新型コロナ対策、医療品不足の隙間を埋める3Dプリント企業
ビジネス・インパクト

How 3D printing could save lives in the coronavirus outbreak 新型コロナ対策、医療品不足の隙間を埋める3Dプリント企業

新型コロナウイルス感染症で医療品のサプライチェーンが混乱する中、3Dプリンター関連企業も支援に動き出した。量産拡大までの「つなぎ」としての役割が期待されている。 by James Temple2020.04.06

フォームラブズ(Formlabs、本社=マサチューセッツ州サマービル)が販売するのは本来、「3Dプリンター」であり、3Dプリントされた製品ではない。

だがそれは平時においてのことだ。フォームラブズは近々、オハイオ州の工場にある250台の3Dプリンターを使って、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査に使う鼻腔用綿棒の製造に乗り出す。生産数は1日あたり最大10万本。同工場にある3Dプリンターは通常、3Dプリンターの販売促進用に使われる歯科製品のサンプルを製造している。

新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクで患者が殺到する中、米国内の医療機関は診断に必要なツールやキットの入手に苦労している。フォームラブズは、ニューヨーク市のノースウェル・ヘルス(Northwell Health)やフロリダ州タンパのタンパ総合病院などの医療機関へ、間もなく綿棒の出荷を始める予定だ。

写真提供:フォームラブズ

フォームラブズのデイビッド・ラカトスCPO(最高製品責任者)は、「病院をはじめとするさまざまな医療機関や医師、および政府機関から数え切れないほどの支援要請が届いています」と話す。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの対応で医療品の世界的なサプライチェーンに大きな負担がかかる中、デジタル機器製造企業もまた、喫緊のニーズにすばやく対応しようと動いている。

医療品の増産について明確かつ組織的な指針を連邦政府が出していない以上、対応の多くは急場しのぎ的な方法で展開されている。メーカーや大学、医療提供者、および州や地方の政府機関は、こぞって直接電話をかけたり非公式なビジネス・ネットワークを頼りにして、医療品の給能力や専門知識を持つ企業を探している。企業や研究機関、医療機関の中には、医療品を相互に連携して供給・調達するために、自前で協力体制を敷くところも出てきた。

サプライチェーンにおける致命的な「切れ目」を埋めることで、患者数が急増する可能性がある次の数週間については、フェイスシールド、鼻腔用綿棒、人工呼吸器、および他の医療品を、確実に病院に届け続けられるかもしれない。しかし、3Dプリントは主としてその場しのぎの対応として見られており、その点では不完全なものだ。こうした散発的なやり方は、多くの患者にとって生死を分ける可能性のある部品や製品を生産する、理想的な方法からはほど遠い。

3Dプリントが人命救助にどれだけ大きな役割を果たすかは、最終的に新型コロナウイルス感染症がどれだけ急速に広まり、世界中のメーカーやサプライヤーがどれだけ迅速に設備を一新して、生産能力拡大の措置を講じるかによる。

ミネソタ州メープルプレーンに拠点を置き、3Dプリントと射出成形を手がける受託製造会社プロトラブズ(Protolabs)のビッキ・ホルトCEO(最高経営責任者)は、「医療機関には準備する時間があまり残されていません」という。「ピーク時に備えて、十分な数の病院のベッドとICU機器を追加しなければなりません。そこで私たちは、その準備を整えるための時間をサプライチェーンに与えようとしているのです」。

マサチューセッツ州バーリントンの3Dプリンター・メーカーであるデスクトップメタル(Desktop Metal)は3月26日、ハーバード大学やスタンフォード大学などの各機関や企業などともに立ち上げた「臨時コンソーシアム」が、3Dプリントされた検査用綿棒を製造する一般的なガイドラインを作成したと発表した。米国食料品医薬品局(FDA)と協議して作成したものだという。また、コンソーシアムのメンバーであるフォームラブズ、カーボン(Carbon)、HP、およびエンビジョンテック(EnvisionTec(EnvisionTec)など数社が、検査用綿棒の製造を開始する準備を整えており、すぐにでも週400万本の生産体制に移行できるとの見通しを述べた。

