KADOKAWA Technology Review
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自動運転機能で競争激化、中国では「市街地」が主戦場に
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
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The race to lead China’s autonomous driving market

自動運転機能で競争激化、中国では「市街地」が主戦場に

中国で自動車に搭載される自動運転機能をめぐる競争が激化している。「NOA」と呼ばれるレベル2相当の機能だが、市街地での走行に対応しており、各メーカーは対応都市の拡大を競っている。 by Zeyi Yang2023.08.30

ユーチューブで「チャイナドリブン(ChinaDriven)」というチャンネルを運営するウィリアム・サンディンは、15分弱の動画が最後に差し掛かったあたりで、高速道路から出て中国南部の都市、広州の市街地を走り始めた。というよりも、車に運転させたという方が正しい。運転席には座っているものの、車は自らハンドルを切り、停止し、速度を変え、交通量の多い市街地の道路を巧みに走行している。

「これはNOA(Navigation on Autopilot:ナビゲーション・オン・オートパイロット)機能ですが、都心での走行に対応しています」。中国の電気自動車(EV)モデルである「シャオペンG6(XPeng G6)」の試乗の様子を見守る視聴者に向けて、サンディンはこう説明した。「明らかに、単純な高速道路よりも都市部でNOAを使うのはずっと難しい。都市部ではさまざまな種類の交差点や信号機、電動バイク、歩行者、急に車線を変更する車など、対処しなければならないことがたくさんあります」。

サンディンは、どのような最終評価を下したのか。シャオペンのNOAは完璧ではないが、かなり「優れて」おり、今後のさらなる進化を予見させるものだとした。

サンディンのこの動画は単なる製品レビューではなく、この1年間で加速している中国自動車メーカーの生産競争の詳細を伝えるものだ。EVメーカーであれ自動運転技術のスタートアップであれ、いずれもある目標にとりわけ固執しているように見える。その目標とは、より多くの中国の都市で、なるべく早く自社製の自律ナビゲーション・サービスの提供を開始することだ。

この6カ月間だけでも、十数社の中国自動車メーカーが、複数の都市で独自のNOAサービスの提供を開始する野心的な計画を発表している。一部のサービスはまだ一般には利用できないが、「来年は転換期になるかもしれません」とサンディンはMITテクノロジーレビューにコメントした。

NOAシステムは、テスラ(Tesla)が北米でベータテストをしているFSD(Full Self-Driving:完全自動運転)機能と同様の運転支援システムの一種だ。複雑な都市交通において、自律的に停止、ハンドル操作、車線変更ができる支援システムの能力を著しく高めたものである。NOAは完全な自律運転とは異なり、人間のドライバーがハンドルを握り、運転を交代できる状態にしておく必要がある。自動車メーカーは現在、NOAに必要なセンサーを搭載したプレミアムモデルを購入できる裕福な自動車オーナーに対して、有償のソフトウェア・アップグレードでNOAを提供している。

1年前、NOAシステムはまだ高速道路でしか利用できず、人口が密集する都市部では機能しなかった。サンディンが指摘するように、歩行者と車両の分離が不十分で、都市ごとに道路のレイアウトに違いがあると、自動運転は極めて難しくなる。例えば、北京で器用に運転できるように学習したシステムも、上海ではその性能を十分に発揮できない可能性があるのだ。

その結果、中国企業は特定の都市に特化したナビゲーション・システムを競って開発し、その後、段階的に中国全土へ拡大しようと考えている。シャオペン、リ・オート(Li Auto)、ファーウェイ(Huawei)のような主要企業は、こうしたNOAサービスを数十〜数百もの都市で近い将来、本格的に展開する意欲的な計画を発表している。そして、新たな発表のたびに、企業間の競争は激化している。中には、追加費用なしでのNOAサービスの提供を決めた企業もある。

「企業は認知度を高めるためにNOAサービスを急速に立ち上げ、消費者の信用と信頼を築こうと取り組んでいますが、そこにはFOMO(取り残され恐怖症)があるようです」。輸送産業向けビジネス・コンサルティング企業であるシノ・オート・インサイツ(Sino Auto Insights)のツー・レ社長はこう話す。いくつかの企業が都市部で利用できるナビゲーション機能を発表すると、「他の企業も後に続かなければならず、そうしないと中国市場で自社の製品が不利になってしまうのです」と同社長は続けた。

同時に、この激しい競争は一部の顧客を混乱させ、おそらく他のドライバーを危険にさらすという意図せぬ副作用をもたらしている。自動車メーカーはマーケティング・キャンペーンをいたるところで展開しているものの、未対応の都市に暮らす人や最高級モデルを所有していない自動車オーナーにとって、多くは利用できないままだ。

完全な自動運転ではない

自律運転業界は技術的進歩を6段階に分けている。人間が運転に関わるすべてをコントロールするレベル0から始まり、人間がまったく関与しないレベル5までの6段階だ。

現時点で使用されている実際のレベルは2つしかない。1つはクルーズ(Cruise)、ウェイモ(Waymo)、中国の巨大会社バイドゥ(Baidu)といった企業が主導して開発しているロボタクシーで用いられているテクノロジーだ。こうした企業はレベル4を乗客に提供しているが、多くの場合、その範囲は特定の一部地域に限られる。

もう1つが、テスラのFSDやシャオペンのXNGPなどに代表されるNOAシステムだ。NOAシステムはレベル2に過ぎない。すなわち、まだ人間のドライバーがほとんどの運転を監視しなけ …

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