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エネルギー革命の主役に躍り出た蓄電池、押さえておきたいデータ3つ
Costfoto/NurPhoto via AP
Three takeaways about the current state of batteries

エネルギー革命の主役に躍り出た蓄電池、押さえておきたいデータ3つ

蓄電池が電力セクターで急成長し、新規設置容量は前年の2倍に達した。米国ではすでに送電網において存在感を発揮し始めている。 by Casey Crownhart2024.05.10

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

最近もまた電池(バッテリー)のことが気になっている。考えるべき新しい理由が2つできたからだ。

まず、国際エネルギー機関(IEA)が、未来のエネルギーシステムにおける電池の重要性に関して、新しい特別報告書を発表した。この報告書は、電池のことを「マスターキー」と呼んでいる。つまり、電池は二酸化炭素排出量の削減に役立つ他のテクノロジーの可能性を解き放つことができると考えられているのだ。2つ目は、送電網において再生可能エネルギーがさらに大きな役割を果たせるようにすることで、電池がその「マスターキー」の地位をすでに獲得しつつあるかもしれないことを示す初期の兆候が、カリフォルニア州で見られることだ。それでは、電池に関するデータをいくつか掘り下げて見てみよう。

1.  電力セクターの中で電池貯蔵は、2023年に世界で最も急成長した商用エネルギー技術だった

全世界で新たに設置された数は前年の2倍となり、合計蓄電量で42ギガワット近くに達した。これには、公共事業規模のプロジェクトや、いわゆる「ビハインド・ザ・メーター(電力メーターの背後に設置される蓄電池)」として、送電網とは切り離して家庭や企業などに設置されているプロジェクトも含まれている。

新たに設置された電池の蓄電容量の推移(2010年〜2023年)

2023年の増加分の半数以上は中国で設置された。中国は過去2年にわたり、エネルギー貯蔵用電池の主要市場だった。中国での成長は世界平均を上回っており、設置台数は2022年から昨年にかけて3倍になった。

IEAの報告書によれば、中国のこの急速な成長を後押した要因の1つとして、政策が挙げられる。複数の地方政府が、新しい太陽光発電や風力発電プロジェクトの開発者に対し、一定レベルのエネルギー貯蔵能力を組み合わせるように義務付けているのだ。

風力や太陽光などの間欠性のある再生可能エネルギーは、中国国内や世界中で急速に成長した。そしてこのテクノロジーは、送電網のクリーン化に役立ち始めている。しかし、それらの貯蔵要件政策については、次に進む段階が明らかになっている。それは、太陽が照っていない時間帯や、風が吹いていない時間帯であっても再生可能エネルギーの可能性を発揮できるように電池を設置することである。

2.  電池が送電網で果たすようになる自らの役割を、正確に示し始めている

再生可能エネルギーの量が少ない場合、利用可能な貯蔵能力を持つことはそれほど重要ではない。太陽が昇ったり沈んだりしても、エネルギーミックス全体への影響は取るに足らない程度だろう。しかし、その割合が増えると、間欠性再生可能エネルギーの課題が非常に明確になる。

カリフォルニア州ではすでに、そのような事態が起こり始めている。再生可能エネルギーは、晴れた日の日中は送電網のエネルギー需要のほぼすべてを賄うことができる。問題は、正午と、そのわずか8時間後の太陽が沈んだ後では、状況が違うことだ。

昼間は利用可能な太陽光発電量が非常に多いため、基本的に何ギガワットもの電力が捨てられている。実際に電気料金がマイナスになることもある。その後、再生可能エネルギーは急速に減少するため、天然ガスなど他の資源での発電量を増やして需要を満たす必要がある。

カリフォルニア独立系統運用機関(CAISO)における2024年4月19日の電力供給の内訳

しかし、エネルギー貯蔵技術が不足分を補い、毎日の電力供給の変動を平準化し始めている。4月19日の夕方の時間帯には、カリフォルニア州で、電池が送電網における最大の電源となった。その日、太陽光の量が1日中落ち込んだためだ(上のグラフで最も濃い色の線が急上昇しているところを探してほしい。午後6時の直後に急上昇している)。

電池はここ数週間で何度もこのナンバーワンの地位に到達している。これは、現在設置されている10ギガワット相当のエネルギー貯蔵能力が、バランスの取れた送電網の一翼を担い始めていることの兆候である。

3. エネルギー貯蔵能力をもっと増やす必要がある。朗報は電池の価格が下がっていることだ

エネルギーシステムにおいて電池が果たし得る役割の重要性を示す初期の兆候が見られる一方で、実際に送電網をクリーン化するには、まだ大量の電池が必要である。今世紀半ばまでに温室効果ガスの排出量をゼロにしようとするのであれば、電池の設置数を7倍に増やさなくてはならないだろう。

世界全体のエネルギー貯蔵容量(今世紀半ばまでに「実質ゼロ」を達成するために必要なエネルギー貯蔵量の予測)

朗報もある。このテクノロジーがますます安価になっていることだ。電池のコストは劇的に下がっており、2010年以来90%低下し、まだ下げ止まっていない。IEAの報告書によると、電池のコストは今後10年以内にさらに40%下がる可能性があるという。このようなさらなるコスト低下によって、蓄電能力を備える太陽光発電プロジェクトの建設コストが、インドや中国の新規石炭発電所よりも安くなり、米国の新しいガス火力発電所からも下回ることになるだろう。

ただし、電池が送電網全体をクリーン化する魔法のようなテクノロジーになることはないだろう。より一貫して利用できる地熱や、需要に応じて利用を増減できる水力など、他の低炭素エネルギー資源が、今後のエネルギーシステムの重要な一部となる。しかし私は、電池がどのようにエネルギーミックスに貢献するのか、観察し続けることに興味がある。

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一部の企業は、定置型蓄電池の材料として、リチウム以外の素材に注目している。2023年の記事で、ナトリウムを基本材料とする電池の展望が掘り下げられている。

リチウム硫黄電池技術がより安価で優れた電池の可能性を解き放ち、1回の充電でより遠くまで走行できる電気自動車の実現につながるかもしれない。そうした電池を実現しようとしている企業を取り上げ、記事にしている


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    → 私は昨年、ナトリウムを基本材料とする電池の可能性について記事を書いた。(MITテクノロジーレビュー
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    → クライマックスフーズ( Climax Foods)が人工知能(AI)を使って植物由来のチーズを作っている方法については、この記事をチェックしてほしい。(MITテクノロジーレビュー
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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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