中国テック事情:深センで実際に体験したドローン配達のリアル
中国のメイトゥアンはドローンによる食品配達を深センで始めている。実際に現地で体験してみると、その配達プロセスは人力に頼っており、まだスムーズとは言えないものだった。 by Zeyi Yang2023.07.08
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
テンセント(Tencent)のカスタマー・サービスセンターで繰り広げられた私の冒険については、すでに別の記事でお話しした。だが、深センに行ったのはQQアカウントを取り戻すことだけが目的ではない。滞在中に、中国の有力な食品配達プラットフォームである「メイトゥアン(Meituan:美団)」が、1年以上前から市内で配達ドローンを飛ばしていることを知り、自分でも体験したくなったのだ。
ドローン宅配の現実は、まだ理想とはほど遠いことが分かった。そしてその現実が急速に知れ渡ることで、人々からそっぽを向かれてしまうかもしれない。しかし同時に、興味深い体験でもあった。日常的なドローン宅配の見通しは、これまでよりも現実的に感じられる。
メイトゥアンは現在、100機以上のドローンを運用し、市内の5つの配送拠点(または発射場)からドローンを飛ばしている。2022年には合わせて10万件以上の配達をこなした。このプラットフォーム自体は、夕食から薬、生花、電子機器まで、基本的に何でも配達できるが、ドローンが使われるのは主に食品や飲料だ。
なぜか? メイトゥアンのドローン宅配部門の責任者であるマオ・イニアン部長によると、中国人は食事の温度を気にするからだという。「温かい食事や冷たいタピオカティーを時間通りに受け取れるかどうかということを、人々は非常に気にします。しかし、食事以外は、30分早く届いたり遅れたりしても気にしません」と、マオ部長は言う。メイトゥアンのドローンの飛行ルートはすべて自動化されており、ドローンは交通渋滞にはまることもないため、食事の配達にかかる時間を正確にコントロールしやすい。ドローンは通常、予定時刻の数秒以内に到着する。
タピオカティーを飲みたいと思ったまさにその時に届けてもらえるだって? タピオカティー好きの私が言えることは、「注文してみよう」以外にない。しかし、実際に試してみると、話で聞くほど単純ではないことが分かった。
最初の障害は、ドローンが玄関先まで配達してくれないことだ。その代わりに、市内に十数か所点在するピックアップ場所の1つに届ける。自動販売機ほどの大きさのキオスクは、ドローンの離着陸場の役割を果たすほか、注文者が商品をピックアップするまでの荷物の保管場所にもなる。
ここから私の初挑戦は始まった。地図でメイトゥアンのすべてのピックアップ場所を調べ、その時いた地下鉄駅に近い場所を選んだ。そして、アプリ内にドローンで配達してもらえることが明記されていた、ココナッツ・ アイスティーラテを注文した。支払いを済ませ、ワクワクしながら待ち始めた。
ところがすぐにメールが来て、「システムアップグレードのため」代わりに人間の配達員が届けるという。悪天候のせいだろうか。その日の朝、深センに大雨が降り、空はまだ暗い雲に覆われていた。しかし、メイトゥアンの担当者に確認したところ、ドローンは稼働しているとのことだった。
担当者の話によると、私が注文したレストランは別の区域にあり、配達を希望したキオスクまで飛ぶドローンのルートがないという。アプリからそのことを知る方法はないとのことだった。
その日の夕方、私は2度目の挑戦をした。指示されたとおり、今度はレストランと同じ地区にあるピックアップ・キオスクを選んだ。実際、2つの場所は数百フィート(数百メートル)しか離れていなかった。これならきっとうまくいくだろう。
アボカド・ストロベリー ・ヨーグルトスムージーを注文したら、またしても購入直後にメールが届いた。「この時間帯はドローンによる配達はしていません。代わりに人間の配達員がお届けします」と、メールには書かれていた。後で知ったのだが、ドローンによる配達は毎日午後7時までだという。私の注文は、30分過ぎていたのだ。
幸先の良いスタートではなかった。しかし、たまたま翌日、メイトゥアンのドローン発射場の1つを見学する約束をしていたので、稼働している様子を見る機会が得られた。
その発射場は、5階建てのショッピングモールの屋上にある。ランチ時のピークが終わった直後に訪問し、メイトゥアンの従業員数名から話を聞いた。その結果、ドローンによる配達を実現するためには、人間とロボットが同じように重要であることが分かった。それまで私は、各レストランにドローンが配備されていて、そこで食品をピックアップしているのだろうかと思っていた。しかし、そうではなかった。メイトゥアンの作業員がレストランから食品を受け取り、屋上に運んで荷造りし、ドローンに積み込むのだ。作業員はドローンのバッテリー交換もしなければならない。
