大気汚染の減少で温暖化が加速、解決策は地球工学?

The inadvertent geoengineering experiment that the world is now shutting off 大気汚染の減少で温暖化が加速、解決策は地球工学?

大気汚染に対する近年の規制強化については、住民の健康被害が減少する一方で、太陽光を反射する大気中の二酸化硫黄の量が減って地球冷却効果が薄れることで、地球温暖化を加速する一因となっているとの指摘がある。 by James Temple2024.04.16

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

通常は気候変動について語るとき、温室効果ガスの排出が地球の気温上昇において果たす役割に真正面から焦点が当てられる。それは当然のことだ。しかし、あまり知られていないもう1つの重要な現象も、地球の温度を上げている。他の種類の汚染の減少だ。

特に、世界中の発電所や工場、船舶が大気中に放出する二酸化硫黄の量が、大幅に減っている。ますます厳しさを増す一連の世界的な公害規制のおかげである。二酸化硫黄が生み出す大気中のエアロゾル粒子は、太陽光を直接反射して宇宙空間にはね返すことができる。また、「凝結核」の役割を果たして周囲に雲粒を形成することもできる。雲が増えたり厚くなったりすれば、その分、太陽光が遮られる。つまり、汚染を除去すれば、その冷却効果も低下することになるのだ。

先に進む前に強調しておきたい。大気汚染を減らすことは賢明な公共政策であり、それによってこれまで命が救われ、ひどい苦しみが防がれてきたことは明らかだ。

石炭、ガス、木材などの生物起源物質が燃焼することによって発生する微小粒子状物質は、心血管疾患や呼吸器疾患、さまざまな形態の癌によって毎年数百万人が早死する原因となっていることが、複数の研究で一貫して示されている。二酸化硫黄は喘息などの呼吸器障害を引き起こすほか、酸性雨の一因となったり、オゾン層を激減させたりする。

 

しかし、世界が急速に温暖化する中で、公害対策規制が地球の温度調整機能にも影響を与えていることを理解することも非常に重要である。科学者たちは、今後数十年の正味温暖化予測にこの冷却効果の低下をすでに織り込んでいる。しかし、汚染の減少が果たす役割の大きさについて、その全容をより明確に把握しようと懸命に取り組んでいる。

ある新たな研究論文によって、二酸化硫黄やその他の汚染物質の排出量の減少が、2001年から2019年にかけて地球上で観測された「放射強制力」の増加の約38%(中間推定値)の原因であることが示された。

放射強制力の増加とは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の大気科学教授であるケリー・エマニュエルがこの優れた解説記事で説明しているとおり、大気圏に入ってくるエネルギーが出ていくエネルギーよりも多いことを意味する。このバランスが最近数十年で変化しており、それに伴ってエネルギーの差分が海洋と大気によって吸収され、地球温暖化の一因となっているのである。

放射強制力の増加の残りは、「主に」熱を閉じ込める温室効果ガスの排出量が増え続けていることが原因であると、ノルウェーの国際気候環境研究センターの研究者で、この研究論文の主執筆者を務めたオイヴィン・ホドネブローグ博士は言う。ホドネブローグ博士らは、気候モデル、海面水温測定値、衛星観測データに基づいてこの研究を実施した。

この研究は、二酸化炭素やメタンなどのガスが気温を上昇させ続けているのと並行して、大気汚染の減少がさらなる温暖化を促進しているという明確になりつつある事実を浮き彫りにしていると独立研究機関バークレーアース(Berkeley Earth)の科学者、ジーク・ハウスファーザー博士は言う。そして、このような事態が起こっている時点で、地球温暖化は加速しようとしている、またはすでに加速し始めているというのが、大方の見解である(研究者がそのような加速を検知できているかどうか、そして世界が現在、研究者の予想よりも速いスピードで温暖化しているかどうかということについては、今も議論が続いている)。

締め切り日の関係で、この研究は、そのような傾向に寄与しているより最近の要因については把握していない。2020年以降、国連国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)の新たな規制により、商業輸送船も燃料中の硫黄含有量を急激に削減しなければならなくなった。交通量の多い航路の上空では「航跡」と呼ばれる筋状の雲がよく見られるが、そのような雲の形成が減っていることが、複数の研究ですでに見つかっている

