格安ブランド「シーイン」、インフルエンサー戦略が裏目に
コネクティビティ

Shein’s charm offensive is off to a rocky start 格安ブランド「シーイン」、インフルエンサー戦略が裏目に

ファストファッション業界で躍進しているシーインは、中国における自社の労働環境に対する非難に応えるため米国のインフルエンサー6人を招いて工場見学をさせた。だが、このソーシャルメディアキャンペーンは幅広い反発を招く結果となった。 by Zeyi Yang2023.07.12

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

中国のファストファッション・サイト「シーイン(Shein)」が魅力攻勢を始めている。シーンはかつては目立たない存在だったが、徐々に主流へと躍り出てきた。そして、劣悪な労働条件への非難に対処するため、同社は現在、米国のインフルエンサーを会社見学に招待している。

シーインで買い物をしたことがあるだろうか? あまり自慢できることではないが、私は何度かある。シーインは、ファストファッションに共通する罪(使い捨ての服の過剰生産と過剰消費)とは別に、ブラックな工場での労働や、独立系ブランドのデザインのコピー、さらには新疆ウイグル自治区における政府の強制労働プログラムからの綿の調達を特に非難されてきた。

最近まで同社は秘密主義で知られていた。シーインの幹部がメディアに話をすることは、中国でも欧米でもめったになかった。しかしこの6月、シーインは米国のファッションと美容のインフルエンサー6人を中国に招待し、同社の施設を見学させた。インフルエンサーたちのフォロワー数はさまざまで、わずか3万人程度の者もいれば、100万人以上を抱える者もいた。

インフルエンサーたちはどこを訪れたのだろうか? ソーシャルメディアの投稿によると、彼らは名称不明のサプライヤーの工場、広州にあるシーインの「イノベーションセンター」、そして近くの肇慶(ちょうけい)市にある配送センターに行ったようだ

共有された動画とキャプションによれば少なくとも、インフルエンサーたちはこの旅を通して、清潔で近代的な工場、ロボットだらけの組み立てライン、そこで働く人たちと交わした「率直な」会話に感銘を受けた。

「シーインの施設は、奴隷のように働いているだけの人々であふれているのだろうと思っていたのですが、実際には多くのものがロボット化されていて、楽しい驚きでした。正直なところ、全員が普通に、くつろいだような様子で、座って働いていました。汗さえかいていませんでした」と、招待されたインフルエンサーの一人、デスティーン・サドゥースはティックトック(TikTok)の動画で語った。

しかし、招待を受けたインフルエンサーたちが感銘を受けたとしても、他のソーシャルメディアユーザーは明らかにそうではなかった。こうしたニュースが報じられた後、ある者たちはインフルエンサーたちをあざ笑い、シーインに誘導されていたと指摘した。シーインが見せていたのは、典型的な状況を正確に反映していないモデル工場だというのだ。次第にそのような反発が大きくなったため、インフルエンサーの多くが投稿を削除した。

シーインがインフルエンサーの力を借りてイメージアップを図っているのは、驚くことではない。シーインは巨大なチャンスとリスクに同時に直面している。シーインはだいぶ前から、株式公開の話をしている(現在の評価額は660億ドル。すばらしい金額だが、昨年のピーク時の1000億ドルからは下がっている)。

同時に、シーインは地政学的な不安定さの影響をますます受けつつある。米国には、匿名で資金提供する「シャットダウン・シーイン(シーインを閉鎖しろ)」という名前のロビー活動連合が存在し、現在、ワシントンD.C.の政治家たちと協議している。主に保守寄りの政治団体らは、膨大なユーザーデータにアクセスする可能性があるシーインのことを、ティックトックに次ぐ国家安全保障上の脅威と見なし始めている。さらに、シーインが低価格を維持するために頼りにしている米国の輸入政策(800ドル未満相当の国際小包には課税しない)も現在、疑問視されている

ちょうど6月には、シーインが初めてワシントンのロビー活動会社を雇い始めたことが報じられた。しかし、シーインは口コミによるマーケティングにも賭けていた。同社は過去にもこの方法で成功している。創業初期の頃、シーインは欧米のマイクロ・インフルエンサーに無料で服を送り、それと引き換えにその服を露出してもらうという草の根的な努力よって、徐々に熱心なファンを増やしていった。

シーインはおそらく、この同じ戦略が再びうまくいくことを望んでいたのだろう。今回だけは、無料の服やアクセサリーの代わりに、中国と同社の工場への旅行を提供するという大盤振る舞いをした。

