自動運転:トヨタ、10億ドル投資で事故が起きない技術を開発
知性を宿す機械

Toyota Joins the Race for Self-Driving Cars with an Invisible Copilot トヨタ、自動運転で
「守護天使」を開発中

日本の自動車メーカー、トヨタ自動車は、現実空間と実質空間の両方で自動運転のソフトウェアを訓練し、ドライバーの操作に問題があっても事故が起きない自動車を開発しようとしている。 by Will Knight2016.04.08

トヨタが目指すのは、自動運転だけでなく、運転に介入し事故を防ぐ自動運転車だ。

トヨタは現在開発中の「守護天使(Guardian Angel)」機能は、自動的にドライバーの運転操作を引き継ぎ、あるいはドライバーの行動を微妙に調整することで、危険を回避する。自動運転車を開発する他の企業とは対照的に、トヨタは、完全な自動化を実現するには、機械と人間の運転を組み合わせることが重要な段階だと考えている。

「アンチロックブレーキや緊急ブレーキが作動するのと同じように、見えないドライバーが一時的にハンドル操作を受け持ち、ドライバーの事故を防ごうとします」と説明するのは、トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のギル・プラットCEO。TRIは、自動運転車や人工知能、ロボット工学の研究・開発のために、トヨタが10億ドルを投資して設立した(”Toyota’s Billion-Dollar Bet”参照)。

プラットCEOは、7日にサンノゼで開かれた会議でTRIの新しい開発拠点をアナーバーのミシガン大学近くに開設する計画と、守護天使の開発を発表した。

トヨタの手法にはは、新しい課題が伴う。特に、機械がドライバーの行動を理解し、管理する必要がある。トヨタは、富士山の近くにある巨大なドライビング・シミュレーターで、技術を試験する予定だという。シミュレーターは、サッカーコート2個分ほどの広さの格納庫内を動き回り、実際の事故に対する人間の反応を確認するために、公道での走行を「ドライバー」目線でリアルな映像とともに体験できる。

「自動車が望ましいと判断し、一時的にドライバーから運転操作を引き継いだ際、ドライバーがどのように反応するのかを検証しようとしています。今のところ、常に確実なことは、ハンドルは常にタイヤと同じ方向を向いている、ということくらいです」(プラットCEO)

トヨタが日本の富士山付近に建設したドライビング・シミュレーター

グーグルやテスラなど、自動運転車を開発する企業は他にもあるが、どの自動運転機能も、完全に作動させるか、停止させるかの2択だ。しかし、既存の安全技術にも、パワーステアリングや車線逸脱防止支援システム、自動ブレーキなど、部分的な自動化の例といえる機能は存在する。

より漸進的なアプローチには利点もある。完全な自動運転から手動運転への復帰には、困難が伴うおそれがあるのだ。いくつかの実験では、ドライバーが集中を取り戻すのに、8秒以上を要することが明らかになっている(“Proceed with Caution Toward the Self Driving Car”参照)。

ほかにも、プラットCEOは、トヨタが計画しているコンピューターに関する新しいアプローチについて明かした。既存の自動運転車に搭載されたコンピューターは、何千ワットもの電力を消費しており、電力効率を大きく高めるため、トヨタは脳模倣型チップの採用を検討しているという。脳模倣型チップは、従来型のコンピューターのように連続的にデータを処理するのではなく、並行処理するのが特徴だ。

TRIは、アナーバーに設立される新しい開発拠点のために、50人ほどを雇用し、ミシガン大学の自動運転車やロボット工学の研究者とも協力し、研究・開発する予定だという。

TRIは、既にカリフォルニア州パロアルト、マサチューセッツ州ケンブリッジにも開発拠点があるが、プラットCEOによれば、3カ所全てで試作車を試験する計画だという。中でも、アナーバーの開発拠点にあるMCityという自動運転車専用の試験施設は、さまざまなシナリオを再現するために作られた、実物大の実験施設だ(“A Town Built for Driverless Cars”参照)。

トヨタは、10年以上前から自動運転に関する技術に取り組んできたが、実際の道路での試験に関しては、グーグルなど他の企業に遅れをとっている。これは非常に大きな問題だ。というのも、自動運転車を制御するには、実際の走行データに基づきアルゴリズムの精度を高めることが必要不可欠だからだ。しかし、プラットCEOによれば、仮想空間での試験でも、現実世界と同じようにアルゴリズムの精度を高められるという。プラットCEOは、以前、トヨタの自動運転車が実用化されるまでには、1兆マイルの走行試験が必要になると発言したが、シミュレーションによる走行距離も、これに含まれるのだろう。

グーグル等も、シミュレーションによる走行試験をしていると明かしている。また、大学の研究者の間にも、高度に現実的な実質空間の活用が、自動運転車のアルゴリズムの高度化に役立つとする見解がある(“To Get Truly Smart, AI Might Need to Play More Video Games”参照)。

TRIのプラットCEOとジェームス・カフナーCTOは、今後の理想について、自動運転車の開発に取り組むすべての企業が、現実・実質空間の両方での試験データを共有することだと述べた。そうなれば、互いに得られるものがあるというのだ。

「安全への志は、公共財です。本物の志があるなら、私たちは力を合わせるべきだと、強く信じています」(プラットCEO)