この発射場は、近くの3つのピックアップ・キオスクに荷物を届けている。屋上は3つのゾーンに分けられており、それぞれの床に、ドローンの正確な着陸位置を示すための巨大なQRコードが描かれている。
蓋を開けてみれば、メイトゥアンが人口密集エリアでドローン宅配を実現するために、いくつかの妥協をしたことは明らかだった。ドローンを自宅に直行させる代わりに、ピックアップ・キオスクに荷物を届けるといった取り決めは、顧客にとっては利便性が落ちるかもしれないが、ドローンが厄介な場所で引っかかったり、人を傷つけたりするリスクを減らせる。このことは、ドローン宅配に取り組んでいる他の企業にとってお手本になる。私が取材で得た情報は、こちらの記事で読むことができる。
発射場を離れる時、私は最後にもう一度、その場から注文し、この発射場が配達を担当している3カ所のキオスクの1つを指定した。このサービスについて、学べることはすべて学んだという自信があった。キオスクの前に立ちながら、ドローンがやって来る方向を予測することすらできた。すでに何機かが向こう側からやって来て、荷物を届け終えるのを見守っていたからだ。
実際、アプリが予測した通りの時間にドローンがやって来て、キオスクに着陸した。スクリーンに自分の電話番号を入力すると、ロボットアームが動くような音がして扉が上に開き、段ボール箱を取り出すことができた。中には保冷バッグがあり、注文したオレンジアイスティーが入っていた。アイスティーはこぼれておらず、まだ冷たかった。そして私はついに、深センでドローン宅配を体験するという目標を達成したのである。
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「モモ」の正体
もし中国のソーシャルメディアで、「モモ(陌陌)」という仮名と、漫画っぽいピンク色の恐竜のアバターを使っている人を頻繁に見かける場合、あなたが会っているのは一個人ではなく、現実世界で識別されるのを避けるために1つのオンライン上のアイデンティティを共有している人々のグループである。中国のテック系メディア「36Kr」によると、中国の若いソーシャルメディア・ユーザーの中には、ネット上で目にするドキシング(個人情報をさらす行為)事件によって恐怖心を募らせている人たちがいるという。彼らはプライバシーを守るため、個別のアカウントを設定することを諦めて、共通のアイデンティティを採用している。そのために、中国のあるソーシャルプラットフォームが作成したデフォルトのアバターを使い、同一人物のふりをしているのだ。集団匿名性の感覚が、ネット上で意見を共有することにより安心感を与えているのである。
しかし、これは完璧な解決策ではない。一部の「モモ」は門番のように振る舞い、誰を自分たちの一員にするか決めている。門番はモモのアバターを使っている人たちに対し、同じ社会的信念を支持するように求める(そして、それを強制できないため、気に入らない人たちを公然と攻撃する)。同時に、それらの匿名ユーザーが行き過ぎた意見を投稿した場合、その責任を追及するのは難しいことに、人々が気づき始めている。安全な空間であることを約束したコミュニティも、喧嘩や政治に満ちていることが判明したのだ。
あともう1つ
10億ドル規模のテック系スタートアップ企業の経営に失敗した場合、何ができるだろうか? まあ、代わりにコーヒーショップを開くことはできるようだ。ブルームバーグが最近、ダイ・ウエイの近況を伝えている。ダイは、中国の有名なドックレス・シェアサイクル企業「Ofo(オッフォ)」の創業者である。オッフォはかつて中国の街頭に数百万台の自転車を走らせたものの、近年は倒産の瀬戸際に立たさている、ダイは、現在、ニューヨーク市で新たなコーヒーチェーン「アバウト・タイム・コーヒー(About Time Coffee)」を経営しているという。このカフェは、ダイの前回の起業と類似している点が多く、どちらも気前の良い割引を提供して見込み客を集めたり、多額の投資を募ったりしてきた。このカフェ・ブランドは、すでに投資家から1000万ドル以上の資金を集めている。
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- ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。