秋接種が始まった新型コロナ・ワクチン、誰が接種すべきか?
生命の再定義

Who benefits most from the new covid vaccines? 秋接種が始まった新型コロナ・ワクチン、誰が接種すべきか?

米CDCは生後6カ月以上の全ての人に、「XBB」株に対応した新型コロナ・ワクチンの接種を推奨する勧告を出した。だが、同ワクチンを接種することで本当に恩恵を受けるのは誰なのかを見極める必要がある。 by Cassandra Willyard2023.09.19

6月中旬以来、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者数は米国中で増え続けている。そのため、アップデートされた新型コロナウイルス感染症用ワクチンがようやく利用できるようになったというニュースに安堵している人も多いだろう。新たな新型コロナウイルス感染症用ワクチンの第一弾はモデルナ(Moderna)およびファイザーが製造しており、「XBB」として知られるオミクロン変異株を対象とする。米国では、新たなワクチンの初出荷分は、早ければ9月13日の時点で一部薬局での使用が始まっており、今後数日中にさらに多くのワクチンが流通する予定だ(日本版注:日本では9月20日からXBB対応の秋接種が希望者を対象に始まる)。

米国疾病予防管理センター(CDC)は9月12日、生後6カ以上の全ての人に新たな新型コロナウイルス感染症用ワクチンを接種することを推奨すると発表。勧告に従うことで、今後2年間の入院者数を40万人、死者数を4万人減らせると予測した。この発表によって、誰がワクチン接種を受けるべきか、新たなワクチンによって最も恩恵を受けるのは誰か、という議論が再燃することとなった。

CDCのマンディ・コーエン所長は9月13日、ニューヨークタイムズ紙の論説で、「自分の家族に勧められないものを、他人に勧めたりはしません」と書いた。「私の9歳と11歳の娘、夫、そして両親は近々、腕まくりをして、アップデートされた新型コロナウイルス感染症用ワクチンを接種します。インフルエンザの予防接種も一緒に受けます」 。

あらゆる人を対象に勧告するのは、情報の伝達および勧告の実施を簡単にできるという利点がある。だが、そのような形で勧告するという決定に対し、複雑な感情を抱いている医療専門家もいる。「私としては、親や医師が年齢層ごとにワクチンを接種させるかどうか選択できるようになってほしいのです」と語るのは、ニューヨーク州ロチェスターにあるメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)のワクチン専門家、グレゴリー・ポーランド博士である。「『生後6カ月以上であれば、このワクチンを打つべきだと思います』というのは、私の意見とは一致しません」と同博士は言う。

ブラウン大学の疫学者であるジェニファー・ヌッツォ教授は、ポーランド博士の意見に同意する。「新たなワクチンがあらゆる年齢層に対して同じように恩恵をもたらすということは、データには示されていません」とヌッツォ博士は言う。「CDCによる勧告は、この事実を踏まえるべきだと思います」。

一方で、ジョンズ・ホプキンス大学医学部の感染症専門医であるクワサル・タラート助教授は、ほぼすべての人にとってリスクよりも恩恵が上回るとしている。「新型コロナウイルス感染症は、誰にとっても深刻な症状をもたらし得るというのが現実です」。ここで言う「誰にとっても」には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染するまでは健康だった若者も含まれている。CDCが9月12日、CDCの諮問委員会に提示したデータによれば、新型コロナウイルス感染症で入院することになった乳幼児と子ども、および青少年の54%は基礎疾患を持っていなかったという。

それでは、追加接種によって最も恩恵を受けるのは誰なのだろうか? この疑問について、専門家の見解は一致している。高齢者、免疫障害を持つ人、および重病になるリスクをもたらす基礎疾患を複数抱える人は、アップデートされたワクチンを接種するべきであるという。現在68歳であるポーランド博士も、そうしたグループに含まれる。65歳以上の成人は、他の年齢層と比べ入院・死亡リスクが非常に高い。2023年 1月から7月第3週までの間に、2万4000人を超える65歳以上の成人が新型コロナウイルス感染症関連で亡くなっている。この数字は45歳から64歳の人について報告されている死者数の9倍近い。妊婦もまた、重症化のリスクが高い。

