「自分たちが見たい世界を作りたい」ガールズ・ガレージの取り組み

The nonprofit that lets girls build the world they want to see 「自分たちが見たい世界を作りたい」ガールズ・ガレージの取り組み

カリフォルニア大学バークレー校で建築を学んだピロトン=ラムは、非営利団体「ガールズ・ガレージ」を設立して、若者が自分の見たい世界を作るための力とスキルを身につける手助けをしている。 by Allison Arieff2023.11.20

エミリー・ピロトン=ラムは特に手先が器用な一家の中で育ったわけではないが、外で丸太や棒を使ってツリーハウスを作りながら何時間も過ごした。「私はどちらかというと、空間的・物理的な考え方をするタイプでした」と彼女は言う。「空間を作ったり、環境を変えたりするのは、私が世界を理解し始めた頃にした、最初のことの1つでした」。

カリフォルニア大学バークレー校とシカゴ美術館附属美術大学で建築を学んだ後、ピロトン=ラムは自分が伝統的な建築の世界には向いていないことを自覚した。「パーティションで仕切られたデスクで仕事をしたり、上司の下で働いたりするのは、うまくできないとすぐに気づきました。目の前の紙の上でアイデアを思いついたら、それを実際に建築できなければダメなんです」。

ピロトン=ラムは、自分が建築好きになった原点に何度も立ち戻った。それは、自分の手を使い、他の人たちと一緒に重要なプロジェクトに取り組むことだった。2008年、ピロトン=ラムは26歳のとき、非営利団体「プロジェクトHデザイン(Project H Design)を設立した(2013年にガールズ・ガレージ=Girls Garageへ名称変更)。その目的は、若者に自分たちが見たい世界を作るための個人的な力と、電動工具のスキルを身につけさせることだった。

GIRLS GARAGE
JACS DE LEUW
ガールズ・ガレージの創設者としてエミリー・ピロトン=ラムは現在、設計と建築の実践プロジェクトを通じて子どもたちに体験的な学びを提供している。「生徒には電動工具の使い方だけでなく、自分自身の力を引き出す方法も教えています」。

カリフォルニア州バークレーに拠点を置くガールズ・ガレージは、ピロトン=ラムが言うところの「性差別のある建設現場の社会的なレイヤーや結石」に影響を受けることなく、9歳から18歳までの若い女性たちが一緒にモノを作るために生み出されたワークショップ空間である(現在、建設業界で働く女性の割合はわずか3.4%である)。2021年のTED講演『もし女性が自分たちの見たい世界を作るとしたら(What if Women Built the World They Want to See? )』が250万回以上閲覧されたピロトン=ラムは、女性インストラクターのチームと一緒に働いている。インストラクターの多くは、プログラムの卒業生だ。

きちんと整理整頓された明るい空間は、完全装備の木工所(電動工具と手工具の両方があり、まずは安全訓練からすべてのセッションが始まる)であり、印刷スタジオでもある。ここにやって来る女の子や性別不適合の若者たちは、椅子やモザイク作品を作る1週間のワークショップに参加することもあれば、ひと夏や1学期を費やしてより本格的なプロジェクトに取り組むこともある(最近のプロジェクトの中には、小学校用の移動式ニワトリ小屋、コミュニティガーデン用の屋外家具、州交通局と連携したバス停、仮設住宅の図書スペース用の本棚やベンチなどがある)。生徒の約58%は、無料または割引料金でプログラムに参加している。

BRYAN MELTZ
BRYAN MELTZ
生徒たちは再生杉材、チョップソー、インパクトドリルを使い、カリフォルニア州ペタルマにあるイームズ・ランチ(Eames Ranch)ファームガーデン用に6メートルのジオデシック・ドームを作った。
自慢気にガーデンドームを披露する上級設計/建築チーム。ひょうたんのつるや他のつる性果実を這わせて彫刻構造を作る際の骨組みとして使われる予定だ。
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建築、工学、建設などの業界は革新が遅いことで有名だ。ガールズ・ガレージは、生徒がそれらの業界へ進むのを後押ししようとしているわけではない。卒業生とプロジェクトを通じて建設業界の変化を加速させる手助けをしているのだとピロトン=ラムは説明する。「保守派の人が女性ばかりのガールズ・ガレージの建設現場を見たとき、驚いて二度見するのが大好きです。そこには、あらゆる年代、あらゆる人種、あらゆるアイデンティティの女性がいます。21歳の卒業生が、シリコンバレーの数百万ドル規模のプロジェクトのエンジニアを務めているのは、素晴らしいことだと思います。現場では彼女の指示に従わなければなりません。誰が何を担当し、誰が何の役割を果たすべきかという前提の見直しを迫られる(時には強制される)ときに、イノベーションが起こるのだと私は考えます」。

2023年7月、ガールズ・ガレージのビルダー・ブートキャンプ(Eames Ranch)は、バークレーにあるウィラード中学校のために2台のニワトリ用けん引トラックを作った。
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学生たちは、留め鋸、ドリル、インパクトドライバーなどの基本的な電動工具を使用して、移動式鶏小屋の壁を組み立てて組み立てる方法を学ぶ。
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黒人、先住民、クィア主導の土地管理団体であるシェルターウッド ・コレクティブ(Shelterwood Collective)の杉のサウナで働く少女たち。
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ガールズ・ガレージでものを作ることは、「将来の道を選ぶというよりも、クリエイターや建築従事者、活動家、そしてどこででも通用する可能性のある技術力とリーダーシップの両方を持つ若者になることが目的です」と、ピロトン=ラムは続ける。とはいえ、これまでに何百人もの生徒がガールズ・ガレージを訪れ、建造環境を形作る業界への愛情を育んだり発見したりしてきた。卒業生たちは、土木工学や建築の大学課程に進学したり、溶接の見習いや資格取得のプログラムに進んだりしている。「小学4年生や5年生のときにガールズ・ガレージにやってきた若者たちが、今ではさまざまな空間、部屋、現場で異なるタイプのリーダーとして活躍しているのを見ることができ、信じられないほどうれしく思います」と、ピロトン=ラムは言う。

このチームはカリフォルニア州カザデロの森で、アメリカスギとヒマラヤスギを使ったアクセシブルなサウナのプロジェクトを3日間でやり遂げた。
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今年、ガールズ・ガレージは設立10周年を記念して、より広い新たな空間(以前の倍となる5000平方フィート=約465平方メートル)に移転する。 これにより、より多くの講座を運営したり、より大規模な建設プロジェクトに取り組んだり、参加者数を拡大したりできるようになる。この移転は、「大きな期待を象徴しています」と、ピロトン=ラムは言う。それは、生徒たちが「私たち全員が見たいと思うような世界の作者や建築者となること、そして、それを実現するための空間を持ち、支援を受けられることです」。