改めて言うが、最も重要な点において、これは良いことである。海上の汚染だけでも、毎年何万人もの人々の早死の原因になっているのだ。しかし、そうであるにもかかわらず、大気汚染による冷却効果が低下していることを考えれば、おそらくそれらの公害政策の実施を遅らせたり変更したりするべきであるという提言を見聞きしたことがある。

2013年のある研究で、大気汚染の有害性と有益性のバランスを取ることができるかもしれない1つの方法が検討された。研究者たちは、海運業界に対し沿岸部周辺水域での低硫黄燃料の使用を義務付けるシナリオでシミュレーションを実行した。沿岸部は、死亡率や健康に与える二酸化硫黄汚染の影響が最も大きい地域である。ただし、外洋を横断する際には、船舶の燃料の硫黄含有量を2倍に増やすものとした。

その仮説上のシナリオでは、冷却効果が少し高まり、早死の数は研究当時の数値に対して69%減少するという、公衆衛生上かなりの改善が見られる結果となった。しかし特筆すべきは、低硫黄燃料の使用を全面的に義務付けるシナリオでの結果だ。死亡率が96%減少し、回避可能な死亡者数において年間1万3000人以上の差が生じたのである。

ルールが整備され、海運業界が低硫黄燃料を使用するようになった今、海運へ意図的に汚染を再導入することは、はるかに多くの論争を引き起こす問題になるだろう。

社会はもともと、船舶が大気中へ不用意に二酸化硫黄を排出していることを100年以上もの間容認していた。しかし、規制を強化した後、地球温暖化を緩和する目的で二酸化硫黄の排出を元に戻すことは、結局のところ、気候システムを意図的に微調整する取り組みである太陽地球工学(ソーラー・ジオエンジニアリング)の一種と言える。

そのような地球規模の介入は、人間がいじくり回すにはあまりにも強力過ぎるし、予測不可能な行為であると多くの人が考えている。そして確かなこととして、二酸化硫黄排出の規制を緩めるという特殊なアプローチは、世界が太陽地球工学を実行するための方法としては、より効果がなく、危険で、多額の費用がかかることになるだろう。もっとはるかに一般的に研究されている構想は、成層圏の高層に二酸化硫黄を放出する方法である。 そこでは二酸化硫黄がより長く残留し、おまけに人間が吸い込むこともない。

昨年秋に配信されたポッドキャスト『エネルギー vs 気候(Energy vs. Climate)』のあるエピソードで、このテーマを詳しく研究しているシカゴ大学のデビッド・キース教授は、対流圏での二酸化硫黄排出に起因する冷却効果の減少を相殺する手段として、成層圏で太陽地球工学をゆっくりと実施することが可能かもしれないと話した。

「人々が真剣に議論しているこの種の太陽地球工学のアイデアが小さなくさびとなり、たとえば、海運に起因するエアロゾル冷却効果が取り除かれたことに起因する追加的な温暖化で起こっていることの置き換えが始まるでしょう」と、キース教授は述べた。

太陽地球工学の利用を、世界が止めようとしていたより粗雑なやり方の単なる代替手段と位置づけることで、太陽地球工学のコンセプトに対する人々の考え方に少し異なる認識をもたらすことができるだろう。しかしもちろん、すべての深い懸念と激しい批判に対処するものにはならないと思われる。

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2018年に私は、当時策定が進められていた海運規則と、それがさらなる地球温暖化に拍車をかける可能性について記事を書き、太陽地球工学の「意図的ではない大規模な」実験が「葬り去られようとしている」と指摘した。

ハーバード、太陽地球工学実験中止の舞台裏

太陽地球工学に関する懸念について言えば、私は先に公開した記事で、成層圏で非常に小規模な実験をするため高高度気球を打ち上げようとして失敗に終わった、ハーバード大学の10年越しの取り組みについて掘り下げた。私は、このプロジェクトに携わった人々や、このプロジェクトの行方を注意深く見守ってきた人々の何人かに取材し、起こったことに関する洞察や、この出来事から引き出すことができる教訓、そしてこのプロジェクトが今後の地球工学研究にとって意味することについての考えを聞いた。

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