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手術不要で麻痺患者の手を回復、電気刺激装置が実用化に近づく
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A device that zaps the spinal cord gave paralyzed people better control of their hands

手術不要で麻痺患者の手を回復、電気刺激装置が実用化に近づく

非侵襲的な電気刺激が上半身の機能回復につながることが判明した。装置は今年後半にも承認される可能性がある。 by Cassandra Willyard2024.05.21

14年前、ジャーナリストのメラニー・リードは馬に乗ろうとして失敗し、落馬してしまった。この事故により、胸部から下の大部分に麻痺が残る結果となってしまった。記者会見に臨んだ彼女は報道陣に対して、「最終的に右手の感覚は戻りましたが、左手は依然として『動かない』ままです」と語った。

脊髄に電気刺激を与える非侵襲型の装置が新たに開発されたおかげで、今では左手の感覚もある程度回復している。この装置を使用すると、髪をポニーテールにまとめたり、タブレットでスクロールしたりすることはもちろん、シートベルトのラッチを外せるぐらいの力を出すこともできる。小さな一歩のように見えるかもしれないが、とても大きな一歩だとリードは言う。

「脊髄損傷と聞くと、再び歩けるようになることが患者の唯一の願いだと誰もが考えているしれません。ですが、四肢麻痺患者の場合は手を動かすことが何よりも大切なのです」。

60名を対象とした臨床試験の一環で、リードは「ARCex」という装置を手にした。リードをはじめとする被験者たちは、2カ月間の理学療法を受けた後、刺激を組み合わせた理学療法をさらに2カ月間受けた。

ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)に5月20日に掲載された試験結果では、被験者の大部分に症状の改善が見られたことが示された。4カ月間の臨床試験が終了するまでに、被験者の72%が手または腕の力と機能の双方がある程度改善していることを実感した。これは、刺激を与える装置の電源を切った後の結果である。こうした療法の少なくとも1つで症状に改善が見られた割合は90%にのぼる。そして、87%が生活の質が向上したと報告した。

メイヨー・クリニックの神経科学者、イーゴリ・ラブロフ助教授は、「この臨床試験は、脊髄への非侵襲的な刺激が麻痺患者の上半身の機能回復に資するかどうかを最初に調べた研究ではありません。ただ、これほど多くのリハビリテーションセンターや被験者を対象とした試験は史上初であり、重要な研究であることに間違いはありません」と評価した。ただし、ラブロフ助教授は、この治療法は損傷部位より下をある程度動かせる患者にもっとも有効だろうとも指摘している。

この臨床試験は、研究チームが規制当局の承認を求める前の最後の関門だ。研究チームは今年末までに米国内で承認される可能性があると期待を寄せている。

ARCexは小型の刺激発生装置で構成されており、脊髄に設置された電極にワイヤーで接続されている。今回の場合、首のすぐ下、手と腕の動きを司る部位に設置されている。ARCexは、オンワード・メディカル(Onward Medical)が開発した。スイス連邦工科大学ローザンヌ校の神経科学者で、現在は同社の最高科学責任者(CSO)を務めるグレゴワール・クルティーヌ教授が共同創業した会社である。

脳と損傷部位より下の脊髄の間がまったく繋がっていない少数の患者にとって、この装置から与えられる刺激は効果がないだろう。しかし、まだ両者が繋がっている患者にとっては、刺激を与えることで神経が信号を伝達しやすくなり、麻痺した部位を自発的に動かすことが容易になるようだ。過去数十年にわたって動物を対象に実施されたさまざまな研究により、刺激を与えることで残存した神経繊維が活性化され、時間の経過とともに新しい神経の成長が促されている可能性が示されている。そのため、装置の電源を切っても効果が持続するわけだ。

外部設置型の刺激発生システムが埋め込み型を大きく優越する点は、手術の必要性がないため、装置の使用にかかる負担が少ない点だ。シェパードセンター(Shepherd Center)で脊髄損傷研究部長を務めるエデル・フィールドフォートは記者会見で、「侵襲性のテクノロジーに興味を示す人は非常に少ないです」と語った。オンワード・メディカルはARCexの価格をまだ設定していないが、外科的な治療よりも安価になる可能性が高い。

記者会見に同席したワシントン大学のエンジニア兼神経科学者であるチェット・モリッツ教授は、「我々がここで検討しているものは、クリニックですでに提供されている理学療法や作業療法と非常にシームレスに統合できる装置です」と説明した。脊髄を損傷した直後は回復の見込みが最も高い時期であるため、損傷直後のリハビリは非常に重要だ。モリッツ教授は、「手術を必要とせずにそうした機能を取り戻すことができれば、脊髄を損傷した多くの方々の人生が一変するかもしれません」と補足した。

被験者の一人となったリードは、脊髄を損傷した直後にこの装置を使用できればよかったと感じつつ、事故から長い時間を経て取り戻せた機能の多さに驚いている。「14年も経つと…そうですね、私は今のままで、これからも何も変わらないんだろうと思っていました」。だが突然、左手に力が宿ったのだ。リードは「本当に驚きましたよ」と振り返る。

オンワード・メディカルは、より強力で、より精度高く刺激を与えられる埋め込み型装置の開発にも取り組んでいる。この装置は、完全麻痺の患者にも効果を発揮する可能性がある。同社は、来年にも臨床試験を実施したい考えだ。

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