NASDAQ上場で数億ドルを得たエディタスは遺伝子編集が難病治療にが役立つことを証明できるか?
ビジネス・インパクト

A Big Bet That Gene Editing Will Cure Human Disease 投資家と難病患者が注目
遺伝子編集エディタス

数億ドルの資金を得て、エディタスは投資家が遺伝子編集に熱中することは証明した。次は会社が、難病治療にテクノロジーが役立つことを証明する番だ。 by Nanette Byrnes2016.07.25

カトリーン・ボズリーは、ニューヨークの繁華街にあるホテルの大広間の外で昨年1月、ウォール街の投資銀行家と身を寄せ合ってハッとさせられるニュースを目にしていた。12月初めから下がり続けていた株式市場はさらに下落し、ボズリーの事業であるバイオテクノロジー業界が特に激しい影響を受けていたのだ。2014年にはテクノロジー系の銘柄が多いナスダックでも新株公開は史上最悪の状況だったが、その時ボズリーは、壁の裏側で昼食を取っている部屋いっぱいの投資家を相手に、自身が経営するエディタス・メディシンは市況に逆らって成長すると説得しなければならなかった。

エディタスは遺伝子編集(クリスパー(CRISPR/Cas9)と呼ばれるテクノロジー)の処理を専門とする企業だ。このテクノロジーを使えばDNAをそれまでの手法より簡単かつ正確に編集できるので、最初の公表からわずか4年間で科学者たちの評判になった。エディタスはCRISPRの初期の開発者の何人かで共同設立された企業で、この手法は現在ほとんど治療法のない遺伝病を治療する手法に作り変えるようとしている。エディタスは、眼病、がん、鎌状赤血球貧血、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどを対象に治療法を研究しているところだ。

科学の世界の外では、CRISPRはまだ広く理解されるには程遠く、ボズリーは2014年6月にエディタスに入ってからほとんどの時間を費やして、ベンチャーキャピタリストや投資してくれそうな人に、このテクノロジーの可能性を説き続けた。それでも、この日のニューヨークのホテルにいた投資家はたくさんの質問を出し続けた。エディタスが初めて株式公開し、大成功のうちに1億900万ドルを集めた2月の後でさえ、投資家の質問は続いた。

エディタスは製品販売からの収益は全くなく、当面の間もその見込みがない。2億ドル以上の現金があり、2年間持ちこたえられる十分な額だが、それまでに従来のどの製品とも違う製品を作り出さなくてはならない。新たな治療法のヒトへの試験も2016年までは始まらない。試験が成功しても、いつ事業化できるかどうかは未知数だ。

ボズリーと創立時の科学者グループを別にすれば、エディタスが目指しているのは、遺伝子編集が医学を根本的に変えてしまう可能性だ。

科学者のジェニファー・ゴーリ(エディタス・メディシンの研究所で)

50億ドルの資金を医療分野(エディタスを含む)で運用する、ディアフィールド・マネジメントのジム・フリンが社長は、こう述べた。

「それほど強力なツールなのです。エディタスで働いている人々が信じているのは、10年後にふり返ったとき今が分岐点だったと思うことです。遺伝子編集の前と後です」

エディタスの共同創業者のジョージ・チャーチ張鋒はCRISPRがヒト細胞に有効である可能性を示した最初の研究者だった。論文が科学ジャーナルに発表されて数カ月もたたないうちに、医療に注目するボストンのベンチャー投資会社3社がこのテクノロジーは事業になると期待して、チャーチと張を説得してエディタスを作らせたのだ。遺伝子編集治療法の開発を目指している会社はエディタスだけではない。エディタスと特許紛争中のライバル会社であるインテリア・セラピューティクスは、エディタスの3カ月後に株式を公開した。2015年の12月、バイエルはクリスパー・セラピューティクスとの合弁事業に3億3500万ドルを投資することで合意した。

エディタスはヒトでの試験を来年には開始できるだけの研究期間があるとボズリーはいう。計画では、ある種の遺伝子突然変異が引き起こす希なタイプの進行性失明の患者たちの目に、Cas9を含むウイルスを注射する。酵素によって欠陥のある遺伝子配列が切り取られ、自然なDNA反応が起きて、細胞が欠陥を自己修復する。最初の試験がこの眼病なのは、病気の遺伝的基礎が明解で、標的に対して局所的に投与する治療法だからだ。

だが、重大なテクノロジー上の課題もある。エディタスがしなければならないのは、有効な治療法を作り出し、安全に患部へ届くことを確実なものにし、DNAを適切に編集することであり、この全てで危険な副作用を起こさないことだ。

CRISPRの潜在的用途のいくつかに関する倫理的な疑問が、このテクノロジーに暗雲を投げかけ規制当局の承認を遅らせることがないように、エディタスは願うしかない。たとえば、この技術はヒトの胚の遺伝子操作に使えると懸念する科学者もいる。エディタスが取り組んでいることではないが、ボズリーはフランスの国会議員からイギリスの生命倫理学者まで様々な団体と会合を持って、この問題をはじめとするいろいろな話題を議論した。

このテクノロジーを最も支持してくれるのは治療不可能な遺伝病の患者で、それをエディタスは解決したいと願っているのだとボズリーはいう。患者にとって、有効な遺伝子編集は重要な医学的突破口になるかもしれない。エディタスがこの表現に合致するようなものを開発できるということを、いまボズリーは明確に示す必要に迫られている。