特別寄稿:応用軽視のAI研究界、現実の問題に向き合うべきだ
知性を宿す機械

Too many AI researchers think real-world problems are not relevant 特別寄稿:応用軽視のAI研究界、現実の問題に向き合うべきだ

機械学習の研究者のコミュニティの関心は新たな手法の開発に集中しており、応用を軽視するきらいがある。しかし、影響の大きな現実世界の問題を機械学習を用いて解決することの意義は大きく、応用研究についての考えは改められるべきだ by Hannah Kerner2020.08.24

機械学習を現実世界の問題に応用しようとしたことのある研究者なら誰しも、次のような反応を得たことがあるのではないだろうか。「論文の著者は独創的で非常に刺激的な問題に対する解決策を提示しています。しかし、それは機械学習の1つの応用に過ぎず、機械学習コミュニティにもたらす意義は限定的だと思われます」

このコメントは、「NeurIPS(神経情報処理システム)」に提出した論文に対し、私自身が受け取った批評そのままである。NeurIPSは機械学習研究に関する最高峰の学会だ。私はこれまで、私や共著者が機械学習の応用手法を提示した論文に対し、同じような批評を何度も受けてきた。多くの他の研究者からも同様の話を耳にする。

このことから、私は次のような疑問を抱いている。「インパクトの大きな現実世界の問題を機械学習で解決しようとすることの意義が機械学習コミュニティにおいて限定的であるというのなら、我々が目指しているものは一体何なのだろうか?」

人工知能(AI)の目標はマシン・インテリジェンスの未開拓分野を切り開くことだ。機械学習の分野における新たな開発とは通常、新しいアルゴリズムや手続きであり、深層学習の場合では新しいネットワーク構造のことである。他の人々が指摘してきたように、このように新たな手法の開発に研究が極度に集中することは、ベンチマーク・データセットの些末な、あるいは漸進的な改良を報告する論文の濫造を招き、研究者が順位表の上位を争うという問題のある研究方法へと繋がってしまう。

その一方で、機械学習の新たな応用方法について述べた多くの論文が、新しいコンセプトや大きな影響力を持つ結果を提示している。しかし、「応用」という言葉が少し登場するだけでも、論文のレビューアーはげんなりしてしまうようだ。結果として、そのような研究は主要なカンファレンスで隅に追いやられることになる。論文の著者が真に願っているのはワークショップで自分の論文が受け入れられることだけなのだが、コミュニティから同じ注目が得られることは稀だ。

これは問題である。なぜなら、機械学習は、健康増進、農業、科学的発見などに関して、非常に将来有望な分野であるからだ。初めてのブラックホールの画像 は機械学習を利用して作成された。創薬のための重要な一歩となる最も精度の高いタンパク質の構造の予測もまた、機械学習を利用してなされた。もし、機械学習分野の他の人々が、現実世界の問題への機械学習の応用を優先していたとしたら、今日までに他にどのような画期的な発見がもたらされていただろうか?

現実への応用の重要性が指摘されたのは初めてのことではない。ここで、「重要となる機械学習(Machine Learning that Matters)」というタイトルの有名な論文を引用しよう。米国航空宇宙局(NASA) のコンピューター・サイエンティストである キリ・ワグスタフ博士の論文には、「現在の機械学習研究の多くは、科学と社会というより大きな世界にとって重要 …

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