子どもの安全か?ネットの自由か? 米SNS規制巡り議論

Child online safety laws will actually hurt kids, critics say 子どもの安全か?ネットの自由か? 米SNS規制巡り議論

子どものネット利用の安全確保を目的として、米国でソーシャルメディアなどへのアクセスを制限する法案が議論になっている。すでに先行して一部の州では州法が成立しているが、規制賛成派と反対派のそれぞれに言い分があり、一筋縄ではいかないだろう。 by Tate Ryan-Mosley2023.10.09

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

青少年のオンライン・プライバシーの取り扱いについて定める2つ法案がこの夏、米上院の委員会を通過した。どちらもここ数年、連邦議会においてさまざまな形で取り沙汰されており、本格的な超党派の支持を得つつある。

同時に、複数の州でここ数カ月間、子どものオンライン安全に関する法律が関心を集め、そして政治化している。私が今年4月に記事にしたように、こうした政策は州によって大きく異なる。子どものデータに焦点を当てたものもあれば、子どもがいつ、どれだけネットにアクセスできるかを制限しようとするものもある。

規制支持派によれば、大手テック企業が若者にもたらすリスクに対する確証は高まってきており 、このリスクを軽減するためにも、これらの法律は必要だという。彼らの主張では、保護策を講じ、未成年者のデータの収集と販売に規制をかけることは、とうの昔に実施されるべきだったことだとしている。

「私たちが目指しているのは、ソーシャルメディア・プラットフォームに対して、彼らが引き起こした被害に対する責任を負わせる注意義務を設けることです」。子どもオンライン安全法(Kids Online Safety Act)の法案を共同提出したリチャード・ブルメンタール上院議員は、スレート(Slate)のインタビューでこのように語っている。「こうした法律により、司法長官と連邦取引委員会(FTC)は、依存性のある摂食障害、いじめ、自殺、セックスや薬物乱用などの子どもたちに望ましくない行為を事実上助長するような製品デザインに対して、訴訟を起こせるようになります」。

しかし、驚くなかれ、たいていのことがそうであるように、この問題もまた実際にはそれほど単純な話ではない。もう一方では、こうした法律に対する声高な反対派がいる。彼らによれば、子どものオンライン保護に関する法律は、子どもたちにとって有害であるという。なぜなら、これらの法律は、その形がどうであれ、ある根本的な矛盾に対処しなければならないからだ。すなわち、ネット上の子どもたちに適用される法律を実施するためには、企業は利用者が子どもであることを判別しなければならない。そのためには機密性の高い個人情報の収集・推定が必要になる。

私がこのことについて考えていたのは、ニューヨークを拠点とする著名な市民団体、S.T.O.P.(監視テクノロジー監督プロジェクト:Surveillance Technology Oversight Projectの略)が9月28日にある報告書を発表した時のことだ。報告書は、前述のような潜在的な弊害のいくつかを強調し、テック企業に未成年利用者の識別を義務付ける法案はすべて、たとえ善意に基づくものであったとしても、あらゆる人に対するオンライン監視の拡大を招くものだと主張している。

「これらの法案は青少年を守る方策として提出されていますが、実際にはその反対の結果をもたらします」。S.T.O.P.のアルバート・フォックス・カーン常任理事はプレスリリースでこのように述べている。「すべての利用者の年齢と身元を追跡するという見当違いの取り組みよりも、すべての米国人のためのプライバシー保護が必要です」。

世の中にはさまざまな規制が存在するが、報告書は一部の州について、従来に増して未成年者のインターネット・アクセスに厳格な、極端ですらある制限を課す州法の制定に向けた動きがあり、ネット上での言論が事実上制限されていると指摘している。

たとえば、2024年3月に施行される予定のユタ州の法律では、午前6時半から午後10時半までの時間帯以外に未成年がソーシャルメディアにアクセスするには、親の同意が必要とされる。さらに、ソーシャルメディアの運営会社には、親が子どものアカウントにアクセスできるようにする機能の提供が義務づけられている。

規制反対派、特にS.T.O.P.をはじめとするオンライン・プライバシーと言論の自由の擁護者らは、これらの法案をさまざまな観点から問題視している。だが、各規制に共通して指摘されている問題点は、プライバシーを保護しつつ、容易にユーザーが未成年であることを確認する方法がないということだ。

ユタ州の州法のように、特定のWebサイトや製品にアクセスする前に、政府発行の身分証明書などによる公式な年齢確認の提出を求める法案も存在する。だが、免許証のコピーをX(ツイッター)に提出したいなどと誰が思うのだろうか? 一方、カリフォルニア州などでは、企業がすでに収集したデータを基にユーザーの年齢を推定することが認められている。

私自身は、このような認証システムの影響が、未成年の利用者という意図された範囲をはるかに超えて及びかねないという主張に繰り返し立ち戻ってきた。 S.T.O.P.が主張するように、利用者やテック企業に認証の負担を負わせることで、一定の種類のコンテンツから成人を遮断することにもなりかねない。もしそうなれば、インターネットの自由が制限されることになる。特に非正規移民のような、年齢情報の共有に対して抵抗がより強い、社会から疎外されたコミュニティーのメンバーにとってはなおさらだ、とS.T.O.P.は述べている。

そして報告書は次のように指摘する。 「これらの法律は、ほぼすべてのインターネット・サービスにおいて、利用者の法的氏名、年齢、住所を認証する新たな侵襲的な手法の使用を義務付け、あるいは強制するものである(中略)。この変更は、すべての利用者にとって侵襲的かつ危険であり、非正規移民コミュニティ、LGBTQ+コミュニティ、生殖医療の希望者には特に強力な脅威となる」。

正直なところ、これらの法律を適切に評価するのことは難しい。一方では、ソーシャルメディア・プラットフォームが子どもたちに与える有害な影響についてのエビデンスは、否定しがたいものだ。だが、話は複雑である。私はこれまで、両方サイドに関連する問題に触れてきた。そして改めて強調するが、こうした法制度は州によって大きく異なるのだ。

個人的な意見としては、未成年と成人の両方を対象とする、利用者のデータと安全性を保護する包括的なプライバシー関連法が米国で成立すれば、事態ははるかに円滑に進むだろうと考えている。

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