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Google DeepMind
Google DeepMind’s new AlphaFold can model a much larger slice of biological life

グーグル、AlphaFold 3を発表 生命分子の構造を予測

グーグル・ディープマインドは、DNAやRNAなどの生命分子の構造と相互作用を予測できるAIモデル「AlphaFold 3」を発表した。創薬および研究分野におけるAIの利用をさらに推進する。 by James O'Donnell2024.05.10

グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)は、生物学予測ツール「アルファフォールド(AlphaFold)」の改良版を公開した。新バージョンでは従来のタンパク質だけでなく、生物学的生命のほぼすべての要素の構造を予測できるという。

この進展によって、創薬や他の科学研究が加速する可能性がある。AlphaFoldは現在、回復力の高い作物から新型ワクチンに至るまで、あらゆるものを特定する実験に用いられている。

2020年に公開された以前のモデルは、タンパク質の構造を予測する能力で研究コミュニティを驚かせたが、研究者たちはタンパク質以外も扱えるツールを強く求めてきた。

ディープマインドによると、「AlphaFold 3」はDNA、RNA、創薬に不可欠なリガンドなどの分子の構造を予測できるという。また、AlphaFold 3はこれまでのどのツールよりも、分子の相互作用を繊細かつダイナミックに描き出せるとしている。

「生物はダイナミックなシステムです」とディープマインドのデミス・ハサビス最高経営責任者(CEO)は電話会見で報道陣に述べた。「生物学的特性は、細胞内の異なる分子の相互作用によって発生します。AlphaFold 3はそれをモデル化するための、最初の大きな一歩と考えてください」。

AlphaFold 2はヒトの心臓の高度なマッピング、抗菌薬耐性のモデル化、絶滅鳥類の卵の特定などに貢献したが、AlphaFold 3がどのような進歩をもたらすのかはまだ分からない。

コロンビア大学のモハメド・アルクライシ助教授(システム生物学)は、AlphaFoldの新バージョンが創薬にとってさらに良いものになると考えている(同助教授はディープマインドと利害関係がない研究者である)。「AlphaFold 2はアミノ酸についての知識しかなかったため、バイオ医薬品への実用性は非常に限定的でした。ですが、今回のAlphaFoldでは、原理的には薬剤がタンパク質のどこに結合するかを予測できます」。

ディープマインドによると、すでに同社創薬部門のスピンオフであるアイソモルフィック・ラボ(Isomorphic Labs)はまさにこの目的のためにAlphaFold 3を利用し、製薬企業と共同で疾病に対する新たな治療法の開発に取り組んでいるという。

アルクライシ助教授は、今回のリリースは大きな飛躍だと話すが、注意すべき点もあるという。

「システムの汎用性が大きく向上し、特に創薬目的(初期段階の研究)ではAlphaFold 2よりもはるかに有用です」(アルクライシ助教授)。だが大半のモデルと同じく、AlphaFoldの影響はその予測の正確さによって決まる。用途によっては、AlphaFold 3は「ローズTTAフォールド(RoseTTAFold)」をはじめとする主要モデルの倍の成功率を示している。だがタンパク質−RNA相互作用などの予測に関しては、依然として非常に不正確だとアルクライシ助教授は指摘する。

ディープマインドによると、モデル化される相互作用に応じて正確度は40〜80%以上となり、AlphaFold 3は自らの予測にどれほど確信があるかを研究者に伝えるという。予測の正確度が低い場合、研究者は別の方法を探る前の単なる出発点としてAlphaFoldを利用せざるを得ない。こうした精度のばらつきにもかかわらず、ペットボトルのプラスチックを分解できる可能性がある酵素はどれか、といった問いの答えに向けて研究者が最初の一歩を踏み出す場合であれば、AlphaFoldのようなツールを使う方がX線結晶構造解析などの実験的手法を用いるよりもはるかに効率的だ。

改良型モデル

AlphaFold 3の分子ライブラリの規模拡大、複雑性の向上には、基盤モデルのアーキテクチャの改良が必要だった。そこでディープマインドは拡散モデルに目を向けた。拡散モデルは近年、AI研究者によって着実に改良されており、現在ではオープンAI(OpenAI)の「DALL-E(ダリー)2」や「Sora(ソラ)」といった画像・映像ジェネレーターのエンジンとして使われている。拡散モデルはノイズの多い画像から始めて、正確な予測が現れるまで少しずつノイズを減らしていく手法だ。この方法により、AlphaFold 3ははるかに大規模な入力セットを扱うことができる。

これは「以前のモデルからの大きな進化」だったとディープマインドのジョン・ジャンパー部長は話した。「さまざまな原子を連携させるプロセス全体が本当に簡素化されました」。

一方で新たなリスクも生じている。ネイチャー誌に掲載されたAlphaFold 3の論文に詳細が述べられているように、拡散モデルの利用によってモデルがハルシネーション(幻覚)を起こしたり、もっともらしく見えるが実際には存在し得ない構造を生成したりする可能性だ。ディープマインドは特にハルシネーションを起こしやすい領域に訓練データを追加することでリスクを軽減しているが、それで問題が完全に解決されたわけではない。

制限付きアクセス

AlphaFold 3が与える影響は、ディープマインドがこのモデルへのアクセスをいかに分配するか、という点にもかかっている。同社はAlphaFold 2のソースコードを公開し、研究者はその中身を調べて仕組みをより深く理解することができた。また、製薬会社による商用利用も含め、あらゆる目的で利用が可能だった。ハサビスCEOは、AlphaFold 3については現時点でコードをすべて公開する予定はないと説明した。代わりに同社は、このモデル用に「アルファフォールド・サーバー(AlphaFold Server)」と呼ばれるインターフェイスを公開する。このインターフェイスでは実験可能な分子に制限が掛けられ、利用は非商用目的に限定される。同社によると、技術的な利用障壁が下がり、AIテクノロジーに関してあまり知識のない生物学者にとっても利用しやすくなるという。

アルクライシ助教授によると、新たな制約の影響は大きいという。「このシステムの主なセールスポイントであるタンパク質−小分子相互作用の予測能力は、基本的には一般利用できません。現時点ではほぼティザー状態です」。

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自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。
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