心電図から心臓疾患を発見、機械学習は医師を超えるか
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The Machines Are Getting Ready to Play Doctor 心電図から心臓疾患を発見、機械学習は医師を超えるか

心臓不整脈を探り当てるアルゴリズムによって、機械学習が医療に革命をもたらそうとしている。課題は、医師や患者にそのアルゴリズムを信頼させることだ。 by Will Knight2017.07.11
研究者らは携帯型の心電図測定器を用いて、さまざまな病態の不整脈患者から30秒間の心電図データを採取し、3万個のデータサンプルを集めた。

医師がこれまで以上に機械に信頼を置くようになれば、アルゴリズムが人の命を救う日常は、そう遠くないうちにやってくるかもしれない。

著名なAI研究者である、スタンフォード大学のアンドリュー・ング非常勤教授が主導する研究チームは、心電図(ECG)をもとに心臓不整脈を特定する機械学習モデルが、人間の専門家よりも優れた診断能力を発揮することを証明した。

自動診断の手法は、日々の医療処置において、生死に関わる不整脈疾患の診断の確実性を高める非常に重要な技術になるかもしれない。また、医療人材が不足している地域では、自動診断を活用することで、より質の高い治療が提供できるようになる。

この研究はまさに、機械学習が医学にもたらす革命の兆候を示している。ここ数年、研究者はあらゆる疾患、たとえば乳がん皮膚がん眼疾患などの医用画像診断に機械学習技術が応用できることを明らかにしてきた。

ング非常勤教授は「特定の分野では、深層学習を用いた診断の正確性が医師を上回り得るという考えが受け入れられつつあることに、励まされます」と述べ、研究者が医用画像だけでなく、心電図などの他の医療データにも注目していることも良い傾向だと付け加えた。

最近まで、ング非常勤教授は中国の大手テック企業バイドゥの主任科学者だった。ング非常勤教授はバイドゥで、さまざまなビジネス課題への深層学習の応用研究に取り組む専門機関の設立に関わった。

スタンフォード大学の研究チームは、心電図データの中からさまざまなタイプの不整脈を検出するように深層学習アルゴリズムを訓練した。一部の不整脈は、心臓突然死などの深刻な合併症につながることもあるが、信号を検出するのが難しく、患者は大抵、数週間のあいだ心電図センサーを着用するよう指示される。それでも、不整脈が良性のものなのか、治療を要するものなのかを見極めることが難しい場合もある。

スタンフォード大学の研究者らは、深層学習アルゴリズムを訓練し、心電図データからさまざまな種類の不整脈を識別するようにした。

研究者らは、ポータブル心電図測定器の製造企業アイリズム(iRhythm)と共同で、病態の異なる不整脈患者から30秒間の心電図データ・サンプルを3万個収集した。これらのデータを使ってアルゴリズムの正確性を評価するため、300個の未診断データ・サンプルに対して、5人の心臓病専門医が診断した結果とアルゴリズムによる診断結果を比較した。さらに、3人の心臓病専門医からなる検証チームが設けられ、診断結果を徹底的に検証した。

深層学習では、シュミレートされた大規模ニューラル・ネットワークに大量のデータを流し込み、異常の疑いのある心電図信号を正確に検知するようになるまでプログラムの設定値を微調整する。深層学習によるこういったアプローチは、画像や音声に含まれる複雑なパターンの特定に非常に有効であることが分かっている。実際、この手法によって人間よりも優れた機能を持つ画像認識や音声認識のシステムが開発されている。

医学博士であるとともに機械学習の専門家でもある、マイクロソフト・リサーチのエリック・ホロヴィッツ取締役によると、マサチューセッツ工科大学(MIT)とミシガン大学の2つの研究グループをはじめとして、他の研究者も機械学習を応用した心臓不整脈疾患の診断に取り組んでいるという。

将来的には、深層学習によってそれぞれに性質の全く異なる大量のデータをくまなくチェックすることで、病気のわずかな兆候を見つけ出すことができるようになるかもしれない。

しかし、重要な課題は、アルゴリズムを信用するように医師と患者を納得させることだ。アルゴリズムは非常に複雑なため、大抵は推論結果の根拠が把握できない(関連記事 「」)。深層学習は機械学習の中でも特に不透明な手法であり、信頼性の確立、そしてより優れた医療を提供する点からも、説明がつくことが重要になってくるだろう。

それでも、ング非常勤教授は革命が起こりつつあることを疑っていない。「医療システムの業務の流れの中にアルゴリズムを取り込むためには、まだやるべきことが残っています。10年後には、医療現場でもっと多くのAI技術が、現在とはかなり違った形で活用されるようになるでしょう」。