現実化した「超個別化医療」 高額費用は誰が払うべきか?
生命の再定義

This girl’s dramatic story shows hyper-personalized medicine is possible—and costly 現実化した「超個別化医療」
高額費用は誰が払うべきか?

個別化医療薬の投与によってバッテン病の少女の症状が改善されたとの報告が学術誌に掲載された。だが、患者一人ひとり向けにあつらえる遺伝子治療薬の製造には数百万ドルの費用がかかるとされており、その恩恵を受けられる人は極めて限られているのが現状だ。 by Erika Check Hayden2019.10.16

6歳のミラ・マコベックがバッテン病と呼ばれる致死性の神経障害であると診断されたとき、幸せで活発だった少女の視力はほとんどすでに失われ、言葉も発することができず、自力で歩くこともできなかった。バッテン病に対する治療法は分かっていなかった。

その状況が、ボストンの医師らがミラのためだけに与えた個別化医療の力によって、劇的な変化を遂げた。医師たちは、わずか8カ月間でミラの病気の遺伝的な原因を発見し、遺伝子異常を修復する薬をミラの脊椎に注射し始めた。この種の個別にあつらえた治療では、初の事例とされる。

ミラがこの薬の投与を受け始めてから20カ月後、母親のジュリア・ヴィタレッロと、ミラの主治医であるボストン小児病院のティモシー・ユー医師は、個別化医療は部分的に成功したと語った。ミラの発作が減り、食事も常に栄養チューブを使用するのではなく、ピューレ状の食品を自分で食べられるようになったのだ。

またミラは、彼女のためだけに処方された薬(彼女の名前にちなんで「ミラセン」と命名された)を服用した後には、笑うことも、病気にかかる前の姿を取り戻すこともあった。

ミラの治療は、10月9日付の「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine)」に掲載された。論文には、複数の研究所や企業の何十人もの人々がどのように力を合わせて薬を作ったかが記述されている。 問題は、このような超個別化医療の恩恵を、他の人々がどうやって受けられるかである。なにしろ、製造に数百万ドルもかかる可能性があるのだ。

こうした個別化医療は保険の対象外であり、製薬会社も個別化医療には投資していない。そのため、誰がその費用を支払うのかが不明なのだ。

マサチューセッツ州ケンブリッジに本拠を置くチェックメイト・ファーマシューティカルズ(Checkmate Pharmaceuticals)のアート・クリーグCSO(最高科学責任者)は、「世界中には、ミラのような患者が何万人もおり、ティム・ユー医師はそうした人々の治療法を開発する道筋を示しました。私たちは業界として、致死性の病気を治療する薬を開発する価値があるかどうかを判断する必要があります。すでにそのテクノロジーは存在しますから、あとはお金の問題です」と話す。

ユー医師は、他にも100人以上の親から、病気の子どもの治療を依頼されているというが、すべての子どもを助けることは不可能だろう。同医師は現在、この種のカスタマイズされた個別の薬によるアプローチが有効な可能性のある患者を最大12人治療するパイロット・プロジェクトを模索している。米国の他の地域では、類似の薬を入手するために患者の家族たちが独自の取り組みをしている。

米国食品医薬品局(FDA)もまた、わずか1人の人間を対象とした薬に対する試験(N-of-1試験)にどう対処すべきか苦慮している。同じく10月9日に発表された概説によると、FDAの高官であるジャネット・ウッドコックとピーター・マークスが、 …

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