機械学習は大気汚染を解決できるか
ビジネス・インパクト

Can Machine Learning Help Lift China’s Smog? 機械学習は大気汚染を解決できるか

中国の大気汚染が悪化する中、IBMの研究グループは、人工知能技術で1平方㎞ごとに10日先の汚染レベルを予測しようとしている。 by Will Knight2016.03.28

北京にあるIBMの中国本社を道路から見上げると、濃い大気汚染のせいで見えにくいことがある。波打つような建築物の装飾が際立つ高層オフィスビルの最上部には巨大なIBMのロゴが取り付けられているはずだ。

本社から北東にわずかに離れた北京市の郊外では、IBMのコンピューターの専門家が人工知能で、悪名高い中国の慢性的な大気汚染問題を制御する手法を開発している。

専門家チームは、複雑なコンピューター・モデルと機械学習によって、汚染が北京市にどう広がるかを予測している。すでに研究者は、10日先までの汚染予報を1平方kmの解像度で作成できる。

汚染予報は、最悪の展開を避けるために、たとえば、特定の地域の工場を閉鎖したり、道路を走る車両数を減らしたりといった形の対処方法として、中国政府にも伝達される。

MIT Technology Reviewが中国にあるIBM中国研究院を訪れた昨年11月は特に大気汚染がひどかった。寒波によって電力需要が増し、近隣の石炭火力発電所は出力増加を強いられた。これが常態化した最悪の交通渋滞と組み合わさり、本当に肺が焼けつくような強烈な大気汚染をもたらしたのだ。汚染は1立方m当たりの微粒子の量で測定される。世界保健機関は、先進国の都市ではこの数値が25を超えるべきではないと勧告している。ところが取材時の値はほぼ250に達した。グリーン・ホリゾンと呼ばれるモデリング・システムが、汚染の広がりを予測するために使われていたが、中国政府が、工場の生産、交通規制を決定したかどうかはわからない。暖房の必要性は、汚染による悪影響よりも重要らしい。

 

大気汚染が特にひどい日の北京(2015年12月25日)

北京市内の汚染センサーで捉えたデータを利用する「北京プロジェクト」は、特定の汚染源と、天候と大気の動きの両方からなる複雑なモデルにより、有害な汚染が近隣の地域にどう広がるかを予測する。前回の実際の広がり方は「機械学習」により次回の予測精度を向上するために使われる。IBM中国研究院のシャオウェイ・シェン所長は、こうすることで、複雑な要因から新たな予想が可能になる、という。

「誰もがビッグデータのことを話していますが、私たちが開発してきた従来のITテクノロジーは、ビッグデータすべてを扱うには十分ではありません。それは皆知っています」と、シャオウェイ所長はいう。

IBMは汚染レベルによる工場閉鎖の経済的影響についてもシミュレーションしている、とIBM中国研究院の卓越したエンジニアであり、このプロジェクトのリーダーでもあるジン・ドン研究員はいう。各国の政府機関は、経済的影響のシミュレーションに基づいて、汚染対策を実際に決めている。

 

中国政府は、短期的な健康への影響と、長期的な大気汚染の気候への影響のどちらも緩和するように、エネルギー生産について苦しい決定を下す必要があるだろう。

都市調査と計画学科の専門家で、マサチューセッツ工科大学のシビック・データ・デザイン研究室のサラ・ウィリアムズ助教授は2008年のオリンピック期間中、北京市の汚染問題を調査した。ウィリアムズ助教授は、工場の操業停止といった短期的な解決策では、微粒子の削減効果は限定的で、もっと広範囲な環境規制が必要なことを中国政府に示せるなら、IBMの研究はとても価値がある、という。

「政府がさまざまな対策の改定を制度化するためにデータや、データの可視化を利用しない限り、データにはメリットはないでしょう」

IBMのモデリング・システムは、大きな汚染問題を抱える中国の他の2つの都市、保定市と張家口市でも利用されている。一方、IBMで開発された関連テクノロジーは、インドのデリーでの交通と汚染の関係の研究や、南アフリカ共和国のヨハネスブルクでの大気汚染管理措置の効果の研究にも使われている。