「テクノロジーが社会を よりよくする」の欺瞞:ケニアから何を学ぶべきか
ビジネス・インパクト

Kenya’s technology evolved. Its political problems stayed the same. 「テクノロジーが社会を
よりよくする」の欺瞞
ケニアから何を学ぶべきか

ケニアでは選挙にからんだインターネットによるヘイト・スピーチや暴力の誘発が起きている。しかし、インターネットが普及するはるか以前から、政治的な対立を煽る言動はメディアによって流布されてきた。ケニアの歩んできた道は、テクノロジーが社会の課題を解決できるのか? という疑問を突きつける。 by Nanjala Nyabola2018.09.03

2007年、ケニアを揺るがした大統領選挙で勝利したのは現職のムワイ・キバキだった。街頭での抗議活動は国内の一部で民族紛争に発展し、2008年4月までに1500人以上が死亡した。10年後の大統領選挙でも不正疑惑が飛び交い、さらなる暴力を生んだ。2007年ほど被害者は出なかったものの100人以上が死亡し、そのほとんどが警察によって殺害された野党支持者だった。

ケニアにおいてテクノロジーと政治は密接に関係している。その理由の1つが、暴動に発展した2007年の選挙を受け、社会構造的な問題に対する解決策としてテクノロジーを導入したことだ。2008年に設立された独立審査委員会は、テクノロジーが、主要な政治的アクターたちの信頼の隔たりを埋め、選挙における官僚機構の自律性の保護に有効だと指摘した。独立審査委員会の指摘に沿って、有権者の登録と確認、投票の集計はすべて、名目上はコンピューター化されている。2017年の大統領選挙で導入されたこの方式によって、アフリカ初の完全デジタル選挙となるはずだった。

このやり方が機能しなかったという事実は、テクノロジーは政治において何ができ、できないのか、教訓を与えてくれる。最も大きな教訓は、コミュニケーション・プラットホームが特定の観衆の要求に応え、既存の社会的分断の中で他者を排除するとき、ヘイトスピーチが盛んになるということかもしれない。それは今に始まったことではなく、インターネット以前のテクノロジーにおいてもそうだった。

20年前、ケニアには国営のラジオおよびテレビ放送局が1つしかなかった。だが2017年には、認可を受けたテレビ局は60以上、ラジオ局は178に増加した。ケニアの公用語は英語とスワヒリ語で、少なくとも44の民族グループがあり、その大半が外部の人間には理解できない第3の言語を話す。1990年代の民主化の一環として、地域文化を保護しつつより多くの人々を国家的な議論に参加させることを目的に、第3言語で放送をするラジオ局が次々に開局した。

予期せぬ結果

しかし、第3言語のラジオ局は簡単にヘイト・スピーチの温床になってしまうことが明らかになった。ローカル・ラジオ局は、ラジオ局を管理する能力を持たない、あるいは管理に関心のない公的機関の監視の目を逃れられる閉鎖的なシステムとして機能した。そうしたローカル局が内包する脅威が明らかになる頃には、その脅威はすでに現実化しており、監督機関は現在でもその対応に追わ …

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