成田 海:3Dプリントで材料と構造を変える、次世代のモノづくり

Trajectory of U35 Innovators: Kai Narita 成田 海:3Dプリントで材料と構造を変える、次世代のモノづくり

カリフォルニア工科大学で3Dプリンティング技術を応用してリチウムイオン電池用炭素電極のミクロ構造化を研究した成田 海は、自ら起こしたスタートアップ「3Dアーキテック( 3D Architech )」を通じて技術を電池以外の領域に広げ、モノづくりを変えようとしている。 by Yasuhiro Hatabe2023.12.18

カリフォルニア工科大学材料科学科の博士課程に在籍時、3Dプリンティング技術を応用してリチウムイオン電池の炭素電極を作製する技術を開発した成田 海は、2021年の「Innovators Under 35 Japan (35歳未満のイノベーター)」の1人に選ばれた。29歳の時だ。

受賞当時は米国の電池メーカー、24Mテクノロジーズ(24M Technologies)に在籍していたが、2022年末をもって退職。2023年1月、3Dプリンティング技術を用いて金属製品を設計・加工する会社「3Dアーキテック( 3D Architech )」を創業した。

無作為だった材料のミクロ構造を「設計」可能にした研究

携帯電話や自動車では現在、主にリチウムイオン電池が使用されている。リチウムイオン電池にはリチウムイオンを蓄える電極、電極の正極と負極の間にはイオンによって電気を通す電解質がある。このイオンが移動することで電流が生まれ、それを電気として使う。

「それぞれ一番いい材料を組み合わせても、一番性能の悪い電池を作れてしまう。つまり、材料をいかに組み合わせるか、私たちはそれを『レシピ』と言いますが、例えば電極の厚みや材料の塗布の仕方などによって電池としての性能が変わってきます」。

そのレシピの要素の1つに、ミクロスケールでの位置関係がある。例えばリチウムイオン電池の電極は多くの場合、粉末で構成されており、その中をイオンが移動したり、化学反応が起こることで電池の充放電が行われるが、粉末の粒の大きさや堆積の仕方によって電池性能が変わってくるのだ。ただ、塗布する粉末を任意の状態(位置関係)に堆積させることは不可能だ。

成田が開発した技術で作る電極は粉末を使わない。代わりにミクロの3D構造を持つUV硬化樹脂を3Dプリンターを使って作製する。そして高温・不活性化で炭化を起こすことで、炭素電極を作製する。それが、市販の安価な3Dプリンターでできてしまう。

この技術によって、レシピの要素であるミクロ構造を、思い通りに「設計」することが可能になる。すなわち、イオンや電子の移動、界面での反応といった現象の体系的な研究を可能にし、電極の構造と電池性能の関係の評価できるようになるということだ。

社会へのインパクトが大きい基盤技術をつくりたい

成田は、2021年のIU35のプレゼンテーションで「プラットフォームとなるハードウェア技術開発を軸に活動してきた」と述べている。この考えは、出身の青森で高校3年生だった成田が、進学先に東京工業大学金属学科を選んだ頃にはすでに持っていたものだという。

「もともと何かをつくりたいという漠然とした思いはありましたが、その『何か』は明確ではありませんでした。学科を選ぶためにいろいろと調べるうちに、材料科学が自分のやりたかったことに当てはまったのです。物理や化学は、生活への直接的なインパクトが分からない。ロボット工学は応用に近すぎる。すべてののものは材料でできていて、材料を変えると広範囲にインパクトを与える基盤技術になる。そこが面白いと思いました」。

東京工業大学では修士課程へ進み、生体材料である骨固定材の研究をした。しかし、「1つの応用例に対する1つの材料を研究していたら、大きなインパクトは生まれない。材料を変え、かつものの構造を変えられる製造技術そのものを研究したい」と考えた成田は2016年、カリフォルニア工科大学材料科学科の博士課程に留学する。研究するなら世界最高峰の環境で、との思いから、材料合成・積層造形を研究するジュリア・R・グリア教授の研究室に入った。

