中国のゲノミクス大企業が遺伝子編集されたペットの販売を断念
生命の再定義

China Genomics Giant Drops Plans for Gene-Edited Pets 中国のゲノミクス大企業が遺伝子編集されたペットの販売を断念

遺伝子編集で色やサイズをカスタマイズできる小型ブタをペットとして販売する予定だという中国のゲノミクス企業の発表が、以前、世界中を賑わせたことを覚えているかもしれない。しかし現在、同社は遺伝子編集されたブタを販売しておらず、今後も販売するつもりはないとしている。 by Michael Standaert2017.08.22

中国最大のゲノミクス会社が上場した。しかし、ブタについては待たなければならない。

2017年7月、投資家は、中国最大のゲノミクス企業であるBGIの株式を購入できるようになった。BGIが2億5100万ドルの新規株式を公開したからだ。しかし、遺伝子編集で作られた1400ドルの小型ブタを手に入れたいのだとしたら、おそらく永久に待たなければならない。

2015年9月に開催された深セン国際バイオテクノロジー・リーダーズ・サミットにおけるBGI従業員の発表は、世界中のニュース記事の見出しを飾った。従来の半分の大きさのバマブタの販売を予定しており、好みの色とサイズにカスタマイズできるように遺伝子を編集したペットの市場を開拓するというのだ。

しかし現在、BGIの役員は、遺伝子編集したブタを消費者に販売するつもりは全くないと語る。「マイクロピッグを売る計画はありません」と、同社の動物科学プログラムの主要メンバーであるヨン・リー(Yong Li)氏は、 MIT テクノロジーレビューに語った。

計画が廃止された具体的な理由は、はっきりしない。しかし、うるさい報道、遺伝子組換え作物に関する中国国内の否定的な世論、遺伝子組換え動物の規制に関する中国政府のあいまいな態度といった要因すべてが、影響を与えているようだ。

遺伝子編集は、動物の胚を外科的に変更する迅速な手法である。多くの場合、遺伝子を無効にしたり、DNAを変更して同じ種の他の生物に見られる品種特性に持ち込んだりする。特に中国は遺伝子編集技術で先行しており、研究室で長毛のヤギや超筋肉質の犬を作り出している。

食用や他の用途のために遺伝子編集動物を販売することを、規制されないように望んでいる研究者もいる。ある種のDNAを別の種に導入しないからというのが、その理由である。

しかし、規制当局は慎重なようだ。2017年1月、米国食品医薬品局(FDA)は、動物の遺伝子組換え食品に関しては何年にもわたる書類作成が予想されると述べ、角のない牛を作り出したり、犬から病気を取り除いたりする科学者の研究に遅れをもたらすだろうと語った。中国政府も同様の見解を示しているとBGIのリーはいう。

つまり、遺伝的問題を取り除いた犬やデザイナーの毛皮を持つブタといったデザイナーペットの計画は保留になるということだ。「マイクロピッグのプロジェクトはまだ評価中であり、商用に販売する段階ではありません」と、BGIの広報部のシキ・ゴンはいい、「これ以上の詳細な情報は公開できません」と付け加えた。

2017年5月、BGIは深セン証券取引所で株式を公開し、約2億5000万ドルを調達する計画を発表した。同社は以前にも株式を公開しようとしたが、2016年の試みは書類上の不備で失敗していた。

BGIはもともと、北京基因組研究所(Beijing Genomics Institute)という名前であり、工場形式の研究室や数千人のスタッフを持つ遺伝子シーケンシングの専門企業としてスタートした。ジャイアントパンダのDNAを解読したり、IQの遺伝的根拠を探るために天才のDNAを懇請したりしてニュースになった(“Inside China’s Genome Factory”を参照)。

世界中の学者向けに、ヒトゲノムを安価に配列するサービスを提供したこともある。

以降、BGIは、出生前DNA鑑定のような応用分野の市場に参入し、この市場からの売上が総売上高の半分を占めている。ネイチャー誌によると、BGIは中国で上場する最初のゲノミクス企業であり、このことは患者個人に適した治療を施す適確医療(precision medicine)において中国の役割が高まっていることの反映だとしている。

ミニブタを作るために、BGIの科学者たちはTALENs(タレン)と呼ばれる技術を用いて、ブタの胚の成長ホルモン受容体の遺伝子を無効にしたと同社は語っている。TALENsによって作り出されたブタの重さは約14キロで、コッカースパニエルと同じくらいだ。

しかし、遺伝子編集されたペットについての記述は、BGIの607ページにわたる目論見書のどこにも見当たらない。何年にもわたる食品安全性に関するスキャンダルや規制監督に関する一般的な不信のために、遺伝組換えに関するあらゆることが、中国で慎重に扱うべき問題になったせいかもしれない。

しかし、中国政府はそういった認識を変えたいと思っている。2017年6月には北京の清華大学に調査を依頼し、遺伝子組換え大豆のような遺伝子組換え食品に対する一般大衆の意識を探ろうとした。調査はまた、中国政府が国内企業をバイオテクノロジーの世界的なイノベーターにすべく急き立てる際の、推進の規模と速度を決めるためでもあった。

小さなブタがペットとして販売されることはないかもしれない。しかしBGIは、深セン東部の熱帯気候にある海岸の高地に箱舟(Ark)と呼ばれる80万平方メートルの施設を設けて、今も動物の研究を続けている。動物の個体数を増やし、野生ブタと交配するなどして、より頑強なサンプルを作れる育種法をテストしていると、リーは語った。