新型コロナウイルスがなぜ、気候問題を深刻化させるのか?
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Why the coronavirus outbreak is terrible news for climate change 新型コロナウイルスがなぜ、気候問題を深刻化させるのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延は、気候変動問題の対応にも大きな影を落とす可能性がある。ひとたび世界的パンデミックや経済恐慌が起これば、気候変動に取り組むための各国政府の資金や意思は容易く失われてしまうだろう。 by James Temple2020.03.12

世界的な新型コロナウイルスのアウトブレイクにより、今年の温室効果ガス排出量が減少する可能性が高まっているようだ。公衆衛生の懸念が深まることで飛行機が運航停止になり、国際貿易を圧迫するというのがその理由だ。

急速に広まっているウイルスによる死者はすでに数千人に達し、大勢の人々が隔離されている。だからと言って、このウイルスが気候変動の危険を有意義に減らすと考えるのは早計だ。

過去の経済ショックや疫病、戦争により世界規模の炭素汚染が減少した稀な事例と同様に、二酸化炭素の排出量は経済が回復すればすぐに再び増加する可能性が高い。一方で、もしウイルスが本格的な世界的パンデミックおよび経済恐慌を引き起こせば、気候変動に対する取り組みに対する資金や政治的意思は容易く失われてしまうだろう。

事実、私たちは現時点では、重大かつ差し迫った公衆衛生上の危険であるアウトブレイクの阻止に国際的な注意とリソースの大部分を全面的に割くべきだ。

それでもなお、非常に伝染性が強く、拡散し続けるコロナウイルスが、気候変動の課題を複雑にする恐れがあることには注意すべきだ。長期化すれば気候変動自体が深刻な脅威となる。起こり得る脅威についていくつかのシナリオが考えられる。

 

これらを相殺するシナリオもいくつか考えられる。

ユーラシア・グループ(Eurasia Group)のアナリストがアクシオス(Axios)に語ったように、原油価格の継続的な下落は、主要なエネルギー企業にとってクリーンエネルギーへの長期投資をより魅力的にする可能性がある。また、経済危機に対応して刺激策を講じ、クリーンエネルギーと気候問題への対応に資金を投入する国も出てくるかもしれない。

また、新型コロナウイルスにより、人々がフライトやクルーズ船を恐れ続けたり、リモート労働やバーチャル会議を好むようになったりすると、炭素集約型行動の長期的な変化がもたらされる可能性がある。あるいは、深刻な危険に直面したときの迅速な対応は、気候変動問題への対応に必要な社会的変化を起こせることを示している。

しかし、ニューヨーク大学環境学部のゲルノット・ワグナー特任准教授は、新型コロナウイルスのリスクのほとんどは、気候変動の進行を食い止めるのに不利なものになっており、この時期に引き出されるより大きな教訓には非常に注意する必要があるという。

「中国の二酸化炭素排出量が減少しているのは経済が停止し、人々が死亡しているためです。そして、貧しい人々が薬や食物を手に入れられないからです」とワグナーと特任准教授は言う。「これは、気候変動から二酸化炭素排出を減らす方法としてのアナロジーにはなりません」。

確かに、地球温暖化問題の本質は、広範囲にわたる苦しみや死を避けることにある。したがって重要なのは、コロナウイルスのアウトブレイクの長期的な影響を鑑みる際に、短期的な影響を明確に念頭に置くことだ。それはつまり、多くの感染者や死者が出るということである。

それは明らかに悪いことだ。新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクを遅らせ、適切なケアを提供することが、現在の最優先事項でなければならない。