運動、食、書籍——生活に入り込むAI、持つべき心構えとは?

Are we ready to trust AI with our bodies? 運動、食、書籍——生活に入り込むAI、持つべき心構えとは?

AIスポーツジムトレーナーが登場し、AIが生成した本が書店に並ぶなど、AIが人間の生活に与える影響はますます大きくなっている。私たちは今後、AIに対してどのように接していったらよいのだろうか。 by Melissa Heikkilä2023.10.16

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

私はジムに行くのが嫌いだ。昨年は長期的かつ健康的な運動習慣を身につける教育をしてもらうべく、パーソナルトレーナーを半年間雇った。良い経験にはなったのだが、パーソナルトレーナー料が驚くほど高かったため、その半年がすぎてからは一度もジムに足を踏み入れていない。

だからリアノン・ウィリアムズ記者が執筆した人工知能(AI)ジムトレーナーに関する最新記事は興味深く読んだ。

テキサス州のルミン・フィットネス(Lumin Fitness)というジムでは、配置されているスタッフのほぼ全員がバーチャルAIコーチであり、ジム利用者にワークアウトを指導するよう設計されている(人間の従業員が一人常駐しているが、その役割はおそらくスイッチを切ったり入れたりすることだ)。

ジムの利用者は、指定されたステーションでバーチャル・コーチのサポートを受けながら単独でワークアウト・プログラムをこなしたり、他の人々と一緒に高集中機能トレーニングクラスに参加したりできる。トレーニング機器と、ジムの壁沿いに並んだ床から天井まであるLED画面にはセンサーが付いており、利用者の動きを追跡している。さらに、機械学習モデルを使用した個人アドバイスも実施している。

ジムのオーナーは、気後れし、やる気が出ない私のような人々を、この新しいAIトレーナーが励まし、ワークアウトをさせることができると自信を持っている(AIトレーナーの記事はこちら)。

今後数年で、AIは人間と人間の生き方にますます大きな影響を与えるようになるだろう。 人々はすでに、スマートウォッチのようなウェアラブル機器で自分の身体を追跡させることに慣れ親しんでいる。だから、AIアバターから叱咤激励を受けることにもさほど抵抗がない。リアノン記者が今年初めにレポートしたように、「チャットGPT(ChatGPT)」を利用したワークアウト計画が立てられるようにもなっているのだ。

AIが活用されているのは、ワークアウトだけではない。英国の高級食料品店チェーンであるウェイトローズ(Waitrose)では、さまざまな日本食レシピを作成するために生成AI(ジェネレーティブAI)が利用されている。AIを利用して書籍を作成している人々もいる。たとえばキノコの採り方の説明書など、AIが生成した書籍がアマゾンには数多く存在している。昨年の私の誕生日には、親友がAI調合による香水をくれた。柑橘系とシナモンのような少しフローラルでスパイシーな香りの香水だったが、結局あまり使っていない(ごめんなさい)。

ホワイトハウスさえ、AIを健康に役立てようとしている。先日のバイデン政権の役人とAIと保健医療専門家による会議の議事録では、ホワイトハウス科学技術政策局のアラティ・プラバカー局長が保健医療分野に対し、臨床現場や医薬品開発、公衆衛生上の課題を解消して「より多くの国民の健康上の成果を高めるため、AIの強力なツールを活用」するよう呼びかけている。

これは理にかなっているだろう。ニューラル・ネットワークは、データ分析やパターン認識に優れており、診断を迅速化し、人間が見落とすかもしれない内容を発見し、新たなアイデアを思いつく上で役立つ可能性があるからだ。英国ウォルバーハンプトン大学のスポーツ心理学教授であるアンディ・レーンも、「AIパーソナルトレーナーは運動をゲーム化し、人々が成果に満足してもっと運動したくなるよう促すことができます」と語っている。

しかし、AIがかつてないほどセンシティブな領域に進出し始めている今、我々は分別を失わず、技術の限界を忘れないようにする必要がある。 生成AI(ジェネレーティブAI)システムは、文章内で次に出てくる単語を予測することには長けているが、より広い文脈や意味を把握することはできない。ニューラル・ネットワークはパターン探索がうまく、物と物をつなぐ手助けをしてくれるが、騙したり壊したりするのも簡単で、バイアスが生じやすいという問題点がある。

たとえば保健医療分野におけるAIシステムのバイアスは、既に多く発表されている。私は、AIが新分野に進出するにつれて、奇妙な大失敗を犯すのではないかと警戒している。食品AIシステムは奇妙なアメリカンフードを推奨するかもしれない。レシピはどの程度ヘルシーなのだろうか。ワークアウト計画は男女の身体の生理学的差異を考慮するだろうか。それとも男性中心のワークアウト計画がデフォルトになるのだろうか。

最も重要なのは、「AIシステムは運動がどんな感覚なのか、食べ物はどんな味なのか、そして人間にとって『高品質』が何を意味するのかを知らない」ということを覚えておくことだ。AIトレーニング プログラムは退屈な「ロボット的エクササイズ」を思いつくかもしれない。AI生成のレシピは、ひどい味の組み合わせ、さらには有害な組み合わせさえも提案する傾向にある。キノコ採集本も、どの品種が有毒でどの品種が無毒なのか誤情報だらけの可能性が高く、大惨事を招きかねない。

人間はまた、コンピューターを信頼しすぎる傾向がある。「GPSのせいで死亡」というニュースが「AI生成のキノコ採集本により死亡」に置き換わるのも時間の問題だろう。AIが生成したコンテンツは、まず疑うところから始めた方がいい。AI搭載製品があふれる新時代においては、強力なAIシステムがどう機能するのか、またはしないのかを、より多くの人々が理解することが、これまで以上に重要になる。AIの言うことを鵜呑みにしないことだ。

生成AIは偽情報とプロパガンダの拡散をどう促進しているか?

世界中の政府や政治家は、AIを利用してプロパガンダを作成したり、オンライン・コンテンツを検閲したりしている。人権擁護団体「フリーダムハウス(Freedom House)」の新しい報告書では、16の国で「疑念を植え付けたり、国の方針に反対する者を中傷したり、公の議論に影響を与えたりする目的で」生成AI(ジェネレーティブAI)が使用されているという。

負のスパイラル:年次報告書「フリーダム・オン・ザ・ネット( Freedom on the Net)」では、それぞれの国におけるインターネットの閉鎖、オンラインでの表現を制限する法律、オンラインの言論に対する報復など多数の要因から、その国の相対的なインターネットの自由の度合いを測定し、採点してランク付けしている。10月4日に発表された2023年版では、AIの普及が一因となって、世界のインターネットの自由度が13年連続で減少していることが明らかとなった。(詳しくはこちらの記事を参照)

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