消費者のプライバシー保護を諦めるな、と米FTC委員長
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FTC Chairwoman: We Must Not Give Up on Privacy 消費者のプライバシー保護を
諦めるな、と米FTC委員長

米国FTCのエディス・ラミレス委員長は、テクノロジーが複雑に絡まり合う現在、消費者のプライバシー保護を不可能と決めつけるわけにはいかない、という。 by Mike Orcutt2016.10.11

何十億台ものネット接続機器、安価な計算能力とデータ・ストレージに加えて、高度な「ビッグデータ」解析の手法により、消費者のプライバシー問題はかつてないほど複雑化している。企業は消費者が利用するWebサイトやアプリ、購入商品から、現実世界でどこに行ったかまで追跡し、こうした個人データを他のデータと組み合わせて詳細な人物像を作り上げ、ターゲティング広告の表示に使っているのだ。また、以前は消費者が個人情報として扱っていなかった情報に基づいて、消費者の身元をより簡単に割り出す新手法もある。

連邦取引委員会(FTC)は、米国の政府機関で消費者の個人データのプライバシー保護を担当する主管官庁として、主として「不公平または欺瞞的な行為や慣行」に関与したと判断した企業を起訴することで、この責任を果たしている。しかし、FTCの活動は商業分野に限られており、たとえば、最近明らかになった政府の指示によるヤフーのメール監視等について、監督権限を行使できない。

FTCは、顧客データの用途を透明化するよう企業に呼びかけることで、商品やサービスを企業が設計する際にプライバシーを考慮し、消費者がデータを共有するか、誰と共有するかをより単純な方法で判断できるようにしようとしている。

FTCのエディス・ラミレス委員長

2010年からFTC委員を務め、2013年に委員長に就任したエディス・ラミレスは、MIT Technology Reviewに、企業がより安全に消費者を守るにはどのようにすればいいのか、自分の考えを語った。以下はインタビューを編集したものである。

オンライン上のプライバシーは明確には定義しにくいですが、どう定義しますか。

私は、ひとつの面だけでオンライン上のプライバシーを定義するつもりはありません。FTCが考えるプライバシーの概念は時間とともに変化します。私はさらに、明確な保護措置を整えることが重要だという観点から、プライバシーを考えています。根本的には、データの扱い方を消費者としての私たちが管理することが重要です。

それには企業の協力が必要ですね。企業にそのような行動を促すほど、消費者はプライバシーを気にかけていないことに懸念はありますか。

消費者がプライバシーを気にかけていない、という考えに、私ははっきりと反対です。そのような見解を支持するデータはないはずです。むしろ、消費者はこうした問題に非常に不安になっています。FTCが、増加傾向にある大規模なデータ漏えい事件の聞き取り調査を実施してからは特にそうです。私が思うに、個人情報の保護が重要だと誰もが理解しています。私の考えでは、プライバシーは企業が非常に真剣に考慮しなくてはならないものです。

では、消費者が自身のデータを制御する権利を拡大するために、企業は何をすべきでしょうか。

データ利用は、大部分がブラックボックスの中で処理されます。どんな情報が収集され、どの企業と情報が共有され、どのように情報が利用されているのか、十分には把握できません。企業はデータを扱う業務をもっと公開し、明確にし、透明化するべきです。そうすれば消費者はデータについてもっと理解し、より適切にデータを管理できます。

問題は、オンラインで洋服や靴を購入しようとして検索している間、ずっとデータが収集されていることです。スマホやタブレットの使用中、場合によっては、小売店に入る時でさえ追跡されている可能性があります。現在、消費者は、Webサイトだけではなく、アプリをまたいで追跡されています。また、異なる機器を使っても個人を識別されることが多くなっています。このような複雑な状況で、消費者に負担にならない方法で適切な注意を与えられるでしょうか。これは当然の疑問です。

私は最近、テクノロジーによって、企業が消費者に今まで以上の管理権を与えるにはどうすればいいかを考えています。こうした課題のいくつかに、どう対処すればいいのか、企業がもっと創造的に考えるように促したいのです。とても重要な問題ですので「あまりに難しすぎる、諦めよう」とは口にできません。

収集されているデータに消費者が適切な注意を払える新しいテクノロジーが必要という意味でしょうか。

世の中の製品はより高度になっています。したがって、企業が、製品を高度にした発想力により、消費者の力になる、より高度な方法を考え出すことを私は期待しています。たとえばカーネギーメロン大学の研究者が開発している「個人向けプライバシーアシスタント」は、現在の状況に対する警告と選択の課題に、消費者が対処する助けになり得ます。個人向けプライバシーアシスタントはスマホで利用可能なソフトウェアで、特定の場所や、あるいは自宅でも、スマホが位置情報を収集していることを通知してくれます。また、機械学習により、ユーザーがプライバシーの優先順位に正確な設定値を選択するようにもできます。こうした手法により、多くのプライバシー設定を将来自動化できるはずです。私は企業にこのような方向で考え始めてもらいたいのです。