事例:アップル 人工知能で出遅れた企業の挽回策
知性を宿す機械

Apple Gets Its First Director of AI 事例:アップル 人工知能で出遅れた企業の挽回策

カーネギーメロン大学の深層学習の専門家ルスラン・サラクディノフは、コンピューターが世界について学ぶスマートな方法を模索している by Will Knight2016.10.18

アップルが深層学習の分野の新星を、人工知能(AI)研究の初の所長として採用した。所長職を引き受けたのは、カーネギーメロン大学(ペンシルベニア州ピッツバーグ)のルスラン・サラクトゥディノフ准教授。学術的なAI研究がもたらす根本的なブレークスルーを、アップルがSiri等の製品で活用するのを確証するのが役割だ。サラクトゥディノフ准教授は今週開催されるMIT Technology Reviewのカンファレンス「EmTech MIT 2016」で、自身の研究について話すことになっている。

サラクトゥディノフ准教授が研究しているのは深層学習で使われている非常に大きなニューラル・ネットワーク(神経回路網)で、コンピューターに膨大な訓練データを投入することで、難しい作業の遂行を学習させる。サラクトゥディノフ准教授はカーネギーメロン大学(CMU)で非常勤職となり、アップルでは協力して働く研究チームを雇うという。

この動きは、グーグルやフェイスブック、アマゾン等とのレースに追いつき、AIと機械学習における最近の進歩を活かして力をつけようとするアップルの努力の一端だ。特に、深層学習等により、どう作業するかをソフトウェア自身が学習する手法は注目されている。最新のAIの手法は、たとえばグーグルの新型スマホ「ピクセル」に使われており、「アシスタント」と呼ばれるピクセルの音声補助機能は、話し言葉によるユーザーの質問を理解するために機械学習を使っており、アップルのSiriに対抗している。

サラクトゥディノフ准教授の研究は、最先端の機械学習手法に関わっており、AIの進歩をさらに促進できる。また、サラクトゥディノフ准教授の機械学習手法は、コンピュータービジョン(視覚認識)や自然言語処理、ロボット工学まで、さまざまな分野に応用できる。

最近、サラクトゥディノフ准教授は、コンピューターの言語理解の改良、コンピューターの反復と積極的強化を通じた学習、機械がラベルなしのデータから学習する方法の開発、という3つの分野でAIは主な進歩をしていると話した。また、Web上の非構造データから機械が学習できるように教える研究も重要だという。この研究は、ひょっとするとSiriのような製品の知能をさらに高めるかもしれない。

「私たちは、コンピューターに記録されていない、外部の知識ベースを使うアイデアに取り組んでいます。もし私があなたに、あるもののあることについて尋ねたとしたら、あなたのシステムは、恐らくウィキペディアにアクセスし、数本の記事を読み、世界に関する事実をいくらか学び、あなたに正しい答えを提供できるのではないか、ということです」

サラクトゥディノフ准教授の最近の研究はまた、機械が異なる種類のデータから学習できるようにする「マルチモーダル学習」やある状況で学習したことを全く新しい状況に応用するための「転移学習」にも注目している。また、認知科学から得たインスピレーションにより、いかにコンピューターが比較的少ない量のデータから学習できるかを提示するプロジェクトにも共同で取り組んでいる(“This AI Algorithm Learns Simple Tasks as Fast as We Do”参照)。

近年、グーグルやフェイスブック等のライバル企業が、AIを基盤にした事業の方向づけを担う、深層学習分野の先端的人物を採用している。アップルのAI研究は、ライバル企業に比べてそれほど卓越しておらず、アップル伝統の秘密主義が、AI分野で最優秀の研究者を採用するのを難しくしているという人もいる。

深層学習は近年、機械が画像の中にある物体や、音の中の話し言葉の認識に最適と証明された後、重要視されるようになった。グーグルやフェイスブックは深層学習を使って、画像に自動的に見出しをつけている。また、深層学習はSiriやその他の音声作動製品の言語認識を改良した。言葉の意味を構文解析することは、しかしながら、さらに壮大な課題として残る(「人工知能と言語」参照)。