遺伝子組換えマラリアワクチン、大規模治験まであと一歩
生命の再定義

A Genetically Modified Malaria Vaccine Has Passed an Important Hurdle 遺伝子組換えマラリアワクチン、大規模治験まであと一歩

研究者は感染してもマラリアを発症せずに免疫反応を引き起こす遺伝子組み換えマラリア原虫の、ヒトでの治験を始めた。 by Michael Reilly2017.01.05

世界最悪級の病気に対抗する手段としては原始的とも思えるが、新種の遺伝子組み換えワクチンを実際に試すため、マラリアを媒介する蚊に10人のボランティアが刺された。試験は今のところ順調で、誰もマラリアを発症していないが、10人の被験者全てが抗体を産生した。つまり、ワクチンが機能しているのだ。

フレッド・ハッチンソンがん研究センター(シアトル)のジム・カブリン医師が率いる研究チームは、熱帯性マラリア原虫(赤血球に寄生する原生生物)にある、アフリカで最も一般的な種類のマラリアの原因になる3つの遺伝子を特定した。マウスによる実験では、特定された遺伝子を取り除くことで、原虫の生存期間、マウスの症状は進行しなかった。感染したマウスは抗体を産生したが、発症はしなかったのだ。

この発見は、ニーズが大きいマラリア・ワクチンには有望な一歩だ。2015年、世界保健機関(WHO)の推定では2億1400万人がマラリアにかかり、43万8000人が亡くなった。

いくつかのマラリア・ワクチンの開発が進んでいる。しかし、どのワクチンにも大きな欠点がある。「RTS,S」は熱帯性マラリア原虫から採取した遺伝子組み換えタンパク質によって、原虫に対抗するように免疫システムを調整する。ワクチンはヒトでの大規模治験中で、アフリカのサハラ南部3カ国で2018年には実用化する予定だ。しかし、RTS,Sワクチンは三分の一の患者にしか効かない。

治験中の別の方法では、放射線で原虫のDNAを損傷させ、繁殖力を弱めた後、注射または点滴で投与する。「PfSPZ」ワクチンは半分以上の患者で持続的な防御性があるが、面倒な点滴を4回も受ける必要がある(注射では効果が薄い)。

放射線照射はDNAを無作為に傷つけるが、被験者全てが同じ反応を示していることから、目的の遺伝子は安定的に除去されるとわかる。そのため、狙った遺伝子だけを除去する遺伝子組み換えワクチンが特に有望とされる。

しかし、先は長い。遺伝子を除去された原虫に感染した被験者は、人間に害のある遺伝子を改変されていない原虫に感染しないのは事実だ。つまり、被験者の免疫システムが発症を防いでいるとは考えられる。サイエンス誌によれば、マラリア撲滅に向けた次の段階は来年になる。もし治験がすべて順調なら、遺伝子組み換えワクチンのより大規模な治験が実施されるだろう。

それまでは、患者の半数、あるいは三分の一を救うワクチンは理想的とは言えないが、それでも数千人の命を救うだろう。マラリアに有効な蚊帳の配給など、他のもっと単純なマラリアの対抗策を採用してもいい。

それでも、マラリアが止まず、世界で最も大きな課題の解決策として不十分なら、蚊そのものを存在しないように作り変えることも考えられる。

(関連記事:Science, “蚊の遺伝子改変で病気を減らしてカネになるのか?,” “ゲイツが蚊の根絶に出資 反対の環境保護団体も”)