合成生物学で劇的に進化したバイオテロにどう立ち向かうか
生命の再定義

It’s fiction, but America just got wiped out by a man-made terror germ 合成生物学で劇的に進化したバイオテロにどう立ち向かうか

ワシントンDCで5月に、バイオテロを想定した演習訓練が実施された。現在における最も際立った特徴は、遺伝子工学の進歩により、国家主体でなくても新たなウイルスを容易に作成できるようになったことだ。演習訓練のシナリオはバッドエンドを迎えるが、現実ではそうならないように政府や政治家は対策を練る必要がある。 by Antonio Regalado2018.06.01

2001年6月に政府当局者とジャーナリストのグループが、「細菌ゲーム」の演習訓練を実施した。(当時あまりよく知られていなかった)アルカイダと呼ばれるテロリスト集団が、米国のショッピング・モールで天然痘のアウトブレイクを引き起こすという架空のシナリオを想定したものだ。

「ダーク・ウィンター(Dark Winter)」と呼ばれたこの演習訓練は、米国の「パンデミック対策」に関する政策を立てるのに影響を与えた。米国や他の国も、ワクチンを備蓄し、病院のベッド数を増やして、伝染病の世界的規模なアウトブレイクに備える必要があると考えるようになった。たとえそうした事態が現実には決して起こらないとしてもだ。ダーク・ウィンターは、学校や州議会でも再演され、その後に起こった脅威を予兆した点でも効果的だった。3カ月も経たないうちに、米国は9・11の攻撃を受け、炭疽菌入りの郵便物(外国のテロリストではなく米国の軍事科学者によって送られたとされている)が米国の郵便システムに入り込んだのだ。

政治家たちは事態を真剣に捉えた。米国は現在、性別や年齢を問わず国民すべてに十分な天然痘ワクチンを備蓄しており、炭疽菌用医薬品の大量供給も確保している。

しかし現在、状況は当時とは大きく変わってしまっている。そこで5月15日に、ダーク・ウィンターに参加した人々の一部が改めて参加して、ワシントンD.C.の高級ホテルでパンデミックに対する新たな演習訓練「クレイドX(CladeX)」が実施された。午前9時になると不吉な音楽が会場に流れて、架空の内閣が座るU字型のテーブルの周りの照明が暗くなった。演習訓練の参加者の中には、この場での議長役を務めるトム・ダシュル元上院議長や、米国疾病予防管理センター(CDC)でかつて所長を務めたジュリー・ガーバーディング、ダーク・ウィンターのシナリオを作ったタラ・オトゥール博士も含まれていた。

参加者たちのすべきことは、架空のアウトブレイクへの対応である。シナリオはこうだ。ドイツのフランクフルトで数十人を死亡させたウイルスが、(ベネズエラ大統領は事実を否定しているものの)ベネズエラに広がっている。ウイルスの感染は急速に広がっており、死亡率は高い。空港を閉鎖するかどうか(この場合は閉鎖しない)、ベネズエラへの支援を実施するかどうか(この場合は実施する)を、リーダーたちは早急に決定しなければならない。さらに、フェイクニュースがソーシャルメディアで混乱を煽っているため、どうやって国民を落ち着かせるかについても、直ちに対策を練る必要がある。

しかし、 …

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