グリア研究室では、それまで体内で溶ける骨固定材を研究してきた経験を踏まえて、体内で溶ける電池ができたら面白いのではないかと思い、電池の研究をすることになった。

「電池を研究していて面白いと思うのは、仕組みが完全に解明されているわけではないのに、統計的に見て上手くいっていること。過去に電池を開発してきたエンジニアの功績の部分が大きく、技術としては成熟している。それを、3Dプリンティング技術を使うことで、初めて理論的に扱えるようになったこと自体がとても興味深いことだと考えています」。

博士卒業後、産業分野へ

卒業後はアカデミアに残る選択肢もあったが、企業への就職を選んだ。日本、米国、欧州を視野に入れて就職活動をしながら、起業のための資金調達にも動いていたものの、もう一歩のところで成立せず、24Mテクノロジーズへと入社する。同社を選んだのは、「プラットフォームをつくる」というビジョンを持つ企業だからだと成田は言う。

24MテクノロジーズはMIT出身の研究者によって設立された半固体リチウムイオン電池を開発している企業で、「特に製造技術が新しい」と成田は評価する。在籍期間は1年半だったが、「電池の構造と電池性能を研究するうえで得た知見を活かして、共同開発先とさまざまな実験・シミュレーションを実施しました。車載電池開発に携わるよい経験ができましたし、24Mにとってもよい資産になっていたらうれしいですね」と話す。

並行して進めていた資金調達の目処が付いたことから、2023年1月、3Dアーキテックを設立した。カリフォルニア工科大学からの技術ライセンスを模索する中、成田が研究開発に関わった3Dプリンティング技術を生かし、金属を製造するスタートアップだ。

「IU35の受賞時は炭素を扱っていましたが、その後金属やセラミックスなど、ほぼどんな材料もミクロ構造をつくれる技術に発展できました。『材料』と『デザイン』が決まればものをつくれますが、その両方を自在に制御できるようになったことのインパクトは計り知れないほど大きいものです」と成田は話す。

ミクロ構造でつくられた銅シート/提供写真

 

材料と構造の変革はものづくりの思想をも変える

金属は構造材料として使われることが多く、一般的にはその強度やそれに比した重さ(軽さ)が着目される。しかしミクロスケールで構造制御できるようになると、金属を構造材料ではない使い方ができるようになる。

「電池の場合はその中を何がどのように流れるかによって化学反応が変わり、性能が変わわります。同じことを金属で起こせるようになると、流体関連の金属デバイスをコントロールし、パフォーマンスを飛躍的に上げられるようになります」。

成田は「過去の3Dプリンター企業はその用途となるアプリケーションを提示できずに伸び悩むことが多かった」と見ており、現在は熱交換器やデータセンターで使用するヒートシンクの開発に注力し、具体的なプロダクトに使えることを示そうとしているところだ。熱関連以外では、水素生成や水素を使った燃料電池などの応用例も考えられるが、いずれも性能向上が大きな社会的インパクトにつながる領域だ。

3Dアーキテックはボストンに本社を置くが、宮城県仙台市にもR&D拠点がある。カリフォルニア工科大学で研究員として働いていた日本人研究者が現在、東北大学で炭素の研究をしており、3Dアーキテックは同大学との共同研究に取り組んでいるという。

「今まで材料と構造の両方を変える研究はありませんでした。私たちの技術は、材料科学やモノづくりの思想をも大きく変える可能性があるものです。アカデミアではある程度知られる存在になってきましたが、これを産業領域に持ち込めればとても面白いことができる。日本にも拠点があるので、興味ある人がいたらぜひ仲間に加わってくれるとうれしいです」。

この連載ではInnovators Under 35 Japan選出者の「その後」の活動を紹介します。バックナンバーはこちら