生産性マニアが「Notion」で生活の95%を回す理由
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Meet the people who use Notion to plan their whole lives 生産性マニアが「Notion」で生活の95%を回す理由

業務用アプリの「ノーション(Notion)」が人気だ。特に生産性にこだわる人たちの間で、私生活のタスク管理にまで利用する動きが広がっている。 by Rhiannon Williams2023.05.04

ジョシュア・バーゲンはとても生産的な人間だ。

秘密は業務用アプリ「ノーション(Notion)」にある。バンクーバーに住むプロダクトマネージャーのバーゲンは、ノーションを使ってノートとタイムラインで海外旅行の綿密な計画を立てたり、自分が観た映画やテレビ番組のリストを整理して感想を記録したりする。3Dプリンティング・プロジェクトの管理、スノーボード滑走コースの地図作成、子どもの面白い発言を集めたリストの迅速な更新にも便利だ。

奇妙に思えるかもしれない。しかし、バーゲンのように、仕事での利用を想定して作られたノーションを私生活の整理整頓に活用する人々は増え続けている。瞑想習慣や週のスケジュールの把握から、水分摂取量の記録、買い物メモの共有まで、人々は実に多種多様な形でノーションを利用している。

「使い始めてから、自分自身の案件において生産性が爆発的に向上していることに気づきました」と、バーゲンは言う。「ノーションを使い始めて以来、この2年で、おそらくその前の10年間よりも多くの案件をこなしてきました。執着し過ぎかもしれませんし、やり過ぎかもしれませんが、ノーションがすべてであり、大好きです」。

ではなぜ、他にも無数のプランニング・アプリがある中で、「より良く、より迅速な業務」を実現するために構築されたプラットフォームが、これほど人々の心を掴んだのだろう。

ノーションに熱烈なファン層が存在する理由の一部は、柔軟性にある。本来ノーションは、事業における人事・セールス・製品企画といった業務に用いられるさまざまなプログラムを1つにまとめ上げるために設計されている。シンプルなテンプレートにユーザーが機能を追加・削除できるようになっており、リモートワーカーはノート、データベース、カレンダー、プロジェクトボードで簡単に共同作業ができる。

この高度なカスタマイズ性により、ノーションは他の業務用アプリと一線を画すものとなっている。自由時間の使い方を入念に計画しようとする人々の間でこれほど人気を得ているのも、このカスタマイズ性のおかげだ。2018年頃、ユーチューブで仕事術動画が盛り上がると、ノーションの人気が高まり始めた。ノーションのファンたちが時間管理のコツや生活を整理するための手引きを交換し合う動画が、何百万回も視聴されることが相次いだのだ。

それ以来、追随する人は雪だるま式に増えていった。27万5000人以上が掲示板「レディット(Reddit)」の専用スレッドに参加し、何万人ものユーザーが自由に使えるページテンプレートをフェイスブックのプライベートグループで共有している。ノーションのページをかわいくする方法をアドバイスするティックトック(TikTok)動画は何億回も視聴された。

「融通の利かないソフトウェアに合わせて自分の習慣を変える必要はありません。ソフトウェアが心の働きを変えてくれます」。ノーションの共同創業者で最高執行責任者(COO)のアクシェイ・コターリは言う。「実際、コミュニティにこれほどの愛があふれている大きな理由はこの点にあると考えています。ユーザーは自分が作り上げたものを自分のもののように感じるのです」。

カスタマイズ性に優れているおかげでバーゲンは、新しく購入した製品のシリアルナンバーを盗難に備えて記録したり、引越の際に荷物を入れて番号を振った箱一つ一つの内容物の詳細リストを作ったりするのにもノーションを使っている。

ニューヨークに住むプロダクトデザイナー兼コンテンツクリエイターのウェスリー・アンナ・タイナーも、ノーションは差し迫った引越や1週間の食事の計画に欠かせないと考えるようになった。「私はたくさんの『単なる楽しみのため』のページも持っています」と言う。「たとえば、クリスマスにセフォラ(Sephora)の香水サンプルをもらったので、さまざまな製品のデータベースを作って、毎日新たな製品を試しながら感想を記録しました。日々の気分の記録、欲しいものリスト、セルフケア用ツールキットなど、他にもたくさんあります」。

アリゾナ州のフェニックスに住むWeb開発者のトミー・メイヤーは、日常的な情報を整理するために常に3種類のノートを持ち歩いていることに気がつき、2018年頃にノーションを使い始めた。「紙の買い物メモはもう何年も書いていません」と言う。メイヤーは、書きたいファンタジー小説のプランを立てるのにもノーションを活用している。

ノーションはノートをとったり、日記をつけたりするのに役立つが、英国に住む声優兼ナレーターのアダム・ウォーレンは、ユーチューブ・チャンネルのプロジェクト管理にも利用している。

「現在、ユーチューブとパトレオン(Patreon)でフルタイムの良い仕事の賃金と同じくらい稼いでいますが、そのビジネスのすべてをノーションで管理しています」と説明する。「すべての動画プロジェクトをデータベースに入れていて、状況を把握するためにカンバン・ビューを利用しています。動画の台本もデータベース・ページ上に直接書きます」。

整理整頓が好きな人にとって、こういったプラットフォームはとても有意義だ。ノーションのようなアプリは生活を構造化・単純化するのに役立つので、やるべきことに圧倒されたり混乱されられたりすることが少なくなると、コンサルタント心理学者のエレナ・トゥロニは言う。

しかしながら、生活の最適化や整理にあまりに多くの時間を費やすと、実際のタスクをこなすことよりも、やることリストの作成を優先してしまい、逆効果になりかねない。これは計画錯誤(planning fallacy)と呼ばれる現象だと、ニューヨーク大学心理学教授のガブリエル・エッティンゲンは指摘する。

ノーションを使って十分な量の水を飲んでいるか、ジョギングをしているかを把握したり、課題に対する計画を立てたりしても、現実に実行できたとは限らない。「ある意味で、ノーションは構造化には役立つかもしれませんが、私たちのやる気は引き出してくれないかもしれません」(エッティンゲン教授)。

トゥロニは、同一のアプリを私生活と仕事の両方の管理に利用するバーゲンのような人々にとって、弊害があるかもしれないと指摘する。

「明らかによいことは、仕事と私生活が交錯しやすく、同じアプリを使うことで、この点を考慮してより効率的にタイムスケジュールを立てられることです。一方で弊害は、アプリを使う時にはいつも、仕事と家庭生活の両方を調整することになるため、双方の間に境界線を引くのがより難しくなることです」。

自由に選べる豊富な選択肢があるにもかかわらず、ノーションの熱烈なファンたちは、他の有望なプラットフォームに乗り換えることはなさそうだと口を揃える。タイナーはノーションを使って「自分の生活の95%」を回している。

ノーションの運営会社は最近、面倒な作業を自動化し、大量の文書を要約する独自の人工知能(AI)ボットを発表しており、ソーシャルメディア上でのコミュニティの反応を注視していく予定だ。「企業から収益を得ているBtoBのソフトウェア会社にとって、このような支持を得ることは極めて稀です」とコターリCOOは語る。「私たちは、それを当たり前のことだとは思っていません」。