アディダス、3Dプリンター製シューズを年内発売へ
ビジネス・インパクト

3-D-Printed Sneakers, Tailored to Your Foot アディダス、3Dプリンター製シューズを年内発売へ

アディダスは、3Dプリント企業カーボンとの協業で、ミッドソールを3Dプリンターで生成した靴を年内に市販しようとしている。初めは個人向けではありませんが、個人の足の形に合わせた特注品の製造も計画中だ。 by Katherine Bourzac2017.04.10

ひとりひとりの消費者向けに商品をカスタマイズできるメリットは、3Dプリントの可能性を見いだした人々がずっと言ってきたことだ。最もよく例に出てくるのは、それぞれのランナーの身体に合わせたランニングシューズや、太り気味で土踏まずにまで脂肪がついた人向けのジョギングシューズを3Dプリントで生成することだ。

4月7日、3Dプリント企業カーボン(本社はサンフランシスコのベイエリアにある)は、3Dプリントで靴を生成できるようになった、と発表した。カーボンはアパレル企業アディダスと共同でミッドソール(運動靴内の柔らかく、衝撃吸収力性を持たせる部分)用の材料開発と形状の設計に関わってきた。アディダスはカーボン製の機械でプリントされたミッドソールを採用した靴「フューチャークラフト4D(FutureCraft 4D)」を販売促進用の300足を皮切りに、4月から販売開始(価格不詳)する予定だ。アディダスによれば、フューチャークラフト4Dは2017年下期には5000足市販される。さらにアディダスは2018年までに何百万個ものミッドソールを製造予定で、カーボンによれば、3Dプリント製商品として、最大規模の製造になる。

最初の商品はあくまでも大量生産品だが、個人向けにカスタマイズする商品を販売する計画も進行中だ。アディダスは世界各地の製造センターでカーボン製プリンターを導入し、すぐにも各地の顧客向けに採寸した靴を製造しようとしている。すでにアディダスは2015年12月にドイツのヘルツォーゲンアウラハに実験店「スピードファクトリー」をオープンしている。アディダスは2017年中に、アトランタでも同種の店舗をオープンする計画だ。

カーボン(以前の社名は「カーボン3D」)は、ノースカロライナ大学ジョセフ・デシモン教授(化学工学、教授職は休職中)が共同創業者として、高性能ポリマーを使った3Dプリント用の材料と製造工程の研究の商品化を目指して、2013年に設立された(“Speeding Up 3-D Printing”参照)。デシモンCEOは、ステントやナノ医療等さまざまな用途で材料を研究してきた研究者で、2008年にはレメルソンMIT賞を受賞している。

プリントされ、液浴から取り出されるスニーカーの靴底(ミッドソール)

最初にの商品は大型施設で製造予定で、個人用にカスタマイズされるわけではない。しかしデシモンCEOは、射出成型では作れない衝撃吸収力があり、複数のレイヤー構造のあるミッドソールをアディダスは製造できた、という。ミッドソールの性質は、たとえば靴の大きさに合わせて、かかと部分の剛性を変えるなど、生成時に変更できる。

ミッドソールは蜂の巣状構造だ。デシモンCEOは「機械技術者はずっと、蜂の巣構造をどう設計・製造すればいいのか奮闘してきました。蜂の巣を形作る支柱は、それぞれがつながった構造であるため、射出成型では製造できないのです」という。

材料の性質におけるミクロスケールあるいはナノスケール構造の効果の研究(数多くの素晴らしい構造で、世間を驚かせている)で著名なカリフォルニア工科大学のジュリア・グリア教授(材料科学、機械工学)によれば、蜂の巣構造には衝撃吸収や耐久性にメリットがあり、前途有望だという。グリア教授によれば、蜂の巣状の構造に力が加わると、構造は力の方向にだけ変形する特徴があるという。したがって、ミッドソールがかかとに押し付けられると、圧力を吸収しながらミッドソールは地面方向に圧縮される。このとき、力を逃がすように構造が横に膨らんで飛び出すことがないため、靴が長持ちしやすいのだ。

圧力の吸収に役立つミッドソールの蜂の巣構造

ミッドソール1枚のプリントには現在90分かかる。カーボンはアディダスと協力し、この工程を20分に短縮しようと機械を改良中だ。カーボン製プリンターは、ポリマー「インク」の液浴にレーザー光線のパターンを照射して固化させ、蜂の巣構造を切れ目なく生成する。生成物全体を途切れずにプリントする工程(プリント速度を上げるには、工程そのものを速くする必要がある)は、「酸素バリア」によってレーザー光線で固体化したポリマーが溶液器の底にへばりつかないようにすることで実現されている。切れ目なくプリントする手法は、レイヤーを1層ずつ重ねていく他の手法に比べて、パーツが一体化するのも特徴だ。レイヤーを重ねて生成すれば、レイヤー同士の境界面がちぎれやすくなったり、力を伝える向きが変わってしまったりするが、カーボンの製造方法ならこの問題は生じない。カーボンはポリマーの化学的組成、ポリマーそのものの生成方法にも資金を投じた。アディダスとの協業で、カーボンは靴に適した堅さや弾性等の性質と色を持つ、プリント可能なエラストマー(人工ゴム)を作り出した。

一般的に、デザイナーが最終デザインを確認するには、毎回生地を裁断して縫製し、ボタンを付けるなどの工程を経て完成させるのに数週間かかるため、デザイナーは試行錯誤の工程を5回程度しか繰り返せない。ところがアディダスのデザイナーは、カーボン社内で最終デザインを約50回も製造した。3Dプリンターのおかげで、同じ場所でデザインして製造し、製品のデザインを試せるのはアパレル業界の「プロトタイピング設計の終わり」を意味している、とデシモンCEOはいう。