が難しい。通常、2つ目の腫瘍が見つかるまで、医師はがんが転移していることが分からない。「転移が発見された時点で、予後は厳しいことが多いのです」(アレン)。

アレンがノースカロライナ州立大学の博士課程在学中に開発したこのシステムは、転移をリアルタイムで見ることができる。その構築のため、アレンのチームは小型魚のゼブラフィッシュの遺伝子を組み替えて血管が光るようにして、魚の体内にヒトのがん細胞を注入した。研究者たちは高性能なレーザー顕微鏡を使って、がん細胞が血流に乗って移動し、血管から出ていく様子を観察した。中でも腫瘍になるリスクが高い、塊で移動する細胞に特に注意を払った。

細胞塊は血管を出る前にバラバラになる必要があると考えられていたが、アレンのチームは一部の細胞塊が、その塊のまま出ることを観測した。さらに、それらの細胞塊は、近くの組織で腫瘍を形成する可能性がより高いと分かった。

アレンはデュークがん研究所で、博士研究員としてこの技術に磨きをかけ続けている。彼の手法がもたらす知見は最終的に、体内に広がる前のがん細胞を狙った治療法の開発に役立つだろう。

(ジョナサン W. ローゼン)