囲碁を卒業したディープマインド、汎用AIへ向けて動き出す
知性を宿す機械

Forget AlphaGo—DeepMind Has a More Interesting Step Toward General AI 囲碁を卒業したディープマインド、汎用AIへ向けて動き出す

5月の対局で囲碁からの引退を発表した人工知能「アルファ碁」。開発元のディープマインドの研究者は、学習の過程で、人間のような知恵を発揮するアルゴリズムをテストしている。 by Will Knight2017.06.19

アルファ碁(AlphaGo)や自動運転車の賢さは驚異的だが、どちらも汎用人工知能に向けた大きな飛躍とは言えない。だが幸いなことに、一部のAI研究者はマシン・インテリジェンスを拡大する方法を開発中だ。

囲碁チャンピオンロボット、アルファ碁を制作したアルファベット(グーグル)子会社のディープマインドの研究者は、機械の知能を人間並みにする夢を実現する重要なアプローチに取り組んでいる。

先週発表され、ニュー・サイエンティスト誌が取り上げた2本の論文(A simple neural network module for relational reasoning, Visual Interaction Networks)で、ディープマインドの研究者は、人間の知能の基礎をなす認知能力、関係推論をコンピューターに教える取り組みについて説明している。

関係推論とは、簡単に言えば、物体、言葉、観念など、異なる心的表象間の関係を考える能力だ。この種の推論は、人間の認知の発達で重大な役割を果たすと同時に、ほとんどすべての問題の解決に不可欠である。

たいていの既存の機械学習システムは概念どうしの関係を理解しようとしない。たとえば視覚システムは写真に写っている犬や猫を識別できるが、犬が猫を追いかけていることは理解できない。

ディープマインドが開発した2つのシステムは、既存の機械学習の方法を変更し、静止物体間の位置関係および時間の経過に伴う移動物体の振る舞いを学習できるようにすることで、問題を解決する。

1つ目の論文で研究者は、単純な物体のデータ・セット、CLEVR(Compositional Language and Elementary Visual Reasoning:構成言語と初等視覚推論)を使ってシステムを訓練したあと、ある物体が他の物体の前にあるかどうか、どの物体が最も近いかを尋ねた。その結果は、これまでのどのような成果より劇的に良く、場合によっては人間の能力を上回ることさえあったという。

2本目の論文で、研究者は、1つ目の方法で訓練された機械学習システムが、2次元上の単純な物体の振る舞いの予測を学習できることを示している。人間は、たとえばボールを受け取ったり、車を運転したりしているときに、常に3次元でこの種の予測をしている。実際、心理学の実験によれば、人間は物体に対する作用の結果を予測するときに「直観物理学」エンジンを利用している。ある場所に存在する物体を単に認識する作業よりはるかに知的で、パワフルな作業だ。

こうした進歩は目を見張るような飛躍的進歩ではないかもしれないが、まさに必要とされている種類の研究だ。現在の人工知能(AI)は驚異的ではあるが、その大半は機械にきわめて限られたタスクの実行を学習させるものにすぎない。新しいアイデアがなければ、AIシステムは、本当の会話をしたり、自力で難しい問題を解決したりする能力がない状態のままだろう。

ハーバード大学脳科学学部のサム・ガーシュマン准教授は、人工知能を人間の知能に近づけたければ、人間の知能をもっとうまく真似できるようにする必要があると話す。

「私たちの脳は、物体、原因、現象の関係という観点から世界を位置付けます」とガーシュマン准教授はMITテクノロジーレビュー宛ての電子メールで述べている。「このように世界を位置付けることは、人間がデータから引き出す推論の種類を大幅に制約し、あることの学習をより容易にし、別のことの学習をより困難にします。したがって、その意味で、この研究は正しい方向を目指す第一歩です。つまり、人間に似た制約を組み込むことによって、機械は人間にとって自然な作業をより簡単に学習できるようになるのです」

(関連記事:“DeepMind’s Neural Network Teaches AI to Reason About the World”)