パンデミックのストレスでダメージを受けた脳を修復する方法
生命の再定義

How to mend your broken pandemic brain パンデミックのストレスでダメージを受けた脳を修復する方法

最近になって人々の生活は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響から徐々に回復しつつあるように見える。だが、ストレスによって脳にダメージを受けたせいで、メンタルヘルスに関する悩みを抱えている人は依然として多い。 by Dana Smith2021.07.20

わいわいと騒げる日々が戻ってきた。少なくとも、広告主たちは人々にそう思わせたいようだ。2020年に売上が激減したあるチューインガムのCMは、パンデミックが終われば、人々が通りで抱き合い、公園でイチャイチャしているような、騒々しく自由な日々が戻ってくる様子を映し出している。マスクをしているときには、息の匂いなんて誰も気にしないからだ。

だが、現実は少し違う。米国人の日常は、今回のパンデミックの影響から徐々に回復しつつある。しかし依然として、対処する必要のあるトラウマを多く抱えている状態だ。このパンデミックで変わったのは、家族や地域、仕事だけではない。人々の脳もまた変化した。私たちはもう1年半前の自分と同じではないのだ。

2020年の冬、米国人の40%以上が不安障害やうつ病の症状を訴えていた。これは前年の2倍の数である。2021年6月には、ワクチン接種の増加や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例数の減少に伴い、このような症状を訴える人々の数は30%まで低下した。しかし、それでも米国人の約3人に1人がメンタルヘルスに関する悩みを持っていることになる。病院で診断可能な症状に加え、多くの人々が物忘れや集中力の低下、ぼんやりとする感覚など、パンデミックの影響による「ブレインフォグ」を経験したという。

そこで問題となるのは、私たちの脳は元に戻るのかということだ。そして、そのために何ができるのだろうか。

ストレスが脳に与える影響

どのような経験をしても脳は変化する。脳細胞間の接合部分であるシナプスを新たに獲得するか、あるいは失うかという変化だ。これは神経可塑性という現象として知られており、子ども時代や思春期に脳が発達する仕組みとなっている。脳の柔軟性は年齢を重ねるにつれて低下するものの、この神経可塑性の仕組みがあることで、私たちは大人になっても学習し、記憶を形成し続ける。このプロセスは、学習や記憶、そして脳全般の機能が問題なく働くために不可欠である。

しかし、多くの経験はまた、脳に作用することで、あなたが維持したかった、あるいは維持する必要があった細胞やシナプスを失わせる。たとえば、今回のパンデミックでほとんどの人が経験したストレスは、既存のシナプスを破壊するだけでなく、新しいシナプスの成長を阻害することがある。

ストレスがそのような現象を引き起こす仕組みの1つとして、コルチゾールに代表されるグルココルチコイドと呼ばれるホルモンの分泌を促すことがある。グルココルチコイドは、少量であれば、心拍数や呼吸数、炎症反応などを変化させることで、脳と体がストレス要因(闘争・逃走反応を起こすもの)に対応するのを助け、その体の持ち主の生存率を高める働きをする。通常は、ストレス要因がなくなれば、グルココルチコイドの量は減少する。しかし慢性的なストレスの下では、ストレス要因がなくならないため、脳内にこの化学物質が充満したままになる。 そして長期的には、グルココルチコイドの濃度の上昇が、うつ病や不安障害、物忘れ、不注意などの症状につながる変化を引き起こす可能性がある。

科学者たちは今のところ、今回のパンデミックによるこの種の脳の変化について直接研究することはできていない。しかし、過去1年半の間に実施された多くのメンタルヘルス調査や、長年の研究で得られたストレスと脳に関する知識から推察することは可能だ。

例えば、ある研究では、今回のパンデミックで失業や経済的不安などの金銭に関するストレスを経験した人々は、うつ病を発症しやすいという結果が出ている。慢性的なストレスによって最も影響を受ける脳領域の1つは海馬である。海馬は、記憶と気分の両方に重要な器官だ。金銭に関するストレスを抱えていた人は、数カ月もの間、海馬にグルココルチコイドを溢れさせていたことになる。その結果、細胞は傷つき、シナプスは破壊され、最終的に海馬は縮小してしまっただろう。海馬が小さくなることは、うつ病の特徴の1つである。

慢性的なストレスは、脳の実行制御の中心である前頭前野や、恐怖や不安の中枢である扁桃体にも変化をもたらすことがある。過剰な量のグルココルチコイドが長期間存在する状態は、前頭前野内、そして前頭前野と扁桃体の間にあるシナプスにとって害となり得る。その結果、前頭前野は扁桃体を制御する能力を失い、恐怖と不安の中枢であるこの脳の領域が暴走してしまうのだ。このような脳活動のパターン(扁桃体が過剰に働き、前頭前野との連携が十分でない状態)は、今回のパンデミック時に急増した症状の一つである心的外傷後ストレス障害(PTSD)の人によく見られる。とりわけ、第一線で働く医療従事者で顕著であった症状だ。

パンデミックが引き起こした社会的孤立もまた、脳の構造と機能に悪影響を及ぼした可能性がある。孤独感は、海馬や扁桃体の体積の減少や、前頭前野の結合性の低下と関連している。おそらく意外でもないだろうが、今回のパンデミックの時期に一人暮らしをしていた人は、うつ病や不 …

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