デイビッド・マッカニック(アンソロ・エナジー)

David Mackanic デイビッド・マッカニック(アンソロ・エナジー)

自身が開発した不燃性のポリマー電解質を利用して、折り曲げ可能な柔らかいバッテリーを開発。バッテリー組み込みの家電製品などをより自由に設計できるようにする。 by MIT Technology Review Editors2023.10.29

デイビッド・マッカニックは、折り曲げられる柔かいバッテリーを開発し、エレクトロニクスの新たな可能性の扉を開こうとしている。

多くの家電製品に使われているリチウムイオンバッテリーは、硬くてかさばる傾向にあるため、新製品の設計や機能に大きな制約を与えている。問題の大部分はバッテリーに含まれている電解質にある。電解質は、電荷がバッテリーの電極間を通過するのを可能にする化学的成分だ。ほとんどの電解液は可燃性の高い液体でできているため、リチウムイオンバッテリーは発火を防ぐためにずっしりとしたケースで保護する必要がある。

シリコンバレーを拠点とするスタートアップ、アンソロ・エナジー(Anthro Energy)の創業者であるマッカニックは、よい解決策があると考えている。彼がスタンフォード大学で博士課程の学生として開発した合成ポリマーから作った電解質である。従来のポリマー電解質はもろいか導電性が低かったが、マッカニックが開発したポリマー電解質は性能を損なうことなく折り曲げられるほど丈夫だ。ポリマーは不燃性であるため、ポリマー電解質を使用したバッテリーは頑丈なケースを必要とせず、家電製品に組み込むこともより容易になる。「バッテリーは家電製品の設計の中心ではなく、一部となるのです」とマッカニックは言う。

マッカニックが2021年に立ち上げたアンソロ・エナジーは現在いくつかの企業と提携して、自社のバッテリーをウェアラブル機器やVR(実質現実)ヘッドセット、電気自動車など、さまざまな電子機器に搭載し、テストしている。長期的には、自身が開発したバッテリーによって、自動車メーカーは限られたスペースにより多くのバッテリーセルを搭載できるようになり、電気自動車(EV)の航続距離を30%向上させられるとマッカニックは考えている。

(ジョナサン・W・ローゼン)