解説:送電の概念を変える「バーチャル発電所」とは何か?

How virtual power plants are shaping tomorrow’s energy system 解説:送電の概念を変える「バーチャル発電所」とは何か?

再生可能エネルギーやEVの普及に伴い、バーチャル発電所(VPP)が注目されている。従来の一方的な需要と供給の関係を変えるVPPとは何か? 解説する。 by June Kim2024.02.15

そびえ立つ煙突、無限に続く石炭列車、うるさく回転するタービン——。1世紀以上にわたり、発電所の一般的なイメージは、こうした特徴で語られてきた。しかし、私たちの未来に電力を供給する発電所は、根本的に違った見た目に変わるだろう。実際のところ、多くは物理的な形状をしていないかもしれない。バーチャル発電所(VPP)の時代へようこそ。

石炭やガスなどの従来のエネルギー・リソースから、太陽光や風力などの出力が変動する再生可能代替エネルギーへの移行は、数十年にわたるエネルギー・システムの運用方法が変化していることを意味している。

政府も民間企業も同様に、コストを抑え、送電網の過負荷を防ぐのに役立つ、バーチャル発電所の可能性に期待を寄せている。

この記事では、バーチャル発電所について知っておくべきことと、バーチャル発電所がよりクリーンな電力とエネルギー貯蔵を継続的に提供するための鍵となる理由を説明する。

バーチャル発電所とは何か? その仕組みは?

通常、電力の需要と供給のバランスは、地元の電力会社によって監督され、運営されている。しかし、バーチャル発電所は、屋上のソーラーパネル、電気自動車(EV)の充電器、スマート給湯器などの分散型エネルギー・リソース・システムであり、これらが連携することで大規模なエネルギーの需要と供給のバランスが取れるようになる。

リーハイ大学のエネルギー・システム工学部長であるルディ・シャンカールによると、バーチャル発電所はリソースのポートフォリオを「つなぎ合わせる」方法であり、エネルギー・システムの二酸化炭素排出量を削減しながら、送電網が高いエネルギー需要に対応できるようにしているという。

バーチャル発電所の「バーチャル」の性質は、従来の石炭やガス工場のような、中央に物理的施設が存在しないことに起因している。電気を生成し、エネルギー負荷のバランスを取ることにより、集合されたバッテリー(電池)とソーラーパネルは従来の発電所の機能の多くを提供することになる。

また、ユニークな利点もある。

カーボンフリー電力に焦点を当てている、ロッキーマウンテン研究所(Rocky Mountain Institute)のケビン・ブレーム部長は、バーチャル発電所と従来型発電所とを比較することは「役立つ例え」であるが、バーチャル発電所は「特定のことを異なる方法で実施するため、従来の発電所とは異なるサービスを提供できます」と述べている。

大きな違いの1つは、バーチャル発電所が消費者のエネルギー使用をリアルタイムで調整できることだ。従来の発電所とは異なり、バーチャル発電所は分散型エネルギー・リソースと通信し、送電網運用者がエンドユーザーからの需要を制御できるようになる。

例えば、エアコンと連動するスマート・サーモスタットは、家屋の温度を調整し、エアコンが消費する電力量を管理する。夏の暑い日、サーモスタットは、エアコンの使用量が急増するピーク時間前に家屋を冷やせるようになる。冷却時間をずらすことで、送電網を圧迫して停電を引き起こす可能性のある突然の需要の増加を防げるわけだ。同様に、EVの充電器は、充電のために電力を使用したり、バッテリーの電力を送電網に供給したりすることで、送電網の要求に適応できるようになる。

これらの分散型エネルギー・リソースは、Wi-Fi、Bluetooth、スマートフォン・サービスなどの通信テクノロジーを通じて送電網に接続される。全体として、バーチャル発電所を追加することで、システム全体の回復力(レジリエンス)を高められると言えるだろう。バーチャル発電所は数十万のデバイスを調整することで、送電網に大きな影響を与えられる。需要を反映し、電力を供給し、確実に電力の流れを維持できるのだ。

バーチャル発電所は普及しているのか?

