橋の経年劣化をスマホで監視、メンテコストを劇的削減
コネクティビティ

Smartphone data from drivers could help spot when bridges need urgent repairs 橋の経年劣化をスマホで監視、メンテコストを劇的削減

橋が崩落すると多数の死傷者が出る可能性があるため、適切なメンテナンスは極めて重要だ。スマホを使って橋の振動データを収集することで、既存の方法よりも安価かつ迅速に橋のコンディションを監視する方法が提案された。 by Tammy Xu2022.11.08

スマートフォンを使えば、橋の安全性を現在よりもずっと迅速かつ安価に監視できるようになるかもしれない。エンジニアにスマホで収集したデータを提供し、危険な状態になる前にそのデータを使って橋を補修できるようにするのだ。

通常、橋のメンテナンス状況は、エンジニアが目視でひび割れや不具合を点検するか、橋の振動や動きのデータをセンサーで収集するかのいずれかの方法で監視されている。しかし、ウェストポイント陸軍士官学校(West Point Military Academy)の研究者らが開発した新しい方法では、橋の上を走る車上のスマホから振動測定計のデータを収集することで、どちらも不要になる。

サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジやイタリアの鉄筋コンクリートの橋を車で渡る実験では、わずか2台のスマホで、240個の固定式センサーと同等精度のデータが得られることが確認された。2022年11月3日発行のネイチャー(Nature)誌面に掲載された論文によると、これらの橋に自然に発生する振動をスマホで拾うことで、研究チームは橋の構造の経年変化を監視できたという。

論文を執筆した研究チームは、橋の寿命までこのようなスマホ・データをモニタリングすることで、橋の寿命が30%延びると見積もっている。メンテナンス担当者がタイムリーに補修を実施できるようになるからだ。

橋のメンテナンスは極めて重要だ。 それは、2022年10月30日にインドのグジャラート州で発生したつり橋崩落事故で135人の死者が出ていることからも分かる。他の国でも同様に問題になっている。米国では、橋は2年ごとに目視点検をすることが法律で定められているが、2007年のミネアポリス州間高速道路35W号線(I-35W)ミシシッピ川橋崩壊のような大惨事はなくなっていない。この事故では13人の死者と、145人の負傷者が出ている。

橋の維持管理には多額の費用がかかる。米国には60万本の橋があり、それらを所有および維持する組織は、センサー機器だけで5万ドルを支出しており、さらに機器のメンテナンスと生成されたデータの分析に必要なコストが発生する。スマホを利用すれば、費用を大幅に削減できる。

しかし、この手法を実用化するにはまだ研究が必要だとドレクセル大学の土木・建築・環境工学部のアフメット・エミン・アクタン教授は言う(同教授はこの研究には参加していない)。この手法が広く普及するのはずいぶん先になるだろうとアクタン教授は考えている。

アクタン教授によると、今後10〜20年間はまだ目視による橋のモニタリングが主流であるという。センサーやスマホから生成されるデータは解釈しにくい場合があり、エンジニアが目視した方がコンディションを判断しやすいからだ。天候や交通量の変化などごく日常的な事項が、構造物の挙動や動きに影響を与え、データに影響を及ぼすことがある。例えば、橋は寒くなると硬化する。

しかし、いずれ業界は、目視点検とスマホで収集したデータを組み合わせて橋を管理しようとするだろうとアクタン教授は言う。