パンデミックで急接近したスポーツと「eスポーツ」新しい観戦は定着するか?
コネクティビティ

Lockdown forced sports to go virtual. The experience will change it forever パンデミックで急接近した
スポーツと「eスポーツ」
新しい観戦は定着するか?

新型コロナウイルス感染症の拡散でロックダウンが続く中、リアルスポーツとeスポーツはかつてないクロスオーバーを実現した。プロのスポーツ選手たちがビデオゲームをプレイする様子が、ファン向けに何時間も放映されたのだ。 by Will Douglas Heaven2020.06.26

満員のスタジアムに響き渡る大歓声は、耳で聞くというより体全体で感じる唸りのようだった。マイクを持った司会者が観衆の興奮を徐々に煽る中、テクノミュージックが鳴り響き、照明が人々の頭上に降り注ぐ。そして遠くに見えるステージ上に選手たちが登場し、キーボードとPC画面の前に座り、自分たちの名前を叫ぶ1万人の歓声を遮断するためにヘリコプター・グレードのヘッドホンを装着する。

2年前、私はeスポーツについての短編映像ドキュメンタリーを製作するため、ポーランドのカトヴィツェへと訪れた。カトヴィツェにある巨大な多目的アリーナ「スポデク(Spodek)」は、1人称視点シューティング(FPS)ゲーム「カウンターストライク(Counter Strike)」や、ハイスピード戦略ゲーム「スタークラフト(StarCraft)」の世界大会であるインテル・エクストリーム・マスターズ(IEM)をはじめ、世界最大級のプロゲームイベントを複数開催している。これまでで最大のイベントはIEM 2018で、賞金総額100万ドル。約10万人のファンたちが会場に詰めかけ、ひいきのチームに声援を送った。

今年、プロチームは静寂の中で大会を競い合うことになった。2月23日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がヨーロッパでも拡がりを見せつつある中、カトヴィツェの地方政府は大会開始の半日前に通常開催の中止を決定した。大会は開催されたが、観客はいない。「観客のいない会場を目の当たりにするのは、本当に胸が痛みました」。IEMを主催する世界最大のeスポーツ団体ESLで、プロゲーミング部門を統括するミハル・ブリチャーツ副社長はそう語る。

IEM 2020は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた最初の大規模スポーツイベントの1つだ。以降、数百のスポーツイベントが中止となっている。サッカーのプレミアリーグ、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)、NBA、ナショナルホッケーリーグ(NHL)などに所属するトップアスリートたちにとって、シーズンの大半を家で過ごさなければならないことを意味する。だが自宅にインターネット接続環境があれば、ビデオゲームをプレイすることはできる。

この3カ月、メインストリーム・スポーツとeスポーツの間で史上最大のクロスオーバーが展開されてきた。チームや興行主は突如空きができてしまったスケジュールを自分たちのスポーツのビデオゲーム版で埋め、ファンとスポンサーの両者を満足させている。スカイスポーツ(Sky Sports)、フォックススポーツ(Fox Sports)、ESPNといった放送局は、アメリカンフットボールやサッカーのスター選手たちが「マッデン(Madden)」や「FIFA」といったeスポーツタイトルをプレイする様子を何時間にも渡って中継している。フォーミュラ・ワン(F1)は公式ライセンス契約を結んでいるビデオゲームで、グランプリをフルシーズンで展開してきた。オーストラリアでは、ナショナルラグビーリーグ(NRL)の所属チームがラグビーではなく「フォートナイト」でしのぎを削った。「さまざまな競争系のエンターテインメントがひしめき合っていた中で、突如として私たちがオンリーワンの存在になりました」とブリチャーツ副社長は話す。

だが、プレミアリーグのサッカーをはじめとするメインストリーム・スポーツのテレビ中継が再開される中で、eスポーツは今後どうなっていくのだろうか? 今回注目が集まったことで、eスポーツはブレークスルーを起こすことができるのだろうか? その可能性はあるが、それは通常とは異なった形になるかもしれない。今後eスポーツがゴールデンタイムで中継されるようなことがあるとすれば、そこでは硬派なハードコア・ゲームと同等に、料理対戦ショーの「セレブリティ・マスターシェフ(Celebrity MasterChef )」のような番組が注目されることになるかもしれない。

基本に立ち返る

ロックダウン実施後の対応は、メインストリーム・スポーツよりもeスポーツの方が速かった。激動の最中、バーチャルイベントの開催のために大会のあり方を完全に再設計せざるを得なかった大半のメインストリーム・スポーツとは異なり、eスポーツにとってこれは一歩後退といった程度のものだった。カウンターストライクなどのビデオゲーム大会に観客が集まるようになったのはこの10年ほどのことだ。それ以前のeスポーツの大会はすべてインターネット上で開催されており、今でも予選大会はオンラインで実施されることが多い。「10年前の状態に戻す必要があるというのはそれほど衝撃的なことではありませんでした。運営は可能でしたから」。ブリチャーツ副社長は話す。

リアルスポーツのチームにとって対応はそれほど簡単ではなかったが、他よりも準備が整っていたチームもある。多くのチームが、しばらく前からeスポーツに手を出してきた。たとえばフットボールチームのダラス・カウボーイズ(Dallas Cowboys)は、巨大なeスポーツセンターを所有している。ヨーロッパでは、プレミアリーグが実際の試合と並行してFIFAでシーズン大会を開催している。オーストラリアサッカー連盟も、同様のeスポーツ・リーグを運営している。

だが最も準備が整っていて、すばやい対応ができたのはモータースポーツだった。ドラッグレースからF1まで、数多くのモータースポーツを統 …

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