最近まで、バーチャル発電所は主に消費者のエネルギー使用を制御するために使用されていた。しかし、太陽光発電とバッテリー技術が進化したため、電力会社はそれらを利用して、必要に応じて電力を送電網に供給できるようになる。

米エネルギー省は、バーチャル発電所の容量を約30~60ギガワットと推定している。これは全国のピーク電力需要の約4~8%に相当し、システム全体から見るとほんの一部に過ぎない。とはいえ、一部の州や電力会社は、送電網にバーチャル発電所を追加するため急速に動いている。

バーモント州最大の電力会社、グリーン・マウンテン・パワー(Green Mountain Power)は昨年、補助金付きの家庭用蓄電池プログラムを拡大したことで話題になった。顧客は必要に応じて貯蔵エネルギーを電力会社と共有することに同意した場合、テスラの家庭用蓄電池を割引料金でリースされるか、または自分で購入して最大1万500ドルの支援を受けるかを選択できる。またこのプログラムを承認したバーモント州公共事業委員会は、停電時には非常用電力としての供給もできると話した。

マサチューセッツ州では、電力会社のナショナル・グリッド(National Grid)、エバーソース(Eversource)、ケープ・ライト・コンパクト(Cape Light Compact)の3社が、家庭用蓄電池を電力会社が制御することと引き換えに、顧客に代金を支払うというバーチャル発電所プログラムを導入している。

一方コロラド州では、州初のバーチャル発電所システムを立ち上げる取り組みが進行中だ。コロラド公共事業委員会は、最大の公益事業会社であるエクセル・エナジー(Xcel Energy)に対し、この夏までに完全に運用可能なバーチャル発電所の試験運用を展開するよう求めている。

バーチャル発電所がクリーンエネルギーへの移行にとってなぜ重要か?

送電網運用者は、年間または毎日の「ピーク負荷」、つまり電力需要が最も高まる瞬間に対応する必要がある。そのため、彼らはガスを使う「ピーカー発電所(尖頭負荷発電所)」の使用に頼ることがよくある。一年のほとんどが休止状態にあり、需要が高いときにのみ切り替えられる発電所だ。バーチャル発電所は送電網のピーカー発電所への依存を軽減できる。

米国エネルギー省は現在、全国のバーチャル発電所の容量を2030年までに80~160ギガワット に拡大することを目指している。これは、(容量が拡大すれば)建設する必要のない化石燃料工場80~160カ所に相当するとブレーム部長は話す。

多くの電力会社は、バーチャル発電所は排出量削減に加えて、消費者の光熱費も削減できると主張している。調査によると、需要のピーク時に分散型エネルギー・リソースを活用するほうが、ガス発電に依存するよりも費用効率が最大60%高いことが分かっている。

バーチャル発電所のもう1つの重要な利点は、あまり目に見えないものだが、人々がエネルギー・システムにもっと関与するよう促すことだ。通常、顧客は電気を使うだけだ。バーチャル発電所システム内の顧客は、電力を消費し、電力を送電網に戻す。この二重の役割により、送電網に対する理解が深まり、クリーンエネルギーへの移行により多くの投資ができるようになる。

バーチャル発電所の今後の展開

米国エネルギー省によると、EV、充電ステーション、スマート・ホーム機器の普及により、分散型エネルギー・リソースの容量は急速に拡大しているという。これらをバーチャル発電所システムに接続すると、リアルタイムで電力の需要・供給のバランスを取れる送電網の能力が強化される。人工知能(AI)の向上は、バーチャル発電所が多様なアセットの調整にさらに連動することにも役立つと、リーハイ大学のシャンカール部長は話している。

そして、規制当局も参加する予定だ。全米公共事業規制委員会(NARUC)は、会員にバーチャル発電所とその州での導入方法について教育するための委員会やワークショップの開催を始めた。カリフォルニア州エネルギー委員会は、バーチャル発電所を送電網システムに統合するメリットを探る研究に資金を提供する予定だ。規制当局がこの種の課題に関心を示すのは目新しいことだが、将来性があるとブレーム部長は話している。

それでも、ハードルはまだ残っている。バーチャル発電所への登録プロセスは州や企業によって異なるため、消費者が混乱する可能性がある。消費者のために(手続きを)簡素化して統一することは、電力会社がEVやヒートポンプなどの分散型エネルギー・リソースを、最大限に活用するのに役立つ。さらにバーチャル発電所の導入を標準化すると、成功したプロジェクトを地域間で模倣しやすくなり、全国的な成長を加速できるだろう。

「結局のところ、政策にかかっています」とブレーム部長は言う。「テクノロジーはあるのです。私たちはこれらのソリューションを最適に実装する方法と、消費者とのインターフェースの方法について学び続けているところなのです」。