下水道のIoT化で 数億ドル節約、 米地方都市の挑戦
コネクティビティ

One city’s fight to solve its sewage problem with sensors 下水道のIoT化で
数億ドル節約、
米地方都市の挑戦

全米の下水道インフラの修繕には1兆ドル規模の費用が必要だとされている。インディアナ州サウスベンド市では下水道のIoT化により、その費用を大幅に節約することに成功した。 by Andrew Zaleski2021.05.17

インディアナ州サウスベンド市(人口10万人)では、市民のキッチンや洗面台、洗濯機、トイレの排水が、周辺地域の35の下水管を通って流れている。天気の良い日には、各下水管の終点の直前で、垂直型流量調整管が下水を遮集管に迂回させ、固形汚染物質や細菌がろ過される処理場に運ぶ。

米国の多くの都市と同じように、これらの下水管は雨水管と合流しており、「合流式下水道」と呼ばれている。合流式下水道は1880年代にコスト削減のために普及したが、大雨や雪解け水が遮集管の容量を超えるような悪天候の日には、汚水がそのままセントジョセフ川に流れ込んでしまう。これは、多くの問題をはらんでいる。糞便に含まれる細菌により、川での水泳やボート遊びが危険になる。病院からの廃水に含まれる抗生物質に耐性のあるバクテリアが自然界に放出され、増殖する。さらに、医薬品、殺虫剤、プラスチック、重金属、環境ホルモンなどが生態系に混入する。中でも最悪なのは、栄養豊富な有機物が流入することで、藻類が大増殖してしまうことだ。その結果、川や湖が有毒な汚泥で満たされ、野生生物や飲料水の供給が脅かされることになる。

理屈の上では、1972年水質浄化法により、都市(やその他の汚染者)が廃棄物を直接川に流すことは禁止されている。だが、実際には、都市やその他の汚染者は川にゴミを流し続けた。環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)の推計によると、米国では毎年2万3000件から7万5000件の越流(水があふれること)事故が発生している。越流は欧州でも大きな問題となっており、古い都市を中心に年間65万件発生している。1990年代半ばから、米司法省は水質浄化法に違反したとして、環境保護庁に代わって、アトランタ、ロサンゼルス、ホノルル、ボストン、マイアミ、シンシナティ、トレドなどの都市に対し、訴訟を起こしてきた。さらに多くの都市に対し、地方自治体がより厳しい罰則を避けるために拘束力のある条件に同意する同意判決を求めた。

米国全土の下水道は合わせて年間約32億立方メートルの未処理の下水を水路に流している。ミシシッピ川からメキシコ湾に流れ込む1年間の水量にほぼ匹敵する量だ。

環境保護庁は、サウスベンド市の不断の汚染問題について何年も前から警告していた。今世紀最悪の雨水と下水の越流が起こった2008年には、約760万立方メートルもの未処理下水が遮集管を通過してセントジョセフ川に流れ込んだ。

そして2011年、ピート・ブティジェッジが市長に就任する3日前、環境保護庁はサウスベンド市に同意判決に強制的に同意させ、最終的に8億6300万ドル相当の下水道整備を要求した。金利を足し合わせると、世帯収入の中央値が4万ドルに満たないこのラストベルト地帯の都市で、住民ひとり当たり約1万ドルもの負担額にもなる。

インフラが悲鳴をあげているサウスベンド市のような話は、残念ながらよく耳にする。2011年の夏、サウスベンド市から約400キロメートル東にあるエリー湖(五大湖の中で4番目に大きい湖)の湖面約4000平方キロメートルがアオコに覆われた。トレドやクリーブランドなどの都市からの下水道の合流水(農業や工業からの流出水も含む)により大発生したものだ。ニューヨーク・タイムズ紙は、「世界保健機関(WHO)の基準値の1200倍に相当する肝臓毒性のあるミクロシスチンが発生し、280万人の消費者の飲料水が汚染された」と報道した。

米国水道工事協会(AWWA)によると、米国内の全長約130万キロメートルにわたる下水道の3分の2は、60年以上経過しており、これらの下水管を修復するには1兆ドル以上の費用がかかる可能性があるという。米国土木学会は、公益事業者が2019年に下水管の交換に投じた費用を30億ドルと推定しているが、これは同学会が想定していた本来の想定金額より810億ドルも少なかった。

バイデン大統領が発表した2兆ドル規模のインフラ計画が法制化されれば、こうした状況を緩和する方向へと進むだろう。最近提案されたこの計画には、「飲料水、廃水と雨水システムの改修と近代化」のために、州や地方自治体に560億ドルの補助金と低コストの融資をすることが含まれている。

ただし、資金の問題が解決されたとしても、適正な改修をどう進めるかは別の問題だ。越流を排除する一つ目の選択肢は、合流式下水道を分離し、下水道と雨水管を別々にした新しいネットワークを一から作ることだ(この方法は、一般的にはとてつもなく費用がかかるとみられている)。二つ目の選択肢は、新しいインフラを構築して、越流部の容量を増やすことである。この方法は、ロンドンでも取り入れられている。2025年から、40億ポンド(55億ドル)規模の巨大なトンネルをテムズ川の下に掘り、しばしば越流が発生する34箇所の下水を、東に約26キロメートル離れた処理場に運ぶことを計画している、

これら二つはいずれも、より大きな穴を作って、大きな下水管を設置する、という方法に分類されるが、財政難に面している都市にとっては費用負担が厳しい。そこで、三つ目の選択肢として挙げられるのが、サウスベンド市が採用した下水道のスマート化だ。

2008年、サウスベンド市は市内の下水道の数十カ所のポイントに、下水の水深や流れを測定する機器のネットワークの設置を開始した。2011年には、センサーのデータに反応してバルブが自動的に開閉するリアルタイム制御装置を導入している。こうした装置はすでに他の都市でも導入実績がある。ケベック市が1999年に設置したほか、コペンハーゲン、ベルリン、ジェノバなどの欧州の都市でも、1990年代後半にはリアルタイムの監視・制御装置の導入が始まっている。

スマートウォーター・システムを研究しているミシガン大学のブランコ・ケルケス教授(土木・環境工学)は、「米国のほとんどの都市では、下水道を何らかの形で制御しています」という。「サウスベンド市は、全体が変動する様子をリアルタイムで見られるように下水道に大量の計器を設置し、実際に運用したことで、その象徴となったのです」。

長身でひげを生やしたアイルランド人のキアラン・ファーヒーは、サウスベンド市の職員として下水道管理計画を担当している。以前はアイルランドの環境保護庁に勤務していたファーヒーは、妻がサウスベンドにキャンパスを構えるノートルダム大学に就職したことを契機に、2015年に現職に就いた。アイルランド環境保護庁に勤務していた当時は水に関する規制を遵守するよう地域に指示を出す立場だったが、今では正反対の仕事をしている。サウスベンド市では、環境保護庁の命令に従いつつ、市が破産しない方法を考えなければならない。

「地域の経済的な負担を抑えながら、川を守る。そのスイートスポットを見つけるのが私たちの仕事です」とファーヒーは言う。

センサー設置以来、降雨量約2.5センチメートルあたりの下水道の越流は、2008年の約16.2万立方 …

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