他のグループには、そこまで明白な恩恵は無い。米国人のほぼ全員が、感染かワクチン接種、あるいはその両方によって、すでに新型コロナウイルス感染症に対する免疫を何かしら獲得している。「追加接種を受けていない人でも重症化を高いレベルで防げていると、依然として考えています。そしてご存知の通り、ワクチンの使用は主に重症化を防ぐためです」とヌッツォ教授は言う。CDCの新型コロナウイルス作業部会によるモデル化分析によると、症例数の多寡によって異なるものの、50歳未満の集団では、追加接種でワクチン接種者100万人あたり16人から476人の入院を回避できた推定されるという。

しかし、ワクチン接種の恩恵は入院を防ぐことだけではない。新たなワクチンは、少ないながらも存在する重症化のリスクをさらに減らす可能性がある。つまり、実際に感染した際に症状の深刻さや期間が低減したり、あるいは他者に新型コロナウイルス感染症をうつす可能性が低くなったりするかもしれないということだ。一部の新たなエビデンス(科学的根拠)では、追加接種によって新型コロナウイルス感染症による長期的な後遺症のリスクが減る可能性すら示されている。ただしヌッツォ教授は、そのようなデータは未だに予備的なデータでしかないと指摘する。同教授は、長期的な後遺症のリスクが減る可能性は「興味深い仮説だと思います」と述べる。

しかしながら、もしあなたが未だに新型コロナウイルス感染症用ワクチンが感染を防いでくれると期待しているのであれば、落胆することになるかもしれない。インフルエンザ用ワクチンは確かに感染を防いでくれる。しかし同じことが新型コロナウイルス感染症用ワクチンにも言えると、強力に裏付けるエビデンスは存在しないのだ。理論的には、血中抗体を増加させればウイルスの感染を防ぐのに十分なのかもしれない。「しかし、その状態がどれぐらい続くのかが分からないのです」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で感染症の研究を専門としているモニカ・ガンディー教授は言う。ワクチンの効果は数カ月は続くかもしれないし、数週間しか持たないかもしれない。

とはいえ、ヌッツォ教授によれば、アップデートされたワクチンを接種することに特にマイナス面はないという。同教授は副反応のことは心配していない。「私としては、追加接種を受ける方が良いと考えています」 。

しかしながら、安全性についての懸念をいくらか示している人たちもいる。オハイオ州の小児科病院で小児科医および感染症の専門家をしているパブロ・サンチェス博士は、あらゆる人に接種を推奨することを投票で決めたCDCの顧問の中で、ただ1人反対意見を出した人物である。「私はワクチン接種には大賛成です」とサンチェス博士は語る。しかし、子ども、乳幼児に関するデータが極めて少ないことを指摘し、「特に青少年については、特定の状況における潜在的な副反応について未だに警戒しなければならないとも考えています」と述べている。データが示すところによると、モデルナおよびファイザーの新型コロナウイルス感染症用ワクチンを接種した青少年、特に男性において、心筋炎が発生する率がわずかに高くなっている。しかしタラート助教授は、「新型コロナウイルスが原因で起こる心筋炎のリスクの方が、新型コロナウイルス感染症用ワクチンが原因で起きる心筋炎のリスクよりもはるかに高い」と言う。もしあなたの子どもが過去に心筋炎にかかったことがある、または現在心筋炎にかかるリスクが高い場合には、医師に相談した方が良いだろう。

他の国々は、より対象を絞ったアプローチを取っている。例えば英国では、新型コロナウイルス感染症用ワクチンを接種できるのは65歳以上の人や、基礎疾患を抱える人など、いくつかの選ばれたグループに限っている。ガンディー教授は、あらゆる人にワクチン接種を推奨したことで、アップデートされたワクチンを接種することが本当に必要とされているのは高齢者であるというメッセージが薄まることを懸念している。

新たなワクチンを今後、どういった人が実際に接種するのかは、まだ分からない。2価ワクチンを追加接種した人の数は、最もリスクが高いグループにおいてさえも低かった。ヌッツォ教授はそのあまりの低さに愕然としたそうだ。米国では65歳以上の人の間で50%に満たなかったという。これは問題である。このことは、「人々の入院と死を防ぐための取り組みを強化しなければならない」ことを示していると、ヌッツォ教授は言う。「死者が増えるのを防ぐために全力で取り組まないと、失敗することになります」。