ARPA-Eサミットで見た、ハイリスク・ハイリターンな気候技術3つ
持続可能エネルギー

Inside the conference where researchers are solving the clean-energy puzzle ARPA-Eサミットで見た、ハイリスク・ハイリターンな気候技術3つ

米エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)がこの春開催した「ARPA-Eエネルギー・イノベーション・サミット」の展示の中から、気候担当記者が注目した3つのプロジェクトを紹介しよう。 by Casey Crownhart2023.05.17

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

米国エネルギー高等研究計画局(ARPA-E:Advanced Research Projects Agency for Energy)は、ハイリスク・ハイリターンなエネルギー研究プロジェクトに資金を提供しており、資金提供を受けた企業や団体のほか、エネルギー関連の研究者や企業が一堂に会してこの分野の新情報について話し合う「ARPA-Eエネルギー・イノベーション・サミット(ARPA-E Energy Innovation Summit)」を毎年開催している。

プレゼンテーションに耳を傾け、研究者たちと顔を合わせ、そして何よりも、さまざまな展示を見て回る中で、私はぼんやりとしたむち打ちのような感覚をたびたび覚えることになった。あるブースの前に立って、植物がため込んだ二酸化炭素の量を測定する方法を理解しようとがんばりつつ、核融合を世界に電力を届けるためのより実用的な形にしようと努力している別のグループの姿を眺めていたのだ。

今すぐに気候変動への対応を始められるような、実証済みの方法は数多く存在する。風力と太陽光発電は大規模展開が進み、電気自動車は主流になりつつある。新たなテクノロジーによって企業は化石燃料生産による大気汚染さえも軽減できるようになってきている。私たちはこのような手軽な成功を重ねつつも、創造力を発揮してより困難な領域の問題解決に挑み、温室効果ガス排出量の実質ゼロを実現する必要がある。ARPA-Eの展示で目を引いた、興味深いプロジェクトを3つ紹介しよう。

どこでも地熱発電

「ここに岩があると聞いたんですが」。クエイス・エナジー(Quaise Energy)の展示スペースに近づいて、私はそう叫んだ。

クエイス・エナジーのブースに掲げられた1枚のスクリーンには、簡単なまとめやデモ映像が流れていた。そして思ったとおり、テーブルの上には厚みのある岩石が2個置かれていた。2つの岩石は若干くたびれた様子で、どちらも中央に25セント硬貨ほどの穴が空き、その穴の周囲は焦げている。

この2つの岩石は、地熱発電をどこでも可能にするという大きな目標にために焦げ目を付けられている。現在では、発電に使えるだけの十分高温な熱を地球から取り出せるのは、アイスランドや米国西部など地球上の特定地域の地表付近に限られる。

理論上、十分な深さまで穴を掘れれば、地球上のどこでも地熱を利用できる。だが簡単なことではない。地下20キロメートル(12マイル)まで掘り進めなければならない可能性もある。これは現存するどの石油・ガス採掘坑よりも深い。

従来の採掘技術で何層もの花崗岩を掘り進めるのではなく、クエイス・エナジーは高出力のミリ波で岩を蒸発させ、地殻のより固い部分を突破しようとしている(レーザーのようなものだが、やはりレーザーとは異なる)。

クエイス・エナジーのブースに展示されていた穴の空いた岩石のサンプルは、その実験によって生まれたものだった。一方は玄武岩、もう一方は円柱状の花崗岩だ。玄武岩と花崗岩は、地下に埋もれている熱に到達するためにクエイス・エナジーが挑まなければならない2種類の典型的な岩石である。

クエイス・エナジーは研究室で、浅いところから始めて徐々に穴を深くしていく形で採掘テクノロジーの試験を進めてきた。そして今年の後半には、テキサス州で屋外での実地試験を始める計画だ。

菌の板

普通であれば、菌類はおそらく最も壁に生えてほしくないものの1つのはずだが、一部の研究者は菌類がへき地の建造物の断熱に役立つかもしれないと考えているようだ。

世界のエネルギーの約4分の1は、住宅や商業建造物の暖房と冷房に使われている。断熱性能を向上させることで電力需要を減らし、気候変動で気温の変化の振れ幅がより大きくなる中でも建物の中にいる人々が快適だと感じる状態を維持できるかもしれない。だが、ポリスチレンやガラス繊維強化プラスチックといった合成樹脂から、綿やリサイクル紙まで断熱材はいろいろあるが、高価になる可能性がある。さらにへき地では、配送の距離が延びてコストが膨れ上がることもある。

米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の一部の研究者は、天然の断熱材をアラスカなどのへき地に届けようとしている。彼らは地元の木から採取したセルロースパルプと菌糸体を混ぜ合わせることで、へき地の地元で作れる断熱材を完成させ、世界中にポリスチレン板を配送せずに済むようになることを期待している。

このプロジェクトは比較的新しく、今年ARPA-Eからの資金提供を受けたばかりだ。チームのメンバーたちは断熱材の製造工程をどこにでも移動させることができるようにしながら、素材の断熱性能強化と、耐火性能の確保に取り組んでいる。

ハイブリッド電動飛行機

展示ホールに本物の飛行機が置いてあったわけではないが、模型飛行機を見ただけで足を止めてしまった。さらにそこで、本物の試験飛行の様子を映した映像を流していたのだから、一層興味をそそられた。

アンペア(Ampaire)はカリフォルニア州に拠点を置くスタートアップ企業で、2022年11月にプラグイン・ハイブリッド飛行機「エコ・キャラバン(Eco Caravan)」の試験飛行を完了している。アンペアによると、小型電池を1つ追加するだけで、従来の飛行機に比べて燃料消費を50~70%削減できるという。

電動飛行機の実現が非常に困難である理由の1つは、いびつな規制にあり、とりわけこれを解決できる可能性があるという点で、私はこの技術に強い関心を持った。

電池はジェット燃料よりはるかに重く現在の電池テクノロジーでは数人の乗客を乗せた小型飛行機を400〜500キロメートルほど飛ばすのが限界だ。だがこの理論上の航続距離は、準備要件と呼ばれる規則によって削られてしまう。規制当局によると、要するに緊急時に対応できるだけの燃料を飛行機に積んでおかなければならないということだ。問題が起きた場合、上空でしばらく旋回を続ける、あるいは着陸するために近隣の空港までたどり着けなければならない。安全性、云々というわけだ。つまり19席の電動飛行機が理論上は250キロメートル航行できるとしても、準備要件を考慮すると、実際の航行可能距離は48キロメートル程度ということになる。これでは自転車の長距離ライドだ。

準備要件分のジェット燃料を積み、予定しているフライトに必要なエネルギーを電池で賄うことで、ハイブリッド電動飛行機は大きな費用対効果を得られる。アンペアは、来年このシステムの認可取得を見込んでいる。

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