SF小説で描かれる未来都市はどう変わったか
ビジネス・インパクト

Politics and the pandemic have changed how we imagine cities SF小説で描かれる未来都市はどう変わったか

SF小説では実在する有名都市を下敷きにして新たな都市を描くことが多い。想像上の都市は、パンデミックや政治体制の変更といった社会的な影響を受けてどう変化してきたのか。 by Joanne McNeil2021.05.25

サイエンス・フィクション(SF)にはゼロから想像した架空の都市があふれている。だが、実在の場所を描く作家は、実際の文化や歴史に向き合わなければならない。都市の起源がすでに知られている場合、架空都市を作り上げるためには特別な世界観を構築する能力が必要だ。

紀大偉(き・たいい)の興味深い新刊『The Membranes(膜)』(英語版が6月に刊行予定)は、こうした課題にうまく対処している。2100年の台湾の大都市を、台湾が形作ってきた文化とはまったく異なる都市として描いた作品である。主人公はモモという名前の若い女性のエステティシャン。クライアントの個人データを追跡し、外界の刺激から皮膚を守る人工皮膚をクライアントに埋め込む。モモはT市におけるテクノロジーの「新しいルネサンス」の一部だ。T市は、正確には未来の台北ではない。モモのサロンから見える景色から、その違いが明らかになる。彼女は「果てしない底に広がる銀色がかった藍色の波」と「カドミウム・イエロー(鮮やかな緑色がかった黄色)の魚の群れが整然と隊列を組んでゆっくり泳いでいる」のを目にしている。読者が「空」と想像する上方には「膜」がある。全国民が暮らす新台湾の一都市であるT市は、海底に存在している都市なのだ。

大規模なオゾン層の破壊による致命的な影響を避けるために、人類は水面下のドームに移住した。移住は太陽光発電の驚異的な進歩によって可能になった。メンテナンスを担うのは下層階級のアンドロイド(ヒューマノイド)である。人間のような知覚能力はあるが人間としての権利を持たないアンドロイドは、人間から採取した臓器を使って製造されている。モモは次第にアンドロイドが抑圧されていることに気づき、子どもの頃に受けた手術と幼なじみの親友の失踪を結びつけ、全容を明らかにしていく。

この短編作品には多くの出来事が盛り込まれている。未来世界では新しい宗教が生まれ、太平洋の領土は米国のような国家とトヨタのような企業に分割され、モモのサロンでは独特のスキンケアが施される。思わず圧倒されるこの作品の土台にあるのは、モモのデジタルメディア依存だ。モモはダイヤルアップで接続する掲示板システムと、初期の検索エンジン「ゴーファー(Gopher)」に何時間も費やす。レーザーディスクが大好きで、レーザーディスクの書籍「ディスクブック」と雑誌「ディスクジン」に没頭している。

この作品で描かれている魅力的な旧式のデジタル環境によって、読者は紀大偉に影響を与えた現実世界の出来事に導かれる。『膜』が最初に出版されたのは1995年。数十年にわたる台湾の戒厳令が解除されてからわずか数年後のことだ。翻訳者のアリ・ラリッサ・ハインリッヒがあとがきで説明しているように、戒厳令の解除によって「若者世代全体に対する法的な監視が相対的に少なくなったことに加え、突然新しい思想、見解、発想が大量に押し寄せたことで」台湾文化は一変した。紀大偉はこの世代に属し、海賊盤テープを売買したり、不意に国際映画に触れたり、Webサーフィンをしたりして、メディアとテクノロジーを楽しんでいた。この時代の混乱した活気は、作品の熱狂的な精神として描かれている。T市の狂気じみた未来は、新しい体制に移行した台湾の紀大偉の経験を、ビックリハウスのゆがんだ鏡に映し出したようなものだ。

『膜』の中では、全住民が海底都市に集められたとしても、コミュニティは共通の過去から歴史を作り続けている。これは、N.K.ジェミシンが2020年に『The City We Became(我々にふさわしい都市)』(未邦訳)を執筆したときに懸念していたことだった。ジェミシンが暮らすニューヨーク市を舞台にしたこの作品の謝辞で彼女は、「これまで執筆してきた他のすべてのファンタジー小説を合わせたものよりも多くの調査が必要でした」と語っている。ジェミシンが正確に捉えたいと思っていたのはインフラやランドマークだけではなく、ニューヨーク市に住む人々だった。「現実の世界には現実の人々がいます。したがって、私が現実の世界や人を軽視したり、害を及ぼしたりするような形で描写しないことが重要です」とジェミシンは記している。

『The City We Became』は昨年のパンデミックの初期に出版され、幅広い熱狂的な読者に受け入れられた。ニューヨーク市の5つの行政区の守護者となり、その場所を体現するアバターとして活躍するスーパーヒーローたちが登場する。ヒーローたちはH.P.ラヴクラフトが描いた、触手と「葉状体」を持ったモンスターを彷彿させる「存在」と戦う。その存在はジェントリフィケーション(下層住宅地の高級化)、人種差別、警察というニューヨーク市民が直面する脅威を描いている。ジェミシンの調査と配慮は報われ …

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