しかし、そう簡単にはいかなかった。シーインのビジネスモデルでは、すべての製造サプライヤーが同じ要件を満たしていることを証明するのは難しい。信じられないほど高い能力と応答性を備えるサプライチェーンを構築するため、シーインは中国南部の大小数百の織物メーカーと提携している。それらの工場の中には、より小規模な作業場に注文を再委託しているところもある。1つひとつのサプライヤーが担当するのは、このブランドが販売する膨大な数の商品のうち数種類だけかもしれない。

おそらくシーインの工場の中には、インフルエンサーたちに見せたような、清潔で高度に自動化され、高い賃金を支払っているところもあるのだろう。しかし、それがサプライチェーン全体を代表しているわけではない。さらに、今回の広報活動は、強制労働が立証されている新疆ウイグル自治区からシーインが綿を仕入れているという非難に、本当に対処するものではなかった。それははるかに微妙なテーマであり、シーインにとって反証がさらに難しい非難である。

とはいえ、シーインはおそらく今回の事件によって、インフルエンサーではすべてを解決できないことに気づくだろう。物議がすぐになくなることはない。シーインが本当に非難に反論したいのであれば(そして反論できるのであれば)、経営に透明性を確保するためのより良い方法を考え出す必要があるだろう。

中国関連の最新ニュース

1. 著名な韓国の半導体チップ専門家が、ある中国企業のためにサムスンの技術を盗んだとして起訴された。(フィナンシャル・タイムズ紙

2. 米国の保守的な政治家たちが、中国から大量に出荷される免税小包の取り締まりを望んでいる。(AP通信

3.中国中央部における今年の異常な豪雨が、小麦農場を荒廃させ、中国の食料自給率目標を脅かしている。(ニューヨーク・タイムズ紙

4.中国における電気自動車の熾烈な価格競争が、すべての自動車メーカーを苦境に陥れている。かつては「テスラ(Tesla)キラー」と見なされていた中国企業、ニオ(Nio、蔚来汽車)は、特にひどい目に遭っている。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙

5.米司法省は、中国のフェンタニル(鎮痛剤として使用される強力な合成オピオイド)のサプライチェーンに対し、史上初の訴追を進めている。中国の化学企業4社と中国籍の個人8人が、フェンタニル原料の密売で起訴された。被告のうち2名が海外で逮捕されている。(NBCニュース

6.正式に禁止されているわけではないが、中国のグラファイト(黒鉛)輸出業者の多くが、リチウム電池の生産にグラファイトを使用しているスウェーデンへの輸出を停止した。その理由は、政治的なものと商業的なものの両方である。(エコノミスト誌

7.中国がネット上の言論統制を強化する中、不満を抱くユーザーの多くはレディット(Reddit)グループ 「China_irl(「現実世界のの中国」の意)」に新たな居場所を見つけた。(レスト・オブ・ワールド

ネット通販の「お祭り」に異変

中国の熱狂的なオンライン・ショッピング・フェスティバルの時代が終わりを迎えている。伝統的に、中国のすべての電子商取引Webサイトは、毎年少なくとも2回、6月中旬と11月中旬に実施されるショッピング・フェスティバルに参加し、最安値を競い合い、過去最高の総売上額を達成する(米国のサイバー・マンデーに似ているが、より大きな規模で回数も多い)。今年6月のフェスティバルでは、いくつかのプラットフォームがこのイベントの宣伝にこれまでで「最大の投資」をしたはずだが、以前よりずっと静かに感じられた。そして、どのプラットフォームも総売上額を発表しなかった。

中国のメディアである「シェンラン・サイジン(Shenran Caijing)」は、若者の買い物客数人に、今年は掘り出し物の買い物をやめた理由について話を聞いた。そのうちの何人かは、広告業界で働き始め、ブランドがそれらのフェスティバルを利用して余剰在庫を処分する様子を自分の目で見たと答えた。わずかな値引きを求めてあちこち見て回らなければならないゲーム化されたプロモーションの仕組みに、疲れ果ててしまった者もいた。彼らは、必要なときにだけ買い物をすることと、実店舗に戻ることによって、消費習慣のコントロールを取り戻しつつあると感じている。

あともう1つ

ネットで過剰な時間を過ごしている人たち同士がツイッターで喧嘩しているのを見たことがあるはずだ。しかし、チャットボット同士ではどうなるだろうか? 6月下旬に、「トゥルースGPT(Truth GPT)」と「LMAO GPT」が、42件のツイートにわたる、厄介で非常に些細な口論になった(どちらの比喩がより時代遅れか言い争うような口論)。2つのチャットボットは、同じクリエイターによって、チャットGPT(ChatGPT)を使って嫌味なリプライを自動生成するように設定されていた。2つのチャットボットが口論を楽しんだかどうかはわからないが、それを見ていた数百人の人間のユーザーは間違いなく楽しんだ。