ヒトの脳地図を個人ごとに描ける機械学習プログラムを米研究プロジェクトが開発
生命の再定義

The Map of the Human Brain Is Finally Getting More Useful ヒトの脳地図
107年ぶりに更新される

米国の神経科学者が個人ごとに脳地図を作成できるプログラムを開発し、107年ぶりに脳の領域区分を引き直した。 by Ryan Cross2016.07.21

ヒトの脳の謎が、今日、少しだけ明らかになった。ワシントン大学医学部の神経科学者が作った新たな地図が、より多くの脳領域を特定しているのだ。また、機械学習プログラムで誰の脳の地図でも作れるようになり、科学者や医師が脳の構造と病気の個人差を研究し、さらに脳障害診断の新たな方法にもつながる。

21日刊行のネイチャー誌に掲載された大脳皮質(脳の最外側のしわが寄った層)の地図作成責任者でワシントン大学セントルイス校のデビッド・ヴァン・エッセン教授は、この研究をヒトコネクトーム計画のランドマークと呼ぶ。

新たなヒト脳地図には左右に180ずつの領域がある

プロジェクトに参加したマシュー・グラッサー研究員によれば、新しい脳地図では脳のいくつかの特徴を考慮して以前とは異なる境界を新たに定めた。一部の神経科学者が使っているブロードマンの領域と呼ばれる歴史的な脳地図は1909年に定義されたもので、脳の左右をそれぞれ52領域に分割するが、新たな地図で180ずつの領域に分けた。

グラッサー研究員は領域を定義し直すために、皮質の厚さ、機能、他の領域への接続など、多くの特質が同時に変化している場所を探した。最初のグループの脳で地図を描いた後、グラッサー研究員はアルゴリズムを開発して、別のグループの脳で領域を認識させた。脳のサイズと境界は人により異なるが「研究のために参照すような単なる地図ではなく、誰かが何かを考えているとき、まさにその領域を個人ごとに特定できるのです」という。

ペンシルベニア大学の神経科学者ダニ・バセットはこの研究に関わっていないが、この地図で脳の個人差をさらに理解できることは最高に嬉しいことだという。また、脳領域をどう定義するかは、解剖学だけでなく、機能にも基づくことが重要であり、どちらか一方に基づいて決めるわけにはいかない、という。

「長年の疑問に取り組んだ研究です。それを、データに基づいて見事にやり遂げました」

被験者が話を聴くときの脳の活動を研究者がMRIスキャナで観察したときの様子(赤色と黄色が活性化領域)

ヴァン・エッセン教授はまた、この地図は、それぞれの研究者による脳イメージ研究を容易に比較したり、他の研究者と同じことができるようにフレームワークを提供したりすることで、特に最近論争になっている数千件の脳イメージ研究の有効性を疑問視する件について、神経科学が統一的に問題に対処できることを目指している、とも述べた。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のドゥアン・フー研究員も、この研究に関わっていないが「ヒトコネクトーム計画が大脳皮質に関する良質な研究成果をあげるのは素晴らしいことだ」と述べた。ヒトコネクトーム計画は、ヒト脳のもっとも詳細な回路図(コネクトーム)作成するために米国立衛生研究所が4000万ドルを投じ、2010年に始められた。

この地図によって、科学者や医師が脳障害を診断する優れた方法が編み出されるかもしれない。ただし、正確にどう使われるかは明らかではない。

「私は楽観主義者です。数年後には患者の診察や治療に使えるでしょう」(フー研究員)