蒸気冷却:電気不要の冷蔵庫で発展途上国の食糧問題を解決
ビジネス・インパクト

Improving Global Food Security with a Device That Sweats 電気不要の冷蔵庫
古代の技術を発展途上国に

エバプテナーズは電気が不足している発展途上国で食品を低温に保つため、古代のテクノロジーを使うことにした。 by Catherine Caruso2016.08.26

4000年以上前のアイデアで、電気を使わない冷蔵庫が実現するかもしれない。

スタートアップ企業エバプテナーズ(本社マサチューセッチュ州サマービル)は、蒸発冷却で食糧を冷やす食糧貯蔵庫を設計中だ。蒸発冷却は、人間が汗をかいて体を冷やすプロセスと同じである。

世界中にある電力が不足している地域では、冷蔵庫が必要なのに使えない状態だ。国連の食糧農業機関によれば、冷蔵庫が使えないことも一因で、毎年約3100億ドル分の食糧が発展途上国で破棄されている。

蒸発冷却は水が蒸発するときに表面から熱を奪う現象だ。人類は数千年間、蒸発冷却で食糧を保存してきた。素焼きの容器を入れ子にし、容器と容器の間を砂で埋め水を注ぐだけの簡単な仕組みだ。

水が砂から蒸発するときに熱を奪い、内側の容器内は外気よりも最大約19度冷たくなる。電気なしに、だ。

エバプテナーズの研究者はマサチューセッツ工科大学(MIT)に在籍中、古代のテクノロジーを現代の材料で再設計した。エバプテナーズの最新の試作品では、内側の食糧貯蔵庫を柔らかいゴム入りのシートで覆うことで水の浸入を防ぎ、外側の層の芯材は半透明な素材を使う。内側と外側の層の間に約1cmの隙間があり、内部の水が半透明な素材から蒸発し、内側のシートを冷やす。約60リットルの冷蔵庫は、丈夫で軽量な設計で、輸送時は平らに梱包できる。

エバプテナーズのスペンサー・テイラーCEOは、最近モロッコで実地テストをした初期の試作品25個の結果は上々だった、という。テイラーCEOは年内に300~500の最新の試作品を試験する計画で、半分は無償提供、残りは25ドルで販売予定だ。

テイラーCEOは、米国のアウトドア愛好者もこの商品を気に入るかもしれないと考え、2017年中にはエバプテナーズの製品を販売したいという。

エバプテナーズの普及には課題もある。蒸発冷却の冷却能力は乾燥した気候で効果が最大化し、湿度40%以上の場合、冷却効率が急激に下がってしまう。

MITのビショップ・サニヤル教授(都市開発・計画学、エバプテナーズとは無関係)は、エバプテナーズは国単位の食糧確保に大きな影響を与えると考えている。ただし、懸念点もある。ほとんどのモロッコ人家庭の平均月収は60~100ドルで、25ドルの製品価格は家計的に大きな支出になるのだ。

「米国人は、発展途上国の人々がとても貧しいことを知らないだけなのです。1セントの出費でも大変な金額なのです」(サニヤル教授)

製品価格が家計に収まれば、長期的には支出の節約につながる、とテイラーCEOはいう。

「それが夢なのです。電気が使えない家庭でもエバプテナーズがあり、腐らせた食料の代りを得るために働くのではなく、非都市部の栄養摂取や食糧確保により多くの時間を割ければ、最終的には社会全体の無駄を減らせます」