「米国を再び技術大国に」 次の大統領は中国との 競争力を取り戻す必要がある
ビジネス・インパクト

America’s technological leadership is at stake in this election 「米国を再び技術大国に」
次の大統領は中国との
競争力を取り戻す必要がある

誰が次の大統領になっても、米国は中国との競争力を取り戻さなければならない。「米国が発明して、中国が製造する」という古い固定概念はすでに時代遅れだ。 by David Rotman2020.11.05

11月最初の火曜日に実施される米国大統領選挙は、今後数十年間とはいかないまでも、数年間の世界を方向づけるだろう。それは、ジョー・バイデン候補とドナルド・トランプ大統領が移民や医療、人種、経済、気候変動、そして国家自体の役割について根本的に異なる考えを持っているからだけではない。テクノロジー超大国としての米国の未来に対するビジョンが大きく違っている、というのもその理由だ。

非営利メディアとして、MITテクノロジーレビューは特定の候補者を支持することはできない。だが、誰が勝利しようとも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックへの絶望的な対処を修正したり、気候変動を真剣にとらえたりするだけでは不十分だ、というのが我々の主なメッセージだ。さらに新大統領は、中国との競争力を取り戻さなければならない。中国は、急速に力をつけている技術超大国で、新型コロナウイルス感染症による活動不全から抜け出したという有利な点もある。そのためには、米国を世界のテクノロジーの中心へと押し上げた部類の研究について、現在の大統領よりはるか以前の大統領から続く、長年にわたる政府の怠慢を埋め合わせる必要がある。

トランプ大統領の実績

科学やテクノロジーにおけるトランプ大統領の実績は、自ずと明らかだろう。パンデミックが始まって以来、トランプ大統領は専門家の提言を自信満々に退けてきた。世界で最も信頼されている公衆衛生機関の1つ、米国疾病予防管理センター(CDC)を、お粗末なお役所仕事と侮るジョークのネタにした。また米国食品医薬品局(FDA)に対しては、有効性が証明されていない、危険性をはらんだ治療法やワクチンを拙速に承認するよう圧力をかけた。さらに、トランプ大統領自身の新型コロナウイルス感染症専門チームも、ぞんざいに扱った。米国の感染症の第一人者、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長を脇に追いやり、「厄介者」と呼んだ。最近の集会で、トランプ大統領はバイデン候補が「科学者の声を聴く」と約束したことを嘲笑した。対照的に、81人のノーベル受賞者は正しく科学者を尊重するからとバイデン候補を支持する書簡に署名した。世界4大科学誌『サイエンス(Science)』『ネイチャー(Nature)』『ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine)』『ランセット(Lancet)』は、トランプ大統領の新型コロナウイルス感染症への対処をこぞって厳しく非難した。

もちろん、気象科学に対するトランプ大統領の姿勢も、新型コロナウイルス同様に否定的だ。米国をパリ協定から離脱させ、地球温暖化は些細なことだとほのめかした(「そのうち涼しくなるだろ? まあ見てればいい」)。また汚染や温室効果ガスの排出、化石燃料の採掘、有毒化学物質、その他の環境問題に関する多数の規制を後退させた。そして、州が連邦政府よりも厳格な排出基準を設けるのを阻止しようとした(これは失敗に終わったが)。

これらの政策は、科学やテクノロジー全般を広く軽視する政権の姿勢を反映している。毎年、トランプ政権は、国立科学財団(NSF)や国立衛生研究所(NIH)、環境保護庁、エネルギー省などの機関における、防衛関連以外の研究費の大幅削減を提案している。一方の議会は毎年、削減ではなく増額を認めてきた。だが、パンデミックによる打撃を受けた経済を立て直そうとしている現在、次の増額は難しいかもしれない。これまでに成立した下院の法案は、かろうじて昨年と同じ水準の研究予算を維持している。

明るい面も少しはある。トランプ政権の今年の予算案ではNSFの予算は6.5%削減されたが、人工知能(AI)や量子情報科学など、経済・軍事面での重要性が考えられるテクノロジーのNSF研究費はほぼ倍増している。また、米国航空宇宙局(NASA)の予算も12%増となっている。ただし、その大部分は、2024年までに宇宙飛行士を再度月に送るというマイク・ペンス副大統領のビジョンを支えるものだ(ペンス副大統領が次の大統領選に出馬するタイミングを考えると好都合だが、見世物的かつ懐古的で非現実的な目標だ)。派手ではないが、より科学的に価値の高いNASAの研究計画は排除されるだろう。

東から上り、西へ沈む

もしジョー・バイデン候補が勝利してこれらの方針を転換したとしても、トランプ時代のはるか以前に始まった、米国の技術的な地位の弱体化という問題に取り組まなければならない。シリコンバレーを生んだ国は、そのバレー(サンフランシスコ・ベイエリア南部一帯)が実現した科学・産業基盤の維持に自己満足している。

数十年にわたって、米国は、科学・技術を支援する政府の重要な役割を放棄している。政府資金による研究開発は60年代半ばにピークを迎え、GDPの1.8%以上を占めていたが、現在は0.6%強に過ぎない(図1)。減った分は民間資金で補っている。

企業が利用できるテクノロジーの先駆けとなる基礎研究のために政府が負担する費用もまた減っており、20世紀半ばは70%以上だったが、2017年には42%だった。ここでも民間資金で埋め合わせをしている格好だが、その優先順位は異なる。民間資金に置き換えられた多くが、製薬分野に使われているのだ。諸外国政府は現在、クリーンエネルギーや持続可能な素材、スマート製造などの長期的でリスクの高い領域(世界が今、本当に必要としているテクノロジー)に資金を投じる傾向がある。

中国の状況はもっと対照的だ。中国は経済が爆発的に成長しているとはいえ、政府資金による研究開発のGDP比が徐々に増えている(図2)。民間の研究開発費の多くが、一定程度政府から受注してい …

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