KADOKAWA Technology Review
×
来れ!世界を変える若きイノベーター。IU35 2025 候補者募集中。
AIアバターやエージェント、EmTechで印象に残ったこと3つ
Halo Creative for MIT Technology Review
Three things we learned about AI from EmTech Digital London

AIアバターやエージェント、EmTechで印象に残ったこと3つ

MITテクノロジーレビューが4月にロンドンで開催したカンファレンスでは、より優れたAIアバターやAIエージェントなど、AIの今後の展開に関する知見が得られた。 by Melissa Heikkilä2024.05.02

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

MITテクノロジーレビューは4月16~17日、英国ロンドンで初の「EmTech(エムテック)デジタル・カンファレンス」を開催した。大成功だった。大勢の参加者がすばらしい質問をするのを見て、私はとてもうれしく思った。人工知能(AI)の次の展開に関する、脳をくすぐるような洞察に満ちた2日間だった。

ここでは、カンファレンスから私が持ち帰った3つの重要なことを紹介する。

1.AIアバターは本当に本当に出来が良くなっている

英国を拠点とするAIユニコーン企業のシンセシア(Synthesia)が、これまで見たこともないほど感情的でリアルな次世代AIアバターの予告を発表した。シンセシアはこのアバターを、より魅力的な新しいコミュニケーション手段として宣伝している。たとえば新入社員は、何ページもある新入社員研修資料に目を通す代わりに、超リアルなAIアバターが説明してくれる動画を見て、自分たちの仕事について知っておくべきことを学べるかもしれない。このことは、私たちのコミュニケーションの方法を変える可能性を秘めている。たとえば、コンテンツ制作者が自分の仕事を特注のアバターに外部委託できるようになったり、組織が従業員とより情報共有しやすくなったりするだろう。

2.次はAIエージェントが登場する

チャットGPT(ChatGPT)ブームのおかげで、多くの人たちが、情報を検索・取得できるAIアシスタントとのやり取りを体験した。しかし、それらのツールの次世代版となる「AIエージェント」は、それをはるかに上回る可能性がある。AIエージェントは、ダイナミックな世界で自律的に独自の意思決定ができるAIモデルやアルゴリズムである。たとえば、AI旅行代理店を想像してみてほしい。そのAIエージェントは情報を取得したりやるべきことを提案したりするだけでなく、フライトからツアー、宿泊施設に至るまで、あなたに代わって予約するためのアクションを起こすことができる。オープンAI(OpenAI)やメタから、スタートアップ企業に至るまで、あらゆる有能なAI研究機関が、より優れた推論を実行し、より多くの手順を記憶し、他のアプリやWebサイトとやりとりできるエージェントの構築を競い合っている。

3.人間も完璧ではない

AIシステムが不具合を起こさないようにする最善の方法の1つは、人間がAIシステムを監査・評価することである。しかし、人間は複雑で偏見があり、常に物事を正しく実行するとは限らない。私たちの期待に応え、限界を補完するマシンを構築するためには、最初からヒューマンエラーを考慮に入れておく必要がある。ケンブリッジ大学のAI研究者ケイティ・コリンズは、興味深いプレゼンテーションの中で、AIモデル全体の精度向上につながる方法を見つけた経緯を説明した。その方法とは、たとえばデータにラベル付けする際にどの程度自信があるかパーセンテージで示すなど、人々が確信度を表現できるようにすることである。このアプローチの唯一の欠点は、より多くのコストと時間がかかることだ。

走り方の次は歩き方、人型ロボットの着実な進歩

オレゴン州立大学の研究チームは、「ディジット(Digit)V3」という名前の人型ロボットを訓練し、立つ、歩く、箱を拾う、ある場所から別の場所へ移動するといった動作を教えることに成功した。一方、カリフォルニア大学バークレー校の別の研究チームは、ディジットに、不慣れな環境でさまざまな荷物を運びながら転倒せずに歩行する方法を教えることに重点を置いている。

重要なこととして、どちらのグループも、ディジットのような二足ロボットの訓練法として急速に普及しているAI手法「Sim-to-Real(シム・トゥ・リアル)強化学習」を使用していることがある。研究者たちはこの手法が、より安全に周囲とやり取りでき、より堅牢で信頼性の高い二足ロボットの開発につながるほか、学習スピードも大幅に向上させられると考えている。 詳しくは、リアノン・ウィリアムズ記者の記事をお読みいただきたい

AI関連のその他のニュース

そろそろ「ユーザー」という用語を引退させる時期だ。AIの普及は、新しい言葉が必要なことを意味する。かつてはAIボットと呼ばれていたツールは、今や、自動化という感覚ではなくパートナーシップという感覚を伝えるために、「コパイロット(副操縦士)」、「アシスタント」、「コラボレーター(協力者)」などの高尚な称号を与えられている。しかし、AIがパートナーになったら、我々は何になるのだろうか? (MITテクノロジーレビュー

WHOのAIチャットボットは話をでっち上げる。世界保健機関(WHO)が、精神的健康(メンタルヘルス)、喫煙、健康的な食事などに関する人々の疑問解決を支援する「バーチャルヘルスワーカー」を立ち上げた。しかし、このチャットボットは古い情報を提供したり、単純に話をでっち上げたりすることが頻繁にある。これは、AIモデルによくある問題だ。このことは、AIチャットボットを使うことが必ずしも良いアイデアとは限らない理由を示す素晴らしい教訓である。幻覚を見るチャットボットに健康アドバイスのような重要なタスクを適用すると、深刻な結果につながる可能性がある。(ブルームバーグ

メタがAIを推進する最大の取り組みで、AIアシスタントをあらゆるアプリに追加している。この巨大テック企業は、インスタグラム(Instagram)、フェイスブック、ワッツアップ(WhatsApp)を含む同社アプリのほとんどで、最新のAIモデル「ラマ(Llama)3」を展開している。人々はメタのAIアシスタントに助言を求めたり、インターネット上の情報を検索させたりできるようになるだろう。(ニューヨーク・タイムズ

スタビリティAIがピンチ。初期の新たな生成AIユニコーン企業の1社で、オープンソースのテキスト画像生成AIモデル「ステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)」を開発したスタビリティAI(Stability AI)が、従業員の10%を解雇しようとしている。つい数週間前に、CEOのエマド・モスタクが退社を発表したばかりだ。同社は著名な研究者の何人かを失い、自社製品の収益化に苦戦してきており、 著作権をめぐる多くの訴訟に直面している。(ザ・ヴァージ

人気の記事ランキング
  1. It’s pretty easy to get DeepSeek to talk dirty 「お堅い」Claude、性的会話に応じやすいAIモデルは?
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2025 「Innovators Under 35 Japan」2025年度候補者募集のお知らせ
  3. Google’s new AI will help researchers understand how our genes work グーグルが「アルファゲノム」、遺伝子変異の影響を包括的に予測
  4. Calorie restriction can help animals live longer. What about humans? 「若返り薬」より効果? カロリー制限のメリット・デメリット
  5. When AIs bargain, a less advanced agent could cost you 大規模モデルはやっぱり強かった——AIエージェント、交渉結果に差
メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る