バイデン大統領「がん死亡率半減」宣言、血液検査の大規模試験へ
生命の再定義

US launches trial for blood tests that promise to catch cancers earlier バイデン大統領「がん死亡率半減」宣言、血液検査の大規模試験へ

米国のバイデン大統領は、今後25年間でがん死亡率を半減させるムーンショット計画を発表した。計画の中心となるのが、複数のがんを検出できる血液検査によるスクリーニングだ。 by Hana Kiros2022.09.20

ほとんどのがんは、症状が出る前のスクリーニング(がん検診)で確実に発見することはできない。マンモグラフィやパップテスト(子宮頸がん細胞診)は例外的な検査であり、受診はルールではない。事態を改善するため、患者の腕から採取した血液によって、複数のがんの兆候を1回の検査で検出する方法が、複数の企業によって開発されている。米国では今、これらの血液検査が実際にどの程度優れているかを確認するために、全国的な臨床試験を開始する準備が進められている。

ジョー・バイデン大統領は9月12日、マサチューセッツ州ボストンで、今後25年間で米国におけるがん死亡率を半減させるという連邦政府の「がんムーンショット(Cancer Moonshot)」計画について演説した。ジョン・F・ケネディ大統領が「人類を月に送り込んで地球に帰還させる」と誓った演説から60年を迎えた日の出来事だ(これにちなんで壮大で野心的な目標のことをムーンショットと呼ぶようになった)。

演説の中でバイデン大統領が特に強調したのが、新しい血液検査と今後の臨床試験についてである。米国国立がん研究所(NCI)は、2024年に被験者の登録を開始し、4年間で2万4000人の健康な被験者を対象に、がんを発見するためのさまざまな血液検査の有効性を確認する新たな臨床試験を実施する。結果が有望であれば、ほぼ10倍規模での治験を進める計画だ。

こうした「複数がん早期検出検査(MCED)」のほとんどは、免疫系の攻撃によって破裂した腫瘍細胞の残骸を探すことでがんを発見する。死んだ腫瘍の破片が血流に入り、体調に異変を感じる前にそれを検出できれば、がんの警告を出せる可能性がある。その後、画像診断で所見を確認し、続いて生体組織診断を実施する流れだ。

現在、米国で使われているMCED検査は1つのみだ。50種類以上のがんを検出できるという「ガレリ(Galleri)」は、医療機関の処方箋が必要で、費用は949ドルかかる。米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ていないため、ほとんどの保険の対象外となり、費用は利用者の自己負担だ。開発元が発表した新しいデータによると、ガレリによる検査では、健康と考えられる約6600人の母集団のうち35人からがんが検出され、うち26症例は定期的ながん検診では検出されないがんだった。

ただ、MCED検査結果をどう解釈するかは疑問が残る。がんが実際にどの臓器にあるかを特定できるのは、一部の血液検査だけである。診断を確定するには、がんの可能性のある組織に対する検査が必要だが、全身を生体組織診断することはできない。がんスクリーニング全体につきまとう、偽陽性の問題もある。がんを見つけるためには必然的に山ほどの検査で真偽をふるいにかける作業が発生してしまう。ガレリは普及に向けて最も進んでいるMCED検査だが、前の研究では健康な57人の血液サンプルにがんの疑いがあるという、誤った検査結果を導き出している。

また、がんの中には、浸潤したり生命を脅かしたりしないものもあるが、早期発見によって早まった治療を始めてしまう危険性もある。一部のデータでは、それほど心配する必要のないがんは、実際に血流中に現れることが少ないと示されており、検査から治療へという流れを命に関わるがんに限定できるかもしれない。

NCIによる臨床試験は、がんに対する血液検査の結果をどう解釈すべきかを決定するのに役立つはずだ。新しい検査法をめぐって各社の開発競争が加速する中、がんスクリーニングの研究を開始するための標準的なアプローチを提供することにもなるだろう。

「ほとんどの企業は、各社の検査を突き合わせて比較したいとは思っていないでしょう」とハーバード大学のティモシー・レベック教授(がん予防学)は言う。「比較はコストがかかり、そして難しいのです。ですから、NCIのような中立的な機関が実施する必要があります」。

レベック教授は、NCIの新たな臨床試験で精査される血液検査は、死亡率が高く他のスクリーニング方法がない、膵臓がん、肝臓がん、卵巣がんの検出にもっとも役立つだろうと考えている。とはいえ、血液検査によって稼いだ時間で命が救われるかどうかを確かめるには、より長期間の試験が必要だ。

一方、レベック教授は、がんムーンショットの最終的な目標については楽観的だ。「血液検査を出発点として、がんによる死亡者を半分に減らせると考えることは、とても現実的だと考えられます」。