同コンソーシアムによると、医療機関は州の緊急事態管理機関に連絡して、緊急の物資供給を要請できるという。

3Dプリンティングによる取り組みはほかにもある。

サプライチェーンが制約されている中、コンソーシアムの調整役を担うデスクトップメタルは、医療機器に必要な金属部品の供給要請を提出できる、メーカー向けのWebサイトをすでに立ち上げている。

最近では、カリフォルニア州レッドウッドシティに拠点を置くカーボンが、アルファベットのライフサイエンス事業会社であるベリリ(Verily)と協力して、フェイスシールドを設計した。医療従事者の感染防止に役立つもので、米国のいくつかの病院では供給が不足している。フォーブス誌の報道によると、カーボンとベリリはすでに試作品を完成させ、サンフランシスコのベイエリア地区にあるいくつかの病院に評価を依頼しているという。

サウスカロライナ州の大手ヘルスケア・システムであるプリズマ・ヘルス(Prisma Health)は、3Dプリンター製の「ヴェスパー(VESper)」と呼ばれる分配用チューブの緊急認可をFDAから取得したと発表した。このチューブを使えば、人工呼吸器が不足しているときに、1台の人工呼吸器で重篤な呼吸器疾患を持つ患者を最大4人まで助けられるようになる。

プロトラブズのホルトCEOによると、同社はここ数週間での米国と欧州全域からの医療製品の注文の急増に対応するため、事業体制をシフトしたという。

さらに、プロトラブズは他の取り組みに加え、ミネソタ大学の研究チームと協力して、低コストな人工呼吸器向けの6部品の開発、テスト、および調整を数日のうちに済ませている。広く入手可能な手動の「アンブ(ambu)」蘇生バッグを、モーターで空気が送れるようにするものだ。生死に関わる問題が発生した場合、病院は人工呼吸器を自前で作れるようになる。研究チームは今後、設計図を公開することも検討している。なお、マサチューセッツ工科大学(MIT)のチームも同様のプロジェクトを推進している。

プロトラブズは大手人工呼吸器メーカー向けの部品も生産しているが、ホルトCEOによると、現段階では社名を公表したり、詳細な情報を提供したりすることはできないという。

緊急時に誤動作しないことが前提になっている医療機器向けの部品の安全性について質問したところ、ホルトCEOは適切な設計図を作成して必要なテストを実施し、規制上の適切な措置を講じるのは顧客の義務だと述べた。

だが、鼻腔用綿棒のように実際に人体に挿入する製品を製造するには、3Dプリント企業自身がより高い規制基準をクリアする必要がある。

フォームラブスがオハイオ州の施設で綿棒を製造するにあたり、FDAの承認を迅速に得ることができたのは、ひとえに、就寝中の歯ぎしり防止用のマウスピースや歯の被せものといった、口の中に入る歯科製品を3Dプリントで製造することがすでに許可されていたためだとラカトスCPOは述べる。

フォームラブスはタンパのUSFヘルス病院とノースウェル・ヘルス病院の医療専門家と協力して、鼻腔用綿棒を迅速に開発し、試験している。鼻腔用綿棒は比較的単純な製品だが、新型コロナウイルス感染症の初期の兆候を検出するには、鼻腔の奥深くまで届くように薄く長く、しかも柔軟性が必要だ。ラカトスCPOは、もし十分に鼻腔の奥深くまで届かなければ偽陰性の結果が出て、さらに感染症を広げるような行動を感染者が取ってしまう可能性があると話す。

フォームラブスは、今後数週間のニーズ次第では、3Dプリンターを迅速に追加し、日産10万本以上の生産規模に拡大することもできるとしている。

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